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23話

 薄ぼんやりした場所に私はいた。ここはどこだろう?何か黒いものが体に纏わりついている。これは良くないものだ。早く剥がさないと!必死で剥がして遠くに投げ捨てる。けれどもそれは剥がしても剥がしても、どこからともなく湧いて出て私に纏わりついてくる。

 その纏わりついてくる黒いものは何かを呟いているようだ。その声を聞いてはいけない、耳を傾けてはいけない、そう思うけれどその声は勝手に私の耳に入ってくる。

「苦しい」

「なんで私がこんな目に」

「あの女さえいなければ」

「私のものなのに」

「出て行け」

「苦しめ」

「死んでしまえ」

「殺せ」

「いい気味」

いつしか私はその黒いものに飲み込まれてしまった。


 う、眩しい。

「殿下、いつまでベッドにいるんです?早く起きて支度をなさらないと遅刻しますよ。」

ロッテの声だ。

「ああ、ロッテ、良かった。私、助かったのね。」

「夢でもご覧になったんですか?え、ちょっと殿下、すごい顔色ですよ。汗もすごいし。

ヘルマン夫人!」

「本当ですね。今日は学校をお休みしましょう。ロッテ、マーサにお医者様をお願いして。それから、身体を拭いてからお召し替えになった方が良いからお湯も。」

ロッテは走って部屋を出て行った。

 私はノソノソと起き上がろうとするけれど、身体が重くて中々動けない。寝衣が汗でぐっしょり濡れて纏わりついて気持ち悪い。寝衣が汗で纏わりついて不快だったから、あんな夢を見たのかしら。

 身体が思い。自分の身体じゃないみたい。ようやく起き上がって寝衣を脱いでいるとマーサがお湯を持って入って来た。

「湯冷しです。お身体を拭く前に水分の補給を。」

水が身体にしみわたっていく。少し頭がスッキリした気がする。

 ハンナが身体を拭いてくれる。ロッテは新しい寝衣を持ってきて着せようとした。

 私は首を振りながら「ちょっと夢見が悪かっただけだから大丈夫。学校に行く」と言った。ハンナの答えは「とにかくお医者様の診察を受けてから」だった。

 公爵家のかかりつけの医師がよばれた。

「慣れない異国暮らしや学校で身体的にも精神的にも非常にお疲れのようです。しばらく休養が必要です。」

医師はそう言った。

 せっかくお友達ができたのにここで休んだら疎遠になる気がするし、何より夜会の翌日に休むのはみっともない気がする。が、医師の指示なので休むことになった。

 自室で朝食を取る。食事内容もいつものよりあっさりしたものに変更されており、より自分が静養が必要なことを思い知らされる。

 食べながら涙が出てきた。昨日のお散歩、楽しかった。ローロー公園にもまた行って今度こそワニを見たいし、ラクダにだってまた乗りたい。ギルベルト様もまた散歩しようと言ってくれたし、ローロー公園だけでなく、他にも行こうと約束してくれた。

 けれど私は疲労で休養が必要だから当分一緒にお出かけ出来ないし、出かけられるようになっても「また疲労が蓄積して倒れたらいけないから」と二度と一緒にお出かけしてもらえないかもしれない。

 しれないのではなく、きっとしてもらえない。何故なら私は一緒に出かけたくなるほどの美人じゃないもの。どちらかといえば、一緒にいたくない方かも。昨夜の夜会に出てた人達だって扇子の陰で「え、あの人が?」と軽蔑的な笑いをしていたもの。ギルベルト様も王宮主催の夜会なので仕方なく私をエスコートしたんだ。夜会の翌日に疲労で学校を休むようなら、もう一緒に夜会に言ってもらえない。

 「う、う、え、え、」

「殿下、また良くないことを考えているんでしょう?お腹がすいたり疲れていると良くないことばかり考えてしまうんです。だから、とりあえず寝るか食べるかどちらかにしてください。」

