28話
ミヒャエル様がエルメニアにいらっしゃったというので、学校はその話題で持ちきり。
「みんな、ミヒャエル兄様のことばっかり聞いてきて、うんざり。」
学校から帰ってきて、ハンナに愚痴をこぼす。
「『夜会に出てもらえるようお願いして欲しい』とか、どれだけ厚かましいの?
たしかに、私の婚約者のギルベルト様の実のお兄様、私のお姉様の婚約者でどちらから見ても私の義兄だけど、そんなに親しいわけではないし、親しくても『あの家の夜会に一緒に行って欲しい』ならまだしも、『あの家の夜会に行って』なんて、そんな非常識なお願い、いくら義妹になるからってできないわよ。
そんなお願いをしてくるのは一人や二人じゃないのよ?」
私の怒りの言葉。
「カタリーナ殿下のご婚約者、将来のヴェストニア女王の王配ですから、皆様、気になるのでしょうし、繋がりを持ちたいのでしょう。」
ハンナは苦笑する。
「将来のヴェストニア女王の王配と繋がりを持ったからって、エルメニアにいるのに何の得があるんです?」
「『昔、我が家の夜会に来られた』とか他の人に自慢したいのよ。もう少し親しくなると、季節の挨拶状が来るかもしれない。それを見せびらかす。」
「そんなもの見せびらかされても、羨ましくないです。」
呆れたようにロッテが言う。
「私も羨ましいとは思わないわよ。そんな物見せられても鬱陶しいだけ。でも、世の中にはそれを羨ましく思われると思う人もいるわけ。」
本当、わからないわ。
「それは殿下が王女という身分だからですよ。」
ハンナにそう言われた。ハンナの言う通りなら、私がギルベルト様に降嫁したら、羨ましく思うようになるのかしら?
ギルベルト様が来てくれたとマーサが言いに来た。今日は展覧会に一緒に行く約束をしている。
ギルベルト様は私が応接間に入るなり「ああ、そのドレス」と言われた。
「はい。以前、贈っていただいたドレスです。このような感じのドレスは初めて着るので、少し緊張しています。」
いつもは明るい色のドレスだけど、今日は私が着たいと言ってへギルベルト様が贈ってくれた大人っぽい落ち着いた感じのドレス。深く濃い沈んだ緑色。アクセサリーも自己主張しないものを。
「陽だまりのようなドレスもよくお似合いでしたが、そのような感じのドレスもよくお似合いです。今度はそのようなドレスを何着か贈りましょう。」
馬車に揺られていると、さっき話していたことを思い出した。
「殿下、どうかなさったんですか?険しい顔をなさってますが。」
学校でミヒャエル様が人気なことを話した。厚かましいお願いをされたことも。
「世の中にはそんなお願いをする人もいますから。」
嫌そうに首を振った。ギルベルト様は王太子殿下の側近で王太子妃になるグロリア様の従兄弟。そんなお願いをよくされるのね。
「はい、あと宰相にも口添えして欲しいというのもあります。」
うわ、今迄見たことのないほどの嫌そうな顔。私の脳内コレクションに加えたけど、そんなお顔はあまりしないで欲しい。
ギルベルト様のお顔がいつもの優しい顔に戻った。良かったわ。こっちのお顔の方が、ずっとずっと素敵だもの。
カフェで軽く食事をしてから展覧会の会場に行くことになっている。テーブルに椅子が二脚、椅子は対面に置いてある。
「あの店員、王太子殿下のお言葉を無視してますね。殿下は『許してやれ』と仰るでしょうが。」
ギルベルト様の科白に私は少し吹き出した。
「ええ、お言葉を無視していますね。
しかし、椅子が二脚ならこういう並びが普通でしょうし、婚約者かどうか店の入り口で確認するのも変な話ですもの、仕方ないのかも。」
「私はエルメニアの臣として常にアーサー殿下のお言葉に忠実でありたいのです。」
ギルベルト様が真面目な顔でそう言ったので、二人で笑った。
カフェの中で笑い転げるわけにはいかない。ギルベルト様は自分で言ってとても可笑しかったようで、涙を浮かべて笑いを噛み殺している。私も自分の部屋ならハンナに注意されるくらい大爆笑しているところだけど、さすがにここではそんなことはできない。同じように涙を浮かべて笑いを噛み殺すしかない。
食べながらも思い出して笑ってしまう。思い出し笑いははしたないと思っても、してしまう。なんとか食べ終わって、馬車に乗った。
馬車では隣に座った。
「やっと王太子殿下のお言葉通りにできて安堵しています。先程のカフェでは王太子殿下のお言葉に背く行いを強いられて苦痛でした。」
ギルベルト様が真面目な顔でそう言う。言った後で笑い出した。私も笑った。
初めて隣に座ってから半年も経っていないのに、今では隣に座るのが当たり前になっている。馬車の中限定だけど。お屋敷の温室ではたまにギルベルト様が椅子を動かして私の隣に座ってくれる。手も繋いでくれる。さすがにそれ以上はないけど、ちょっと期待してたりする。期待通りの展開になっても、困るんだけど。寝る前に期待したそれ以上を想像して、一人赤面した。
展覧会の会場に着いた。会場には華やかなドレス姿の女性がたくさん。アクセサリーも煌びやかだ。それに引き換え私のドレスは大人っぽいといえば言葉はいいけど、言いかえれば地味ともいえる。アクセサリーも最低限。ハンナの見立てだし、マーサも今回の展覧会はこれで良いって言ったけど、本当にいいのかな?
