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15話

ギルベルト様は私に指輪を渡すと王宮へ帰って行った。まだ、仕事があるらしい。

「もうすぐ学校が始まりますし、最上級生で勉強の方も忙しくなります。だから、少しでも出来ることはしておかないと。」

そうだよね。お父様はいつも忙しそうだけど、この時期は特に忙しそうだったもの。この指輪を渡すためだけに少し抜けてきてくれたみたい。

 玄関までギルベルト様をお見送りする。馬車に乗る前にギルベルト様が私の耳元で囁いた。その言葉を聞いて真っ赤になって固まる私。そんな私を見てギルベルト様は楽しそうに笑いながら、馬車に乗って戻って行った。

 「殿下、殿下」と言うロッテの声で我に帰った。我に帰った私は走って自室へ戻る。ロッテとハンナが追いかけてくる。

「殿下、どうなさったんです?辺境伯に何を言われたんですか?」

「なんでもない。なんでもないから。」

ハンナにそうきかれたけど、顔を両手で覆い、ベッド上をゴロゴロする私。呆れたようにハンナとロッテが見ている。

「ちょっと、また、ベッドから落ちたらどうするんですか⁉︎」

とロッテが言っている。

 ゴロゴロしているとノックがある。聖白百合学園の制服ができたらしい。部屋に持ってきてもらう。

「早いですね。もう、仕上がったのですか?」

「はい、新学期まで、一週間もございませんから。このような遅い時間に申し訳ありません。明朝でも、と思ったのですが、少しでも早くお届けしたほうが良いと思いましたので。」

促されて本縫いの終わった制服を試着する。

 清楚で可愛らしいデザイン。みんな同じデザインなのだから、顔の造作とかスタイルとかの差が目立つよね。私は王女なので上質な生地に縫製の服を着ている。それで嵩上げさらている。でも、制服は皆同じ服なのだから、中身というか本人自身で勝負!私の制服姿を見たギルベルト様はどう思うのかしら?「魅力的」とは言ってくれたけれど、どんなんだろう?ちょっと不安。大いに不安。

 でも、そんなこと考えても仕方ないし、制服も問題なく納めてもらったし、後は新学期を待つだけ。「よくお似合いですわ」というありきたりの文句を言って、服飾店のテレサは帰っていった。

 夕食のデザートをゆっくりとっていると、ロッテが話しかけてきた。

「殿下、ゆっくり召し上がってて大丈夫ですか?明日は朝から編入試験ですけど。いくら編入出来るとはいっても、少しくらいは教科書とか見たほうがいいんじゃないですかね?」

そういえば、ロイド伯爵が編入試験のことを言っていたわね。

 え、明日?

「はい、伯爵はそう仰ってましたし、騎士の方も準備というか、予定の確認をヘルマン夫人にされてましたよ。」

そう言われれば、そうだった気もする。編入試験にマナーがあったらどうしようとそればかり考えていたわ。あと、ギルベルト様に見惚れていて、話をまともに聞いていなかった。

「そうね、ロッテ、ありがとう。教科書を見ておいた方がいいわね。」

数学とかは大丈夫だけど、地理とか歴史とか、国によって習うことが違うでしょうし、見ておくべきね。

 デザートをさっさと食べ終えて、自室で教科書を広げる。習う教科は数学や科学は少し。文学と語学が主で後は歴史と地理みたい。そうだよね。貴族子女の為の学校だもの。貴族子女に求められる教養が主の授業になるよね。この程度なら、大丈夫かな?歴史が少し怪しいかも。習うのは、どうしても自国中心の歴史になってしまうから、エルメニアとトレアとの関わりの歴史は少し怪しいわ。しっかり勉強しておかなくちゃ。何しろ私の嫁ぎ先のノーザンフィールド公爵家はトレア大公国との国境を守るシュバルツ辺境伯が付属爵位だし。