ロッテが言った。

「う、う、食べる、、、」

その言葉にハンナはホッとした顔をする。疲労がひどければ、食事すらままならないからだ。

 食事の後はゆっくり寝るように言われた。ハンナがベッドの横に座る。子供の頃のように、眠るまで座っていてくれるみたい。

 子供の頃はハンナは眠る前にお話を読んでくれたけれど、今日は私がハンナに話しかけた。

「ハンナ、どうして私はカタリーナお姉様やヨハンナお姉様みたいに美人に産まれなかったのかしら?お母様は美人だし、お姉様達が美人になるのを全部取ってしまって、私の分は残らなかったのかしら?」

ハンナは黙って聞いている。

「ギルベルト様はとても、男の人に使うのはおかしいのかもしれないけれど、とても美人でしょう?私が美人だったら釣り合うのに、と思うの。他の人もそう思ってるでしょうし、夜会でもそんなことを言っている声が聞こえたの。ギルベルト様も私みたいな不細工な娘じゃなくて、もう少し人並みな美人だったらと思っているんじゃないかと思ってしまって、、、」

また涙が出てきた。

 本当にどうしてもうちょっと美人に産まれなかったのかしら。美人だったらギルベルト様とも釣り合うし、ギルベルト様も私のことを好きになってくれるのに。

 ハンナは頭を撫でてくれた。

「殿下はご自分に自信がないのですね。ハンナには辺境伯は殿下のことをとても大切に思っておられるように見えますが。

さ、もうお寝みください。目を閉じてゆっくりするだけでも違います。しばらく、ここにいますから。」

 私は自信がない。ギルベルト様は私のことを『魅力的だ』と言ってくれたし、大切にしてくれているのはわかっている。多分、美人に心動かされることもないと思う。それでも不安になる。

 私にもギルベルト様との婚約の前に数は少ないけれど縁談はあった。けれど、どれも話があっただけ。まあ、進展していれば、今ギルベルト様と婚約していないわけだけど。私と話があった人はその後、他の人と結婚したり婚約したりした。相手はみんな私より美人だった。

「やっぱり、男の人は美人が好きなんだ。」

その度に泣いてハンナに慰められた。カタリーナお姉様も「思い込みよ。そんなに美人でもない人もいたわよ」と言っていたけど。

 あの頃は小さかったから単純に「私が美人でないから」が理由だと思っていた。お姉様たちのように縁談が沢山ない理由も。今は違うとわかっているけれど、やっぱりその時の惨めな気持ちを忘れられないから。

 目を閉じると、そのまま寝てしまった。起きると夕方だった。少し寝たせいか、身体がずいぶんと軽い気がする。着替えずに寝衣の上にガウンを羽織って過ごすことをハンナに提案された。ハンナがそんなだらしないことを提案するほど私は休養が必要なのだろうけど、楽チンだから大賛成。

 馬車の音が聞こえた。屋敷内もバタバタしている。多分ケプラー子爵だろうが、誰か来たらしい。容体をハンナが知らせたのだと思う。一寝入りした夕方なら私が目覚めている可能性が高いから今頃来たのだろう。

 ノックの音がする。会うにしてもケプラー子爵なら、このままでいいや。子爵はお父様の学友で私の小さい頃から知っているから、ある意味父親と変わらないもんね。そして、私の小さい頃の恥ずかしい話を幾つも知っている。格好つけて着替える必要なんかない。というより、そんなこと、今更格好をつけても仕方ない。

 ロッテがドアを開けるなり話し出す。

「殿下、辺境伯が来られました。合法的にお寝衣を見せるチャンスですよ!さ、早く辺境伯から贈られたお寝衣にお召し替えを。

あ〜、今朝、汗を沢山かかれて洗濯してまだ乾いてない!」

その場に崩れ落ちる。そんなに落胆するほどのことか?それに結婚もしていないのに合法的に寝衣を見せるチャンスなどないし、あっては困る。

 たしかに以前私は「贈られたお寝衣が可愛いので見せたい」と言ったわよ。でもその発言を後悔してるし、ロッテもそれを知っている。何なら私を非難したじゃないの。なのに、私に寝衣を見せるように勧めるなんて、おかしくなっちゃったの?それに着替えるのなら寝衣じゃなくてせめて部屋着でしょうよ。

