11話
起きたら、翌日の昼過ぎだったのにはビックリした。人間、どこまで眠れるのかしら?あんなに寝たのに、まだ寝ぼけてる気がする。
「殿下、お目覚めですか?」
ハンナだ。
「もう、起きるわ。学校のこと、お父様にお話ししないといけないし。」
ドアがノックされ、ヨハンナお姉様が入ってきた。
「あ、良かった。起きてたわ。
お姉様、ルイーゼ、起きてたわ。」
ヨハンナお姉様とカタリーナお姉様が部屋に入ってきた。
私のベッドに腰掛けるなりヨハンナお姉様が矢継ぎ早に聞いてくる。
「ねえ、ルイーゼ、エルメニアの夜会ってどう?ヴェストニアとどっちが素敵?王太子殿下にお会いしたんでしょ、やっぱり『氷の貴公子』だった?貴女のお相手、シュバルツ辺境伯とどこに行ったの?」
そこで質問を止め、息継ぎをするお姉様。そんなに一気に聞かれても寝起きのボケた頭では考えられないし、起きていても質問はひとつづつしてください。どれから答えれば良いのか、、、
けれどヨハンナお姉様の質問は止まらない。
「夜会で素敵な人はいた?知り合いはできた?エルメニアのお茶会って、やっぱり紅茶なの?コーヒーは出る?それから、、」
「ヨハンナ、そんなにいっぺんに質問しても、ルイーゼは答えられないわよ。寝起きで頭が回ってないみたいだし。
ルイーゼ、もう少し寝る?そう、起きるのね。ハンナ、ルイーゼの身支度を。」
ヨハンナお姉様は質問をカタリーナお姉様に止められて不満気な顔をしている。
私はのそのそとベッドから出る。カタリーナお姉様は私の身支度が終わるまで部屋から出ようとしたけど、ヨハンナお姉様が止める。
「時間が勿体無いじゃない。姉妹なんだから居ても大丈夫よ。気になるならルイーゼの着替えなんてあっという間に終わるんだから、目を瞑っていれば良いのよ」
合理的でしょ、と付け加えて。
結局、ヨハンナお姉様は目を瞑らなかった。それどころか私の着替えをじっと見ながら早く着替えるよう急かしてきた。
「ヨハンナ、そんなに急かしても時間は変わらないんだから、静かに待ちなさい。できないなら、外に出なさい。」
とカタリーナお姉様に怒られる始末だ。
あ、ヘアバンド。
「ハンナ、あのヘアバンド、つけてくれる?」
そう言うと、ハンナは「もちろんです」と髪を整えてくれた。ロッテが鏡を持ってくる。私は顔を右に左に動かして、チェック。うん、可愛い。
次期公爵夫人が婚約の時に公爵夫人から贈られた品物。今は私の物。次期公爵はギルベルト様。その夫人になるのは私。このヘアバンドひとつで実感するなんて、なんて単純。
「若奥様。」
「何かしら?」
なんてね!なんか照れるな。
「ルイーゼ、何、笑ってるの?気持ち悪い。」
とヨハンナお姉様が言う。ロッテも「ニヤニヤと本当に気持ち悪いですよ。どんな妄想をしようと自由ですが、外に漏れないようにしてください。迷惑です」ですって。
カタリーナお姉様はすぐに私のヘアバンドの出どころがわかったみたい。
「素敵なヘアバンドね。それは辺境伯から贈られた物なのね。きっと、普段用ね。」
「はい、一緒に入っていたお手紙によると、辺境伯の婚約者に公爵夫人から贈られる物だそうです。」
私は鼻高々にそう答える。
するとヨハンナお姉様は「え、よく見せて」とそばに来て私の頭を引っ張った。
「やめて、痛いわ。首がおかしくなる!」
「ケチ、よく見えないじゃない。」
そう言って、さらに引っ張る。
カタリーナお姉様が呆れた声を出す。
「ヨハンナ、やめなさい。ルイーゼの頭を引っ張らなくても見えるでしょ。泣くからって、面白がって引っ張らないの。ルイーゼも泣かないの。泣くから余計にヨハンナがするんだから。貴女達は本当にもう。」
ヨハンナお姉様はやっと私の頭を離してくれた。
「ルイーゼが無事に帰ってきてくれて嬉しいわ。エルメニアの話を聞かせて。」
そう言って、ヨハンナお姉様は私をぎゅうと抱きしめてくれた。
私は夜会でギルベルト様の同級生のナタリー様やギルベルト様の友人で宰相息女のイザベル様と知り合ったことを話した。あの場で起こった不可解な出来事、トレア公女が叫びだし退場したことは言わなかった。どう説明していいか、わかんなかったから。多分、カタリーナお姉様は知っていると思うけれど、聞かれなかった。夜会の様子はケプラー子爵や駐エルメニアの大使から報告がいっているでしょうから、私の話はいらないのかも知れない。