ギルベルト様のエスコートで会場に入ると、みんなが注目した。うう、顔をあげて胸を張って。ギルベルト様の横に立つに相応しい女性にならなくては。
貴族の教養として絵画とか必要なのはわかっているんだけど、苦手なんだよね。それをギルベルト様が知ったら、呆れられて夫人としてふさわしくないと思われてしまうかも。でも、知ったかぶりをしてもいつかはバレちゃうし。それが他の貴族の前とかだったら、私だけでなくギルベルト様も恥をかいてしまう。
怖いけれど、苦手でよくわかっていないことを正直に言おう。そんなことでギルベルト様は私のことを嫌ったりしない、と思う。
「あの、ギルベルト様、お恥ずかしいのですが私、美術のことは苦手なんです。」
ギルベルト様の顔色を窺う。
「そうですか。誰にでも苦手なものはあります。それを克服しようとして、専門的な解説を聞いても余計に苦手になってしまいますから、とりあえずひと通り見て回りましょう。描かれている物のひとつひとつに意味があって主題を汲み取るようになっているのですが、慣れないうちはそんなことを考えずに、あそこが好き、こっちの方がいい、この組み合わせはわからない、など好きに鑑賞しても構わないと思います。気にいる作品があればいいのですが。もし、気にいった作品があれば教えてください。譲ってもらえるかもしれませんから。」
そう言ってくれた。展覧会だけど、売ってもらえることもあるのね。
ひとつひとつ、作品を見て回る。
「熱心にご覧になってますね。何か気になる作品が?」
声をかけてきた人がいる。オールドベリー公爵だ。ナタリー様もいる。ナタリー様の服装も私よりはマシとはいえ、地味。水色の無地のドレスにシンプルな水晶のアクセサリー。よく見ると、地味な装いの女性が大半。みんな華やかな格好と思ったのは目立ったからだけみたい。
ナタリー様が話しかけてきた。
「殿下、素敵なドレスですわね。」
「ギルベルト様からなの。」
「殿下によく似合ってる。やっぱり、好きな人のことはよくわかってるわ。」
地味な私は地味なドレスが似合ってるってこと?
「そうだねぇ、殿下の深い知性を体現したようなドレスだね。」
オールドベリー公がそう言ってくれた。ギルベルト様を見ると、視線を逸らされた。
その時、一際華やかな女性達が現れて近づいて来た。中心にミヒャエル様がいるけど、嫌そうな顔をしている。
「あら、ミヒャエル様、ご覧になって。あんな見すぼらしいドレス。」
「本当ですわ。地味でなんの装飾もないですわ。この会場、貧乏くさい服の人がたくさんいて、嫌になりますわ。」
そう言って、いやらしく笑った。
展覧会は社交の場。ある程度の見栄をはる必要がある。でも、大半の女性はシンプルなドレスを着ている。多分、それが正解。ここにいる大半の女性に喧嘩を売る気なのかしら?
「たしかにシンプルなドレスだが、この展覧会の作品の鑑賞の邪魔にならないだろう。君達の服装は自分が作品となって展示してある作品と張りあうつもりらしいな。」
周りから、クスクスと笑いが漏れてきた。ミヒャエル様の周りにいた女性は真っ赤な顔をして、走って会場から出て行った。
呆れた顔のギルベルト様。
「兄上、女性にあんなこと言ったら可哀想ですよ。」
「付きまとわれて迷惑だったんだ。自分を売り込んできて。どれだけ自信があるのか知らんが、いい迷惑だ。だからと言って邪険に追い払うわけにもいかないし。」
そううんざりした顔をした。
自分を売り込むって、画家だったのかしら?宮廷画家に取り立て欲しいってことかしら?