 ハンナが笑っている。笑うしかないという笑い。

「殿下、早くお召し替えを。辺境伯だけでなく、グロリア様もお越しです。」

急いで部屋着に着替えた。部屋着といっても、いつものだらしのない部屋着とは違うけど。

 応接間にはギルベルト様とグロリア様が並んで立っていた。

「どうぞ、かけてください。」

二人は私の向かい側に並んで座る。当然と言えば当然だけど少し悲しい。悲しいというより嫉妬かな?その両方。ギルベルト様の隣に座りたかった。

 心配そうな顔のギルベルト様。

「殿下、過労と伺っております。

ヴェストニアからの長旅のお疲れも癒えぬうちに学校が始まり、さらに昨夜も夜会の後、散歩にお誘いしたりして申し訳ございません。」

謝られてしまった。毎日、とまではいかないけれど、割合ぐっすり眠ってました。涎を垂らして。今朝の夢見が悪かっただけで。

 私はヴェストニアの宮廷医師のシュミット先生にも散歩は勧められているし、自分の不摂生が原因なの

で気にしないように言った。

 グロリア様が「お見舞いに」と木の輪に糸が張ってある物をくれた。

「体の具合が悪い時には良くない夢を見ることが多いです。これは良くない夢を防いでくれる異国の魔除けです。ぐっすり眠って、早く良くなってください。」

二人は帰って行った。

 それから毎日、ギルベルト様は来てくれた。来ても、王宮で仕事があったり、無くても私が疲れないようにちょっとの間しかいない。けれど、お顔が見られるだけで幸せだった。具合が良くなっていく気がする。

 登校の許可が出るまで、十日も学校を休んだ。

「いいですか?決して無理をなさいませんように。もし、少しでもしんどいようならすぐにお帰りになるのですよ。」

ハンナにしつこく念を押されて登校した。

 教室に入るとソフィア様が駆け寄って来た。ソフィア様はお見舞いに来なかったことを詫びた。

「お疲れなのでお見舞いにはいかずにゆっくり静養していただく方がいいかなって。お父様もその方がいいって。」

「励ましのお手紙をくださったでしょ。ありがとうございます。」

お見舞いのお手紙はデイジー様からも来ていた。他にも数名。お手紙はせっかく仲良くなったのに忘れられたらどうしようという不安を打ち消してくれた。

 ソフィア様やデイジー様、他の令嬢達と話しているとエヴァンジェリン様が来た。

「殿下、ごきげんよう。慣れない外国暮らしでお疲れになり、帰国なさったのかと思いましたわ。」

それだけ言うと、サッサと自分の席に行った。

「何言ってるの?過労なのに帰国したら長旅で更に疲れるじゃないの。」

ソフィア様がボソッと呟いた。

 久しぶりの学校。登校できて嬉しいけれど、私にはしなければいけないことがあった。万年筆を忘れて帰っていたのだ。忘れた場所は地理の教室。授業が終わると同時に教科書やらを机から落としてしまい慌てて拾ったけど、万年筆だけ拾い忘れたらしい。

 十日も前の落とし物が地理の教室に残っているわけはないから、拾得物や遺失物の管理をする事務室に放課後に行く。ソフィア様がついて来てくれた。

 結論を言うと、私の万年筆はなかった。

「殿下、疑うようですけれど、本当に地理の教室に落とされたの?」

「地理の時間に使ったの。最後の授業だったでしょう。教室に帰って鞄にそのまま荷物を入れて帰ったの。お屋敷で鞄から出した時に入ってなかったから、机のものを落としてしまった時に一緒に落として拾い忘れたと思っていたのですけれど。」

どこかの隙間に入り込んでいるのかも、と地理の教室に行ってみることにした。

 残っていたデイジー様も一緒に探してくれることになった。

「やっぱりありませんわね。カーテンの裏とか机の陰にもなさそうですね。掃除も毎日されてるでしょうし。」

「他で落としたとしても、事務室に届いてないとおかしいですし。以前殿下は婚約者の辺境伯から贈られた万年筆だと話されたことがあったから、殿下の物だと気付いた人が直接返そうと思ったけど返し忘れてるのでしょうか?」

「私が十日も休んでしまったので、そうかもしれません。でも、違うかも。もう一度、馬車やお屋敷を見てみます。

お手を煩わせて申し訳ありません。」

 馬車乗り場まで一緒に歩いていると、エヴァンジェリン様に出会った。ちょうど馬車に乗るところだったみたい。私の方をじっと見ている。

 なんで私の方を見てるの?ってか、まだ帰ってなかったんだ。私より先に教室をでたのに。残る用事、なんかあったのかな?

