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18話

 翌朝、起こされる前に目が覚めた。今日は昨夜ギルベルト様がアドバイスしてくれたように私から級友に挨拶をしよう。

 馬車を降りて教室へ。途中で何人もいたけれど、全員に挨拶するわけにもいかないし、選んで挨拶するのもダメだと思うし。それにみんな私を避けてヒソヒソ言っているような、、、これ、絶対、気のせいじゃないわ。

 まあ、仕方ないと思うわ。私の身分的に迂闊に近づきたくないんだろうと思う。それに今の私は不審な動きをしているもの。自分の教室がどこかわからない。いわゆる迷子という状態。ウロウロ、キョロキョロ。私でもそんな人がいれば遠巻きにして近寄らない。でも、誰か助けて!

 私に近づいてくる人がいる。イザベル様だ。

「殿下、おはようございます。ここは三年生のエリアですけど、どうさなさったのですか?」

「イザベル様、おはようございます。あの、私、自分の教室がわからなくて。」

迷子になったなんて恥ずかしいことだけど、このまま自分の教室にたどり着けない方がもっと恥ずかしい。

 イザベル様は一緒にいたお友達に「殿下をご案内してくるわ。先に教室に行ってて」と言って、私の教室まで送ってくれた。

「イザベル様、ありがとうございます。お友達とお話しなさっていたのに申し訳ありません。」

「お気になさらずに。私も入学した頃はよく迷いましたから。困ったことがあれば、いつでも仰ってください。いつでも訪ねてらして。」

イザベル様は私を案内すると戻っていった。

 教室からは楽しそうな話し声が聞こえていたのに、私がドアを開けると途端に静まり返る。そしてみんな一斉にこちらを向く。私に注目している。なのに目が合いそうになるとさりげなく逸らして誰も目を合わせてくれない。悲しい。

 でも、悲しんでばかりはいられない。挨拶をしなければ。一人一人にしようとしてもきっと逃げられる。教室に入る時にみんなにまとめてしちゃえ!

「おはようございます。」

一瞬、みんな面食らったようだった。誰も挨拶を返してくれない。仕方ない、仕方ない。これから、これから。自分の席につく。私の通り道にいる人には挨拶しようと思ったけれど、すうっといなくなる。そこまで、私のことを避ける⁈

 授業、と言っても去年のおさらいが二限あった。一限と二限の間には休憩時間があったけれど、授業が終わると私の周りの人はサッといなくなり、次が始まる直前に席につく。話しかける隙なんてない。それは放課後も同じ。

 帰るために馬車のところまで一人で歩いていると、イザベル様とお友達が話しているのが見えた。楽しそうに何か話しているわ。盗み聞きをするつもりはなかったけれど、聞こえてきた。

「イザベル、よくヴェストニアの王女になんか話しかけるわね。恐ろしくないの?」

「別に。ギルからも殿下のことを頼まれているし、何が恐ろしいの?」

「そう?私は恐ろしくてダメだわ。だってあの王女のせいでトレア大公国のロクサーヌ殿下は辺境伯との仲を裂かれたという話じゃない。自分が辺境伯に愛されていないから、憂さ晴らしに他の人が婚約破棄されたり離縁されたりするようにしむけているって。実際、何人も婚約破棄や離縁になったでしょ。イザベルのお父様は第一宰相だから大丈夫かもしれないけど、」

私はたまらなくなって、駆け出した。

 馬車のところまで駆けて行って、飛び乗った。護衛の騎士が驚いていたので、私は泣いていたんだと思う。とにかく馬車はお屋敷に向かって出発した。馬車の中で涙がポロポロ落ちてきた。

 私はギルベルト様に愛されていないの?ギルベルト様が私に優しくしてくれるのは私が他の人の婚約破棄をさせているのを防ぐため?私の下手な刺繍のハンカチを嬉しそうに胸におさめたのはお芝居?あの、小さな宝石の指輪は本当は頑張って得た領の収益ではなくて、好きでもない私にお金を使いたくなかったから?