 教科書を読み込んでいると、お湯の準備が出来たらしい。ロイド伯爵も編入が取り消しになることはないって言ってたし、このくらいでいいか。

 お湯から上がって、寝衣に着替える。ギルベルト様が贈ってくれた寝衣。夕方のギルベルト様が耳元で言った言葉が脳内に再生される。

「殿下、どうなさったんです?急に真っ赤になって。風邪ですか?」

「明日は編入試験なのに大変。ロッテ、すぐにハーブティーをもらってきて。」

とベッドに押し込まれた。

 ギルベルト様が私に言った言葉を思い出しただけで、風邪をひいたわけじゃないんだけどな。でも、それを言うと「何を言われたのか」追及されそうだから言わない。黙って持ってこられたハーブティーを飲んだ。

 一人でベッドにいるとギルベルト様の言葉を思い出して、赤面した。鏡を見ていないけど、絶対耳まで真っ赤になってる。

 うう、私の「寝衣姿を見てほしい」という発言が発端だし、ギルベルト様が私をからかっているだけだとわかっているけど、恥ずかしい。恥ずかしさのあまり身悶えしながら眠りについた。

 朝、自然に目が覚めた。気分もいい。なんか、編入試験は上手くいきそうな気がする。編入が取り消しになることはないらしいけど、頑張るわ。今こそヴェストニアの力を見せるべき。満点を取ってやる!私は謎にテンションが上がっていた。

 朝食を取って、着替える。試験には保護者代わりにケプラー子爵夫妻がついてきてくれる。

「保護者も一緒に行かなくてはならないなんて、過保護過ぎると思うわ。編入するのは私で勉強するのも私なんだから、私だけ行けば十分だと思うんだけど。」

「貴族子女の学校ですからね。希望者全員が入学できるわけではないそうですし、家柄とか、父兄の審査もあるのでしょう。」

「まあ、どうしましょう。ただの付き添いだと思ってましたわ。付き添いとして、どのような服装が相応しいか宰相夫人にお伺いした時にはそのようなことは一言も仰らなかったわ。陛下の信頼の厚い旦那様は大丈夫でしょうけど、私のような者が一緒に行っては殿下の編入に差し障りがあるのではないでしょうか?」

ケプラー夫人が心配そうに言う。

 子爵が夫人に「心配はいらない。いつも通りにしていればいい」と言っている。私もそう思う。ヴェストニア王女でノーザンフィールド公爵嫡男の婚約者。推薦人は降嫁先のノーザンフィールド公爵の他にこの国の第一宰相ロイド伯爵とルイス伯爵。あと、ケリー伯爵も。家柄が重視されるなら編入できないわけがない。編入ができないとすれば、よほど私個人に問題がある。それにケプラー子爵夫人は、私と夫人とどちらが貴族夫人として相応しいかと百人に訊ねたら、多分全員夫人と答えると思う。そんな貴族夫人の鑑のような人物。そんな人物に後見人をしてもらっている私自身も貴族令嬢の鑑のように思ってもらえるのでは、と期待している。編入後、長期休暇で帰った時にお姉様にその話をしたら、ヨハンナお姉様には「詐欺じゃないの」と言われ、カタリーナお姉様には「まあ、時には必要なことかもね」と苦笑された。

 試験は子爵夫妻とは別室で行われた。ロイド伯爵は私の学力をみるためと言っていたけれど、この学校でどのようなことをしたいか聞かれただけだった。あとは注意事項が少し。本当に形だけだった。下手に本当の試験をして答えられないことがあれば、お互いに困るものね。だから、これでよかったのでしょう。

 帰りの馬車で、ケプラー子爵に聞かれる。

「で、殿下はどうお答えになったのです?」

「この国に降嫁するので、この国の貴族女性としてのマナーや教養を学びたい、と無難なことを答えておいたわ。」

子爵は「それは文句のつけようのない答えですね」と笑った。

 子爵夫妻の方は学園長先生より在学中の保護者としての心構えなどを聞いたらしい。

 帰りに子爵夫妻とカフェに寄った。

「王都で人気のショコラトリーです。一度も行ったことがないと級友との話に参加できず、困るかもしれませんから。」

ケプラー子爵はそう言った。

 初めてのカフェ。この紙に書かれたメニューを見て、自分の食べたいものを言うらしい。食べ物の名前の横に数字が書いてある。これ、なんの数字かしら?