「今頃お帰りに?お先に失礼しますわ。ごきげんよう。」

そう言ってサッサと馬車に乗り込んで帰ってしまった。

 デイジー様が呆れたような顔をする。

「殿下がここにいらっしゃるのに、先に馬車に乗るなんて。」

「でも、もう乗られるところでしたもの。それに私がギルベルト様と結婚すれば同じ公爵でもあちらは筆頭公爵ですし。

私達も帰りましょう。今日は私のせいで遅くまで残っていただいて、ごめんなさい。ご家族が心配なさってますわ。」

律儀にもソフィア様もデイジー様も私を見送ってくれた。

 お屋敷に帰ると、ケプラー子爵が来ていた。私の体調を心配してくれたらしい。

「お帰りが遅かったので心配しました。何かあったのではないかと。」

私が事情を説明すると

「カルマン伯爵家とボルモア侯爵家もご令嬢のお帰りが遅くてご心配だったでしょう。」

と言った。

 子爵と話しているとギルベルト様が来た。ギルベルト様も私のことを心配してくれていた。

「今日は久しぶりの学校でお疲れになったでしょう?それで、万年筆は届けられてましたか?」

ギルベルト様、万年筆を学校に落とした話を覚えていてくれたんだ。ギルベルト様にとって「つまらない話」だと思うのに、ちゃんと聞いていて覚えてくれている。私はギルベルト様にとって、その他大勢の存在ではないと思わせてくれる。とても嬉しい。万年筆が出てこなくて沈みかけた気持ちが浮上してきた。

 私は放課後のことを話した。

「それは変ですよ。殿下が学校を休んで直接渡せないのなら、事務室に届けるなり、お屋敷に直接届ければいいことです。返し忘れるほど持っているなど。」

「私がこんなに長く休むなんて思っていなくて、登校したら渡そうとしていたのかも。事務室に届けるのも直接お屋敷に持ってくるのも、その日か翌日のうちにしないとやり辛くなると思うんです。だから、明日あたり私の机の上に置いてあるかもしれません。」

私がそう言うと、「そうかもしれませんね」とギルベルト様は笑った。

 翌日、教室はざわついていた。いつもざわついているけど、いつものざわつきとは違う。どうかしたのかしら?

「おはようございます。」

いつものように挨拶をすると、教室がシンと静まり返った。私が初めて登校した時と同じ。でも、その時とは違って級友の顔は青ざめている。

 私は自分の席にいくと、そばにいた一人に話しかけた。

「皆様、どうかなさいましたの?」

私が話しかけた令嬢は青ざめたまま首を横に振るだけ。一体、何があったのかしら?

 その理由は既に登校していたソフィア様が教えてくれた。私のなくした万年筆が机の上にあり、万年筆は壊れていたらしい。

「朝、掃除の者が見つけたらしいの。落としただけではそうはならない壊れ方をしていたみたい。」

掃除の者が見つけたのは生徒がいない時だと思うけど、なんでみんな知っているの?

「先生方が騒いでいましたもの。掃除の者は泣いているし。」

掃除の人、第一発見者だろうし疑われたのかしら?

 その日は一限目の授業の途中でみんな帰された。私が帰るとお屋敷の者はみんな驚いた。私の体調が悪くて早退したと思ったみたい。事情を説明して自分の部屋に戻った。

 しばらくすると、ケプラー子爵夫妻がお屋敷に来た。

「殿下、万年筆のことはお聞き及びだと思います。そのことで昼過ぎに学園長と理事長がお屋敷に参ります。」

 昼過ぎに来た学園長と理事長は宰相のロイド伯爵と一緒だった。王女の万年筆が壊れて見つかるという事態。ヴェストニア側が「王女を害する意思がある」と、また婚約の時にギルベルト様から贈られた万年筆なので、それを壊すというのは「この結婚に反対している」と騒ぎ立てれば国際問題になりかねない。エルメニア側からすれば私がそんな万年筆を無くした時点で同じことを主張したいでしょうけど。