 いろいろ悪いことばかり考えが浮かんでは消え、また浮かんでくる。馬車がお屋敷についてドアが開いたことに私は気づかなかった。

 なかなか私が降りてこないので、ハンナが馬車の中を覗く。ポロポロ涙を流している私を見たハンナは驚いた。

「殿下、どうなさったのですか?何があったのです⁈」

私はノソノソと馬車から降りて「なんでもない」とだけ言って自分の部屋に帰っていった。

 部屋にはロッテが付いて来て、制服から寝衣に着替えさせてくれた。

「まだ昼なのになんで寝衣?」

「慣れない学校で疲れているからです。お身体だけでなく、精神的にもお疲れのはずです。ただ、お疲れを自覚できていないだけかと。」

私は疲れているのか。

「ゆっくり休むわ。昼食もいらない。だから、ロッテも下がっていいわ。」

「いいえ、ここにいます。学校で何があったか知りませんし、無理に聞こうともしませんが、一人になったら絶対良くない方向に考えが行きます。暴走しちゃいます。殿下には早く元気になって、オヤツをしっかり召し上がってもらわないと。」

自分がオヤツを食べたいだけか。

「私にオヤツを分けてもらいたいだけでしょう。」

「バレましたか。美味しいオヤツの分け前に与るという使用人の幸せも考えてください。」

そう言って、ベッドの横に椅子を持って来て座った。

 ロッテが私に元気になって欲しい理由はオヤツか!ロッテにとって私とは、、、

 ベッドに入ったけれど、ちっとも眠くない。

「ねえ、ロッテ。自分の嫌な話が耳に入ったらどうする?」

「悪口でも言われたのですか?」

そうね、あれは悪口、中傷。他の人を婚約破棄、離縁させようとしているのはまったくのウソ。でも、トレア公女とのことはわからない。もしかしたら私との話が出たからロクサーヌ様と結婚出来なかった?止まっていた涙がまた出だした。

「殿下、何があっても、どんな時も私は殿下の味方ですよ。だから、オヤツを分けてください。」

ありがとう、ロッテ。でも、最後の一言で台無しよ。私の心に負担をかけないために、そう付け加えたのはわかっているけれど。素直じゃないんだからロッテは。

 ドアがノックされてハンナが入ってきた。ケプラー子爵が来ているという。私が泣いて帰ったので、ハンナが呼んだのだと思う。ベッドから出て着替えて降りていった。

 子爵は夫人を伴っていた。

「殿下、どうなさったのですか?」

子爵の問いに私は「なんでもない」と答えた。私に対する中傷を口にした人物がいるとわかれば、ヴェストニアとしてはその人物の取り締まりをエルメニアに要請しなくてはいけないし、エルメニアとしてもその人物を罰しなくてはならないからだ。

 子爵には私が嘘をついていることがわかったみたいだった。

「なんでもないわけはないでしょう。護衛の話では馬車に泣きながら乗られたそうですね。学校で何があったのですか?ことの次第によっては、エルメニア側と協議して対処しなければなりませんし、殿下がお話にならない場合、学校側に何があったのか調査をお願いすることになって、話が大きくなってしまいます。」

子爵はそう言った。

 仕方ないので、私が聞いた話を子爵にした。

「身分ある女性には良くある類の中傷ですが、婚約破棄や離縁させているまで言われるなど悪質ですね。迂闊に否定すると真実だと取られかねないし、厄介なことです。」

「殿下がこちらに来られてから一度もお茶会や夜会のお誘いがないのはそのような噂があったからなのですね。

辺境伯はトレアの公女殿下と婚約するという話もあったようですし、公女殿下も夜会でそのように発言なさいました。それに、殿下と辺境伯はそれぞれの家を訪問しあうことはあっても、一度もご一緒に外出されたことはありません。昨今では昼間であれば親の代わりに友人の付き添いで婚約者同士で出かけることもあるようですから、なおさらそのような噂がたってしまったのでしょう。