「ああ、それは値段ですよ。ここはさすがに下層階級は来ないにしても、上流階級ばかりが来るわけではないですから。」

 何を頼んでいいかわからなかったので、この店のおすすめを頼んだ。食べ終わってしばらくすると、ケプラー子爵が「そろそろ帰りましょうか」と言った。なのに席を立たない。子爵は給仕を呼んで何かを言うと、彼は一度下がり、トレーに紙を乗せて持って来た。その紙を見た子爵はお金を載せる。その後、席を立って、馬車に乗った。

 馬車に乗ると子爵は話しだした。

「物を買うと代金が必要なことは殿下もご存じでしょう?あのような店では店を出る時に払うのですよ。もっとくだけた店だと、持ってきた時にお金と引き換えということもがあります。」

そうなんだ。私は今迄、物を買えば代金を支払うということは知っていても、どうやって支払っているのか知らなかった。きっと子爵は私が級友との話だけでなく、一緒に来た時に困らないようにする為に連れて来てくれたに違いない。

 その日は他に予定がなかったので、自室で教科書を読んでいた。勉強よりも人脈を作るのが目的といっても、やっぱり勉強も頑張らないと。

 勉強を頑張っていると、マーサがギルベルト様が来たと言いに来た。すぐに応接室に向かう。

 嬉しいな。今日は会えないと思っていたから。でも、どうしたのかしら?

「明日から、学校が始まるんです。そうなると、執務の手伝いや勉強で忙しくなります。今年は最終学年なので卒業に向けての論文もあるし。お休みの日以外はなかなか会えなくなってしまいますから。」

そんな寂しいことを言った。

 私の通う聖白百合学園の新学期は明明後日だから、もう少しお休みがある。貴族子女が通うので領から帰ることを考慮してるのでは、とギルベルト様は言った。

 それから私の指に目を止め、

「その指輪、つけてくださっているのですね。そのような小さなものではなく、殿下に相応しい素晴らしい宝石を贈れるように、努力します。」

と嬉しそうに言ってくれた。この指輪は私の一番の宝物。それにギルベルト様がくれるのなら、どんな宝石でも、ただの石がついた指輪でも嬉しい!

 危ない、舞い上がってしまったわ。「何か話題を」と思うものの、先日の「お寝衣姿を見せたい」発言があるので、迂闊には話せない。ギルベルト様は楽しそうに私を見ている。私が失言をしたら、それをネタに揶揄う気なのでは?先日、ギルベルト様が私に囁いた言葉を思い出してしまい、途端に耳まで赤くなる。それを見たギルベルト様、ますます楽しそう。うう、何を話せばいいの?何か無難な話題を!

 そんな時、ロッテが許可もなく話しだした。

「殿下、昨日届いた聖白百合学園の制服を辺境伯にお見せしたらいかがでしょう。」

無難といえば無難だけど、私個人にとってはあまり無難といえない話題なのに、なんてこと言い出すのかしら。たしかに清楚で可愛らしい制服よ。かわいい制服だからこそ、私の不細工振りが目立たないか心配なんだけど。あの、可愛らしいイザベル様の制服姿と比べられたら、どうしてれるのよ!比べられたら、じゃなくて確実に比べられるじゃない。身近な比較対象なんだし。敢えてその話は避けて他の話題を探していたというのに。

 うう、見せたくない。がっかりされたらどうしよう。制服って、みんな同じ格好だからこそ、いろいろその人の欠点とか長所とかがわかるんだよね。

「制服が届いたんですか?それは是非。」

ギルベルト様のお気持ちは前のめり。そうだよね、聖白百合学園は男の人の憧れらしいし。ギルベルト様だけが違うのもおかしいもの。でも、なんか裏切られた気分。ギルベルト様もやっぱり美人がいいんだって。後でロッテに「聖白百合学園に通っていることと美人と関係あります?被害妄想が過ぎますよ」と呆れられた。