「先程の女性、画家なのですか?」
「え、あんな品のない服装で画家?あり得ないわよ。センスなさすぎる。」
ナタリー様が「信じられない」という顔をする。
「あ、職業は聞いてないが、趣味で描いてるのかも。」
ミヒャエル様がそう言うと、ギルベルト様は渋面で、オールドベリー公は笑った。
学校から帰るとケプラー子爵夫妻とカタリーナお姉様がいた。
「ルイーゼ、おかえり。毎日、頑張っているようね。」
「カタリーナお姉様、ようこそ。」
「『ただいま』ではなくて『ようこそ』なのね。」
カタリーナお姉様が笑う。
え〜、だってこのお屋敷、今はお客さまだけど、私が卒業してギルベルト様と結婚すれば「我が家」になるんだし。お姉様はこのお屋敷のこと、ケプラー子爵から聞いていないのかしら?私が返事しないでいると、
「このお屋敷のことは聞いているわ。随分と大事にされているみたいね。けれど結婚もしていないのに、嫡男夫妻の住むお屋敷に滞在させるのはどうなのかしら?」
そう言われた。
そんなこと言われても、公爵家が王都に持っている別邸の中で一番いいお屋敷だし、結婚した時に馴染めるように使わせてくれていて、私の好きなように調度類替えて良いって言われている。それに、嫡男夫妻が住むとは決まってない。
「公爵邸だと公爵やグロリア様がいるから、私が気兼ねしないようにしてくれてるの。ここだと私が女主人だから、私の好きなようにできるからって。」
「本当に大切にしてもらってるのね。安心したわ。お父様とお母様も心配してらしたから。
それが学校の制服?可愛らしいのね。よく似合っているわ。長期休暇で帰るときはそれを持って帰って、お父様達にも見せてあげるといいわね。とてもお喜びになるわ。」
お姉様ともっと話したいけれど、ハンナに制服を着替えるように言われた。
急いで制服を着替えて応接間に戻ると、ミヒャエル様とギルベルト様もいた。
「ギルベルト様、ミヒャエル兄様、いらっしゃいませ。」
「ミヒャエル兄様?」
「俺が言ったんだ。姉の夫、夫の兄、結婚すればどちらからみても義兄になるのに、ローゼンリッター卿はおかしいから。」
お姉様は「そうね」と納得した顔をした。
ギルベルト様達は挨拶だけに来たみたい。カタリーナ殿下はお疲れでしょうから、と少し話しただけですぐに帰っていった。お姉様はお疲れだけど、私は疲れてない。ギルベルト様は特にお姉様に用事はない。お姉様と玄関までギルベルト様達を見送る。応接間に帰るなり、「ルイーゼ、不満そうね」とカタリーナお姉様に言われた。
うわ、ヤバいわ。顔に出てたなんて。私は両手を頬にあてた。
「顔には出てはないけれど、何を考えているかなんて姉妹だからわかるわよ。辺境伯も貴女のことを大切に思ってくれているみたいね。良いことだわ。」
そう言ってお姉様は笑った。
「けれど、ルイーゼ、貴女達は政略結婚だということを忘れないで。周りの情勢次第で婚約解消、離婚となるということを。」
そう言って、悲しそうな顔になった。お姉様は「ケプラー子爵と話がある」と言い、私は応接間から出された。
どういうこと?いまさら、婚約解消なんていやよ。だって私はこんなにもギルベルト様のことが好きなのに。もしかして婚約解消になるような出来事があるの?あったの?