辺境伯がお忙しのは存じておりますが、協力をお願いして、行動で噂が噂に過ぎないことを証明していくしかないと思います。下手に否定をすると、余計に噂になってしまいます。

それから学校で他の生徒から遠巻きにされる件ですが、殿下にはお辛いでしょうが、仕方ないことだと思います。殿下の王女というご身分は意識せざるを得ませんし、お人柄もわかりません。また、皆様、少なくとも入学した一年前からお知り合いですでにグループができていますし、場合によっては代々家の付き合いのある、生まれた時からというご令嬢のグループもあるでしょう。すでに出来上がっているグループに入っていくのは大変なことです。殿下はお気になさらないかもしれませんが、聖白百合学園は貴族子女を対象としているということですので、令嬢方の社交界といえるでしよう。身分を意識せざるを得ません。身分的にお招きしづらいご令嬢のグループもあると思います。一番身分が高い令嬢がいるグループを差し置いてお招きはできませんから。殿下が言えばどこのグループでもいれてもらえるでしょうが、その場合、選ばれなかった高位貴族グループの反感を買うことも考えられます。そうなれば、人脈を築くどころではありません。

まだ学校に通い始めたばかりですから、焦らずにゆっくりといきましょう。」

子爵夫人は言った。

 夫人は自分のことを「無教養な田舎者」ととても卑下するけど、そんなことは全然ない。下位貴族でありながら国王の友人で側近という難しい立場の夫を長年支えてきたのだ。社交界で生き抜く難しさを誰よりも知っており、それに対処するだけの知識と知恵を持っている。夜会に招かれた時と同じように私と子爵だけエルメニアに来ていたら、どうしてよいかわからず狼狽えるだけだったと思うもの。

 子爵夫妻に相談して良かったわ。そして彼らを呼んでくれたハンナにも感謝しなくては。

「殿下がお元気になって良かったです。すぐに昼食を用意させますね。」

問題が解決したら途端にお腹が空いてきた。現金なものね。

 一人で食べるのはつまらないので、子爵夫妻にも一緒にテーブルについてもらった。

「これは懐かしい。ヴェストニアの家庭料理ですね。」

昼食は子爵夫妻も満足したようだった。 

 昼食の後、子爵夫妻と話をしていると宰相のロイド伯爵と公爵が訪ねてきた。二人が訪ねてきたのは、イザベル様の友人が言った噂のことだった。

「甥のギルベルトにロクサーヌ公女を降嫁させたいとユーグ殿下から申し入れがあったのは事実ですが、殿下とのお話がほぼ決まっておりましたし、昔からギルベルトの相手に公女をと考えたことはありません。そのことは知っていただきたいと思います。」

公爵はそう言った。

 隣に座っている伯爵はうんざりした顔をしている。

「そういう噂があったことは承知しておりますし、殿下がエルメニアに来られた後、婚約破棄や離縁が相次ぎましたが、その原因は殿下でないことは明らかです。

聖白百合学園は貴族女性社会の縮図です。殿下ご自身の身分や辺境伯の婚約者として、羨望や嫉妬の的になっていると思われます。この手の噂はこちらが反応すればますますひどくなっていくことは子爵もご存じだと思います。」

伯爵は暗に放っておくしかないと言った。たしかに事実でないことは肯定しようがないし、違うからと否定すれば「わざわざ否定するくらいだから」とますますひどくなる。困ったわね。

 それから、少しの優越感を感じ、自己嫌悪に陥る。ギルベルト様はエルメニア一のお金持ちの公爵の後継で、顔も頭も良くて、王太子の側近として信頼も厚く将来有望。そんな人が私の婚約者だなんて。優れているのはギルベルト様であって私ではないし、不細工地味子の私が婚約できたのは王女だったから。すべて他人から与えられたものなのに優越感を抱くなんて、私はなんて浅ましい人間なのかしらと自己嫌悪。

 それまで黙っていた子爵夫人が私の気持ちを代弁してくれた。

「たしかに身分の高い女性は一度はたてられる類の噂でしょうけれど、根拠のない噂をたてられた殿下は大変傷ついておられます。そして、学校で友人が出来ず孤立してしまう恐れも。」