 ロッテの追撃は止まらない。

「殿下、どうせ学校が始まったら制服姿を見られるんだから、今見せても後で見せても一緒ですよ。後になるほどハードルが上がりますって。辺境伯も楽しみにされているご様子ですから、さあ。

辺境伯、お召し替えまでしばらくお待ちください。」

勝手に決めるなあ!それにハードルが上がるって、なんのハードルが上がるのよ⁈失礼しちゃうわね、ロッテは。

 部屋に帰って制服に着替えてギルベルト様のところへ。ちょっと恥ずかしい。ギルベルト様はどう思ってくれるかしら?そう思うと不安が込み上げてくる。

「あの、どうですか?似合ってますか?」

恐る恐る聞いてみる。

 なんにも答えてくれない。似合ってないのかな?清楚で可愛らしい制服だもの、不細工な私には似合わないのかしら、、、

「よく、お似合いです。ええ、本当に。こんなに聖白百合学園の制服が似合う可愛らしい女性が私の婚約者だと、みんなに自慢してまわりたいですね。」

いや、それは褒めすぎですって。そして、冷静になってくださいな。私の制服姿を見て喜んでくれるのは、身内くらい。そんなもの、見せられた方も困ると思うわ。何かどこか褒めなくちゃ、でも何処を、と。でも、そう言ってもらえて嬉しい。お世辞だと分かっていても嬉しい。それに、ロッテが脳内で反論してこないところを見ると、もしかしたら本当のことなのかも。

「だから、脳内に話しかけてなんかいませんって。怖いですよ、脳内に直接話しかけるって。」

とその日の夜にロッテに言われた、、、

 その後もロッテが仕切る。

「殿下、お茶の続きをされるのでしょう?汚したらいけないから、早く脱ぎましょう。

辺境伯、失礼しますね。」

たしかに制服が汚れたら大変。でも、なんでロッテが仕切るの?

 ロッテは私をぐいぐい押し始めた。

「ちょっと、ロッテ、押したりしたら危ないじゃないの。それに、制服姿を見せろと言ったのはあなたよ。もう少し、ゆっくり見てもらったらいいじゃない。」

「何を言っているんですか。チラッと見せるからいいんです。ゆっくりじっくり見せたら、アラもでます。もう少し見たかったな、と思うくらいがいいんです。だから、もう引っ込んだ方がいいんです!」

ばかロッテ!まだ部屋のドアが閉まってないじゃない。当然、この会話はギルベルト様に聞こえてる。ギルベルト様の笑い声が聞こえた。

 部屋で着替えながら、ロッテを叱責する。

「笑われちゃったじゃないの。もう、今日はロッテは下がっていていいわ。っていうか、下がっていてちょうだい。」

意外そうな顔をするロッテ。

「殿下、ロッテも殿下が辺境伯に好意を持ってもらえるように一生懸命なんですよ。そこはわかってやってください。

ロッテ、今日はもう私一人で大丈夫だから、部屋でゆっくり休んでなさい。」

ハンナがそう取りなした。

 応接室で開口一番。

「ギルベルト様、お待たせしました。変なところを見せてしまって、ごめんなさい。」

「いえ、たしかに主人である殿下に対して無礼ですが、殿下のことをとても思っていることがわかります。頼もしい侍女ですね。」

ギルベルト様はそう言って笑った。なんて素晴らしく尊い笑顔!ロッテ、汝の罪は許された。

 ギルベルト様が来たのは今晩の晩餐の招待だった。

「晩餐というほど立派なものではないです。鹿肉が手に入ったので。ご一緒に、と。

では後ほど、お会いできるのを楽しみにしています。」

ギルベルト様は帰って行った。

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