ヨハンナお姉様は私が王都のどこにも出かけなかったことに驚いていた。
「どこにも行かなかったって、婚約者である辺境伯は何を考えているの?せっかく、ルイーゼが王都に来たってのに。それに、貴女一人でも出かければいいじゃないの。」
「だって、ギルベルト様は学校があるもの。放課後は王太子殿下の側近としてお忙しいし、お休みの日だって呼び出しがあるのよ。それに私はギルベルト様のハンカチに刺繍をしてたから仕方ないじゃない。」
「「刺繍?」」
いらないこと言っちゃった。
カタリーナお姉様の顔が見る間に青ざめる。
「辺境伯のハンカチに刺繍って、貴女、渡してないでしょうね。」
「ワタシマシタ。」
頭を抱えるカタリーナお姉様をヨハンナお姉様は慰めている、
「でも、お姉様、正式に婚約もしてるし、婚約者として王室主催の夜会にも出たし、今更破談なんてならないわよ。マリア叔母様も『相手のことを思ってするのが大事』と仰ったのでしょう?
それに、辺境伯の友人の宰相の息女は刺繍のコンクールで入賞するほどの腕前らしいじゃない。だから比較対象が上手だから相対的に下手に見えるだけって、思ってくれるかも?」
最後、疑問形なので説得力がないわね。
ため息をつくカタリーナお姉様。
「で、でも、カタリーナお姉様。ギルベルト様は誰にでも得手不得手はあるって。自分のために不得手な事を頑張ってくれて嬉しいって。」
私は言い訳を試みる。言い訳じゃないわ。ギルベルト様がそう言ってくれたもの。
何かを諦めたような顔のカタリーナお姉様。
「まあ、いいわ。貴女と辺境伯の間で納得していれば。辺境伯も人には見せないでしょうし。
マリア叔母様のところに行かせたのが間違いだったのよ。あの時、私が妥協せずにもっと厳しい家に行儀見習いに行かせていれば、、、いえ、いっそのこと、右手を骨折してれば刺繍しなくて済んだのに、、、」
カタリーナお姉様が物騒なことを呟いている。
ドアがノックされ、お父様が私を呼んでいると言われた。私もお父様に学校のことをお話しして、許可をもらわなければ。
お父様の執務室に行くと、ケプラー子爵とお母様、ケリー伯爵がいた。
「ルイーゼ、そこに座りなさい。」
お父様の顔も声も険しい。私、何かしたかしら?もしかして、刺繍の出来があまりにもひどい、と公爵家から苦情が入った?
お父様に呼ばれたのは、刺繍のことではなかった。
「ルイーゼ、エルメニアで学校に行きたいというのは、本当かね。公爵家ではそのようなことは望んでいないと思うが。」
私が学校に通うことについてだった。この感じからすると、お父様は私が学校に通うことをよく思ってないみたい。
「はい、エルメニアでは女性も学校に通うことは特別なことではないようです。公爵家が望んだことではなく私が望んだことですが、反対はされておりません。むしろ、賛成してくれていると私はとらえました。」
お父様はかぶりを振った。
「人は自分の都合の良いように解釈するものだよ。公爵が反対しなかったのをお前が賛成と捉えただけではないのか?」
「いえ、陛下。公爵は『学生時代というのは素晴らしい宝物。一生の友人を得られる場』と仰いました。それに殿下の通うことのできる学校も何校か提示なさいましたし。それから考えるに、公爵はその提示した学校に通う限りは賛成ではないかと思われます。」
それならギルベルト様も通う王立高等学院も入るけど、きっと、お父様もお母様も反対なさるわよね。
「それに、陛下、お考えください。殿下は国内ではなく、知り合いのいない外国の公爵家に降嫁なさるのです。公爵の夫人は既に亡くなられており、殿下がご結婚なさるのは、ご息女が既に王太子殿下とご結婚なさった後。殿下はお一人で一から人脈をお築きにならなければなりません。殿下の考えておられる聖白百合学園は貴族子女が対象で、有力貴族の子女も多く在籍しております。人脈を築く上では有益ではないかと。」
ケプラー子爵が援護してくれる。ありがとう!