夫人はそこまでしか話せなかった。

 ノックもそこそこに息を切らしたギルベルト様が入ってきたのだ。乱入と言ってもいい。そんな入り方だった。その後から慌てた様子のメイド。

「殿下に何かあったんですか⁈」

いえ、ギルベルト様こそどうしたの?メイドの案内を振り切って入ってきたみたいだし。

 公爵も不思議がっている。

「ギルベルト、どうしたんだね、そんなに息を切らして。殿下の前で無礼じゃないか。」

肩で息をするギルベルト様。うん、うん、イケメンはそれも絵になる。じゃなかった、一体何故そんなに息を切らして部屋に入って来たの?私になにがあったの?

 なんとか息を整えて話すギルベルト様。

「殿下のことで大事な話があるから急いでお屋敷に来るように、と伯父上が学院に馬車をよこしたんじゃないですか。途中、混んでいて馬車が進まなくなったので、走ってきたのです。で、大事な話とはなんです?」

 私は椅子とお茶を勧めた。「殿下の前ですが失礼して」と一気にお茶を飲む。上品にお茶を飲む姿もいいけと、一気に飲み干す姿も格好いい。イケメンは何をしても格好いい。多分、何かの拍子にお茶を噴き出しても格好いいと思う。

 子爵が学校であったことを話す。

「そんな噂が、、、グロリアもたてられたことがあるし、身分のある女性は一度はたてられることのある噂とはいえ、良い気持ちはしませんよね。

それにしても馬鹿馬鹿しい。貴族の結婚なんて家と家の結びつきなんだから、そんな噂をしても自分が愛されるわけでもその婚約者にとって代われるわけでも無い。だいたい、婚約者が愛されようが愛されまいが、当人同士の問題で自分には関係ないでしょうに、なんで首を突っ込んでこようとするのか。

でも、良かった。殿下が私との婚約を破棄してヴェストニアに帰ると仰っているのかと思って慌てましたよ。王都の案内をすると言ったのに、未だに出来ていなくて愛想を尽かされても仕方ない状況でしたから。」

そう言ってホッとした顔をした。

 私とは政略結婚とはっきり言われてしまった。けれど、呼び出されたのは私との婚約破棄ではなかったと知って安心しているみたい。王女に婚約を破棄されたら今後の結婚に響くからそれを心配したのかもしれないけれど、それを心配できるくらいには、この結婚は嫌ではないみたい。私のことが心底嫌なら今後の結婚に響くリスクを犯しても婚約破棄を選ぶと思うもの。もしかしたら、ノーザンフィールド公爵家の後継者にはたいしたリスクではないのかもしれないけど、、、でも、あの日の「王都の案内をする」という約束を覚えてくれていたんだ。未だにできていないことを気にするほどには私のことを思ってくれている。

 子爵が話し出す。

「この手の噂は言葉だけで否定してもひどくなるばかりで放っておくしかないことは殿下もご存知です。」

そう前置きをしてから先程の子爵夫人の「不仲でないことを行動で示す」の具体的な提案をした。

「我々の若い頃には考えられなかったことですが、昨今では親ではなくても友人の付き添いで出かけているようですね。王都の案内をするという約束があるようですので、それを実行なさったらどうでしょう。」

ギルベルト様は忙しいんじゃないかしら?

 公爵が伯爵の方を向く。

「子爵の案には私も大賛成なんだが、実行できるかは君次第だね。付き添いにはグロリアをつけるよ。」

「何を言っているんだ。ギルベルトが婚約者と出かけるのにグロリアをつけたら『ギルベルトだけずるい。自分も付き添う』と言って殿下も出かけようとするじゃないか。今、フーランディア公が休んでいていろいろ滞りがちなのに、殿下に外出の口実を与えるなんてできるわけがない。付き添いにはイザベルを行かせるから。」

伯爵は反論し、誰を付き添いにつけるかで揉めだした。この場合の付き添いは女性側の友人なのでは、と思うけど私にはこの国に友人はいないので誰が妥当なのかしら?そして何がギルベルト様だけずるいのかしら?グロリア様と出かけること?婚約者と出かけること?