あ、お姉様とミヒャエル兄様の婚約。王家が同じ家と婚姻を結ぶなんてないもの。ヴェストニア王家はローゼニアと婚姻を結べばいいのだから、私とギルベルト様でもお姉様とミヒャエル様でもどちらでもいい。だから、お父様はお姉様とミヒャエル様との婚約の方をとったんだ。
涙が出てくる。仕方ないじゃないのルイーゼ。お姉様はヴェストニアの女王になるんだもの。お姉様には結婚して次代の国王を産んでもらわなければいけないもの。お姉様はお兄様の代わりに王太子としての仕事をしていたから、なかなか結婚できなかった。だから、お姉様とちょうどいい年の男性はほとんど残ってなかった。お姉様が結婚もせず子供もいなければ、私かヨハンナお姉様の産んだ子が次期国王になる。その時、私とヨハンナお姉様の子、どちらが国王になるかで揉めるかも知れないもの。お父様の判断は間違っていない。それに、同じローゼニアと結婚させるなら、外国であるノーザンフィールド公爵家に嫁がせるより、自国の臣であるアルトドラッヘン辺境伯から婿を取る方が、娘が手元にいて安心だもの。
「う、う、うわーん。わーん!」
ハンナもロッテも驚いている。応接間を出た時からおかしな、泣きそうな気配はあった。部屋に帰ってからは椅子に腰掛けて涙目で何かを思案しているふうだった。けれど、大声で泣き始めたのだ。
「殿下、殿下、どうなさったんです?」
ロッテが飛んでくる。
「お腹が痛いんですか?」
違う、痛いのはお腹じゃない。
なんとか状況を伝えようとする。
「う、う、ぶぇ、え、ギルベルト様と婚約解消になっちゃった。」
「はぁ⁈どういうことですか?」
ロッテが聞いてくる。そういえば、ロッテはさっきのお姉様の言葉、聞いてなかったもんね。
「カタリーナお姉様が私とギルベルト様は政略結婚だから、婚約解消だって。状況次第だって。」
それだけいうのが精一杯。
ロッテが首を捻っている。
「状況次第なら、まだ婚約は解消はされていないのでは?」
「もう、決定よ。だって、お姉様とミヒャエル兄様は婚約なさったもの。同じ家と婚姻を結ぶなんてあり得ないもの。だからお姉様はわざわざ私に『政略結婚だから婚約解消もある』と言ったんだわ。私が傷つくと思って、遠回しに言ったんだ。」
私は部屋を飛び出した。階段を駆けおり、玄関から出ようとしたところで「殿下、どちらに行かれるのです?」と騎士に止められた。
追いついたロッテやハンナに連れられて、部屋に戻される。驚いた様子のカタリーナお姉様が部屋に入ってきた。
「ルイーゼ、貴女が泣きながらお屋敷を飛び出そうとしたって聞いたんだけど、どうしたの?」
「最後にもう一度、ギルベルト様にお会いしたくて。会わせてください。ギルベルト様には迷惑でしょうけど、どうしても会いたいんです。」
お姉様は困惑している。
「顔を見たいのなら、こちらに呼ぶなり、公爵邸に行ったらいいけど。泣きながらお屋敷を飛び出すようなことはやめてちょうだい。
それに、『最後に』って、長期休暇まではもう少しあるでしょう?今、急いで会わなくても、明日でもいいじゃない。我慢できないほど好きなんでしょうけど。」
お姉様は私が騒いだらいけないから、婚約が解消になったことを隠している。長期休暇にヴェストニアに帰ったら、もうエルメニアに来ることはないんだ。
「お姉様、ハッキリ言ってください。私とギルベルト様の婚約は解消になったのですね?」
お姉様はさらに困惑した表情を浮かべる。私の言ったことが理解できないようだった。だからもう一度、同じことを言った。
呆れたような表情のお姉様。
「ルイーゼ、何を訳わからないことを言ってるの?婚約解消なんて。貴女、辺境伯と結婚したかったんじゃないの?
それにこの結婚はエルメニアも絡んでいて、そう簡単にやめたりできないわ。貴女もわかるでしょう。」
「でも、『政略結婚だから婚約解消もあり得る』って、先程、お姉様も仰ったでしょう。
お姉様とミヒャエル兄様が結婚なさるからローゼニアとの縁はできるわけだし、王家が姉妹で同じ家と婚姻を結ぶなんて有り得ないもの。」
「ああ、そういうこと。」
ようやくお姉様は私が考えていることが理解できたようだった。
「学校でもお姉様がミヒャエル兄様と結婚なさるから、姉妹で同じ家と結婚するわけはない。私の婚約は破棄されるって、言っている人もいて。」
そこで、また泣き出した。
お姉様は私のそばに来て、背中を撫でてくれる。
「あのね、ルイーゼ、絶対に同じ家と結婚しないわけじゃないのよ。普通は一人がその家と結びつけばいいだけで、二人も婚姻をする必要はないだけ。
貴女も私も同じ家と婚姻を結ぶのはそれだけローゼニアと強く結びつきたいから。それに、私の結婚相手となりそうな年の男性は国内にはいないし、外国に求めると外国勢力が入り込んでくることになるし。アルトドラッヘン辺境伯は国内の政治にはあまり口を出さないし。ちょうどいい相手だったのよ。
私が悪かったわ。『政略結婚だから』と言ったりして。でも、私達はどれだけ相手なことを思っていても、自分の思いより優先するべきものがある。それを忘れないで欲しかったの。」
それからお姉様に「ルイーゼは本当に辺境伯のことが好きなのね」と笑われた。
翌日登校すると、もうみんなお姉様が来たことを知っていた。お姉様が来たのは昨日よ。さすがにお姉様は私と違って客船で来たから、船の中で見た人とか、港で見かけた人とか(私が乗った貨物船と客船の着く港は少し離れている)いるのはわかるけど、みんな情報が早い。けれど、それにしても早すぎない?