 だから私は「犯人の追及はしないで欲しい」と言った。万年筆を拾い忘れたことに気付かなかったのは自分の落ち度だもの。

「見つけた時から壊れていたのかもしれませんし、拾って事務室に届けるなり私に渡そうとして持っている間に意図せず壊してしまい、返し辛くなったのかもしれません。掃除の者もこんな万年筆を見つけてしまい、困ったと思います。

どんな形であれ、私のところに返ってきたのでよかったです。」

本当に掃除の人には申し訳なかったわ。

 理事長も学園長もホッとした顔をしている。宰相も顔の険しさが少し和らいだようで、帰って行った。

 夕方、ギルベルト様が来た。万年筆のことを聞かれたので、今日あったことを話した。

「そうですね。まあ、問題が大きくなっても困りますし、そのように仰るしかないですね。

万年筆がなくてお困りでしょう、明日にでもマクミラン商会を寄越します。」

と言ってくれた。

 寝る前にロッテが万年筆のことを口にした。

「どうして殿下が登校されてから机の上に置いたのでしょう。壊れていたにしろ、壊したにしろ、出来るだけ早く手放したいでしょうに。」

「私が登校したから思い出したとか、壊してしまったので知らん顔をしようと思ったけれど私を見たら良心が咎めたのでコッソリ返したとか?

どちらにしても、私の管理不行き届きだから、この話はお終い。」

 ロッテとハンナを下がらせた後、涙が出てきた。ギルベルト様からの初めての贈り物の万年筆だったのに。

 翌日、お屋敷にマクミラン商会の会長の息子とギルベルト様が来た。

「せっかく、来てもらったのだけれど、これ、修理できないかしら?」

私は壊れた万年筆を出した。素人の私が見ても修理など無理だとわかるけど、もしかしたらってことがあるかもしれないし。「かなり厳しいですね」と遠回しに断られてしまった。

 色々と見本を出して見せてくれる。定番もいいし、今流行りの物もいいし。どれも素敵でどれを選べばいいのか悩んでしまう。

 悩んでいると「殿下」とギルベルト様が話しかけてきた。

「せっかくですので、お揃いの物にしませんか?そうすれば、離れていても、いつもお互いのことを身近に感じられるでしょう?」

お揃い!ギルベルト様と一緒!ちょっと恥ずかしいけれど、とても嬉しい。

 見本の中から選んだのでは他の人ともお揃いになってしまう。なので特注することになった。ギルベルト様が模様の鳥と木をサッと紙に描く。この鳥も木もなんか変。鳥は頭が二つあるから二羽のはずなのに、翼は二羽合わせて二枚しかないし、木は二本の木の枝が絡み合っている。絵は上手なんだけど、構成というか、とにかく変。

 私はそう思ったんだけど、マクミラン商会の息子はニヤニヤしだした。変なデザイン画と思っているのかしら?随分と態度が失礼だけど、ギルベルト様と彼は小さい頃からの知り合いだというし、それにニヤニヤとしているのにイヤらしい感じは受けない。

「なんだよ、コリン。殿下が卒業なさったら結婚するんだし、いいじゃないか。」

「私は別に何も言ってないじゃないですか。

けれど、これを万年筆にとなると時間もですが、小さすぎてゴチャゴチャしてしまいます。どうしてもこのデザインが良ければ文箱などの大きな物をおすすめします。」

 結局、ギルベルト様は船、私は小さな灯台の絵になった。お揃いじゃないと思う。お揃いって言ったのに、、、マクミラン商会の息子も「そうですか、そうきましたか」なんてわけわからないこと言ってるし。

 そんなに経たずに万年筆は出来上がってきた。

「他にも何本も万年筆があると思うんです。

私も新しくできた万年筆を使いますから、殿下にもこれを使ってもらえると嬉しいです。いつも一緒にいる気持ちになれるから。

早く結婚して、本当に一緒になれるようになりたいです。」

不細工な地味子の私がそんな科白を言ってもらえるような日が来るとは思わなかった。政略結婚のお飾りの妻。そんな未来しか描けなかった。ギルベルト様の科白は政略結婚の婚約者に向けてのものかもしれない。でも、この言葉を信じようと思うし、信じられた。

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