「だったら父親の君が一緒にくればギルベルトがいなくても問題ないし、仕事もできるじゃないか。遅くなればグロリアも一緒に王宮に泊まればいい。その方が殿下も遅くまで執務に励んでいいから。」

「王宮の役にもついていないのに、何の仕事があると言うんだ。つきたい人間はいっぱいいるんだから、そいつらにやらせればいいじゃないか。」

エルメニア政権の内情?を他国の人間の前で揉めていいのかしら。ハラハラするわ。

 子爵の方を見ると苦笑している。

「付き添いは私と妻がしますから。」

そう子爵が言ったので、なんとかおさまった。

 翌日、学校に行ったけれど、私が歩くとみんなすうっと道を開ける。やっぱり避けられている。教室に入る時に挨拶をしたけれど、遠巻きに見られただけだった。

 一人は寂しいし、早くみんなとおしゃべりがしたいけれど、出来上がっているグループに入るのは難しい。私と関わると婚約破棄させられるという噂もあるみたいだし、王女の私に睨まれれば自分だけでなく家もなんらかの被害にあうかもしれない。みんなが警戒するのは当然。子爵夫人の言うように、のんびりゆっくり構えて私という人間を知ってもらい、グループに入れてもらうしかない。

 しかし、みんな見事だわ。さりげなく私を避けて不自然さを感じさせない。貴族女性として必要な技術だと思うけれど、私にできるかしら。結局、放課後まで誰とも口をきかなかった。卒業まで二年もあるのだから、のんびりといきましょう。

 お屋敷に帰って制服を着替える、今日習ったところの復習をしているとギルベルト様が来てくれた。下位貴族の普段着のような格好をしている。学校が終わってそのままお屋敷に来てくれたらしい。

「こんな格好で申し訳ありません。学院にはなるべく身分を感じさせないような格好をしたいとアーサー殿下が仰るので。」

申し訳なくなんかない。どんな格好でもギルベルト様は美人で格好いいし、滅多に見られない格好を見れて嬉しい。しっかり目に焼き付けて私の脳内コレクションに加えなくては!

 学校からそのまま来てくれたのは嬉しいけれど、どうかしたのかしら?

「特に用事というのはないんですけれど、未だに約束の王都の案内ができてませんし。せめて顔だけでも出しておかないと誠意がないと愛想を尽かされそうで。今日もこれから王宮で少し仕事をしないといけないんです。」

ギルベルト様はお茶を飲んで、王宮に仕事をしに行った。

 玄関までギルベルト様を見送って部屋に帰るとロッテがニヤニヤ笑っている。

「なあに、ニヤニヤして。気持ち悪いわよ。」

「ニヤニヤなんかしていません。しているのは殿下です。良かったですね、用はないのに顔を見せに来てもらえて。」

ロッテに鏡を見せてやりたい。ニヤニヤしているくせに、私がしていると言って。

 ただのご機嫌伺いじゃない。良かったも何もないでしょう?普通、常識的な人ならそれくらいするでしょうよ。

「普通の婚約ならそうでしょうけど、殿下と辺境伯は違いますよね。国と国との契約なんだから、ご機嫌伺いなんかしなくても、誠意を見せなくても、愛想を尽かされても婚約破棄なんかにはならないんですよ。たとえ殿下との婚約がなくなっても、ヨハンナ殿下がいますからね。」

そうね。これはローゼニアをヴェストニアに繋ぎ止めるための結婚だもの。よほどのことがない限り婚約破棄になんかならないし、ヴェストニアの方から婚約破棄を言い出すことはまずない。だって、ギルベルト様のローゼニアではなくヴェストニアの方が望んだ結婚だもの。だから、ギルベルト様は私の機嫌を取る必要なんかない。なのに、私のご機嫌伺いに来てくれるってことは、、、

 その日は寝るまで上機嫌で過ごした。

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