お屋敷に帰ると、制服も着替えずにお姉様のいる部屋に行く。
「お姉様、ただいま。」
お姉様に抱きつく。家に帰ると家族がいるのはとても嬉しい。今日あったこと、なんでも聞いてもらいたい。だって、今迄、こんなにもお姉様を独り占めできたことはないもの。いつもヨハンナお姉様と取り合い。
早速、今日のカタリーナお姉様が来たことをみんなが知っていたことを話す。
「お姉様がいらしたのは、昨日のことよ。なのにみんな知っているの。不思議でしょう?」
「ルイーゼはのんびりしてるから。」
と笑われた。でも、でもね、昨日の今日よ。お姉様を見かけた人がいたとして、全員に手紙を書くわけないし、伝言ゲーム方式?わからないわ。
「もう少しお友達と仲良くなったら、ルイーゼにもわかるようになるわよ。」
お姉様は笑ったまま、そう言った。
それから「ノーザンフィールド公爵邸に呼ばれているから早く着替えてくるように」言った。
急いで着替えて公爵邸に向かう。ギルベルト様はもう学校から帰ってるかな?昨日はほとんど話せなかったから、今日はゆっくり話したいな。でも、お姉様がいるから二人きりになれない。
玄関にいたのはミヒャエル様一人。ギルベルト様もグロリア様も王宮に行っているらしい。
「ルイーゼどうしたの、そんな顔して。せっかく呼んてくださったのにそんなつまらなそうな顔をしては失礼よ。」
そうかもしれませんけど、ギルベルト様がいないのに、私が来る必要ないと思うのですが。
お姉様はミヒャエル様にエスコートされて廊下を歩いている。その後ろを私は一人で歩いている。二人とも、楽しそう。
ある部屋の前で止まった。ミヒャエル様がドアを開けてくれる。部屋にはいくつかテーブルと椅子のセットがあって、そのひとつにお姉様は案内された。
「ルイーゼはそっちのテーブルよ。」
お姉様に言われたテーブルに着く。お姉様とミヒャエル様は同じテーブル。私は一人。
メイドがお茶を持ってきてくれた。私の皿にはクッキーがたくさん。
「貴女がお菓子が好きだから、たくさん用意してもらったの。それ、全部食べきれなかったら、お土産にくれるそうよ。おかわりもあるそうだから、好きなだけ食べてね。」
そう言うと、お姉様はミヒャエル様と楽しそうに話し出した。お姉様もミヒャエル様もヴェストニアの人間なのに、この国王太子殿下のお言葉に従うんだ。隣にくっつくように座っている。でも、王太子殿下はそこまで言っていない。「婚約者は隣に座らないといけない」と言っただけなのに。
私はなんでお姉様が私が帰るのを待っていたのかわかった。この国もだけど、ヴェストニアでも婚約者といえども二人きりで会うなんてはしたないとされている。だから私を誘ったんだ。私と一緒に行けば、二人きりにならないから。でも、テーブルは別だし、あんなにくっついて隣に座って。あれで二人きりじゃない、って言われてもねぇ。
この大量のお菓子は口止め料か!侍女だとお菓子なんかで口止めできないもんね。
「ルイーゼ、食べないの?おいしいわよ。」
なんとしても食べさせて、口止めをさせる気だ。
「ケーキも食べたい。」
わがまま、言ってやる。
「まあ、この子は。」
「すぐに用意させましょう。」
その日、心ゆくまでお菓子を堪能した私はお腹を壊してしまい、ハンナに公爵邸で大量のお菓子を食べたことを白状させられて、怒られた。一緒に公爵邸に行ったカタリーナお姉様もハンナがケプラー子爵に話したみたいで、私の監督をしなかったことの苦言を呈されていた。お姉様は自業自得だけど、私はギルベルト様のお見舞いをいただいてしまい、とても恥ずかしかった。