今迄黙っていたお母様が話し出す。
「聖白百合学園は聞いたことがありますわ。貴族子女のための学校で、お相手の家からそこの学校に通うことを求められることもあるとか。」
え、そうなの?そんな話、私は知らないけど、だったらなんでエルメニアの王太子殿下はグロリア様に王立高等学院に行くことを望まれたのかしら?それに、ナタリー様も。でも、今はそんなことどうでもいい。そんな学校なら、王女の私が通っても変じゃないよね。お父様が「そうなのか?」と考え込み出した。もっと、援護射撃を!
ケプラー子爵が再び話し出す。
「聖白百合学園にはエルメニアの第一宰相のご息女、ロイド伯爵令嬢も通っておられますし、過去には殿下の嫁ぎ先であるノーザンフィールド公爵家の夫人や王太子殿下のお母君も卒業なさってます。ここ以上に殿下が通われるのに相応しい学校はないかと。」
お父様がエルメニアのケリー伯爵に意見を求める。
「ケリー伯爵、そうなのか?」
「はい。エルメニアでも女性は学校に通うより家庭教師が一般的ですが、聖白百合学園とアルバラ校は別です。
特に聖白百合学園は、貴族子女を対象としているだけあって、貴族女性として必要な教養を身につけることができますし、子女は代々聖白百合学園で、嫡男の相手には聖白百合学園の令嬢でなければという家もあるくらいです。
ノーザンフィールド公爵の夫人はこのヴェストニアのご出身にも関わらず聖白百合学園に通われたのは、人脈を作る目的があったのではないかと私は推察いたします。」
代々そこの卒業生。そういえば、イザベル様も「お母様も聖白百合学園に通われていたの」と言ってたわ。
お父様、揺らいできてるわ。もう一押し。
「しかし、ルイーゼは少々心許ないが貴族女性としての教養は身についていると思うし、何より、ルイーゼの望む学問には向かない学校なのではないのかね。」
あくまで反対する気ね。ならばこちらも。
「そうですわ、お父様。私の求めるものは聖白百合学園にはありません。やはり私は王立高等学院に行くべきですわね。」
私の発言にお母様が驚く。
「なんてことを。あそこは平民、それも下層民も貴族も関係ないという話ではないですか!そのような者がルイーゼと一緒にだなんて。」
もしかしてお母様、私の家庭教師には平民出身の学者もいたのをご存じない?まあ、平民といっても働かずに勉強して学者になるくらいだから、貧乏貴族よりは裕福だけど。
「陛下、王妃や公爵夫人も通われたという聖白百合学園が良いではありませか。ケリー伯爵のお話ですと、これ以上ルイーゼに相応しい学校はないようですわ。結婚してエルメニアに住むことになった時、友人や知り合いの一人もいないなんて、ルイーゼがかわいそうですわ。」
見事にお母様が引っかかった。お父様も「そうだな、通うなら聖白百合学園か」と仰っている。
はじめ、とてものめそうにない提案をして、次に現実的な案を出す。交渉の基本。
「ではお父様、長期休暇明けから聖白百合学園に通いますね。
ケプラー子爵、そのように取り計らって頂戴。」
「はい。殿下、編入おめでとうございます。早速、公爵家とエルメニアにいるクレーマン伯爵に連絡をいたします。編入手続きや制服、教科書などの必要な準備をしてもらえるでしょう。」
「私もエルメニア王宮に連絡を入れましょう。王女であるルイーゼ殿下が我が国に留学なさるなんて、大変名誉なことですし、王宮も喜ぶでしょう。」
焦った声を出すお父様。
「待て、私はまだルイーゼが学校に行くのを許してはいない。それに、聖白百合学園は貴族子女のための授業をしているのなら、ルイーゼの学力にあった授業は受けられないだろう。」
そうきたか。
「その点は私も懸念しました。しかし、アルトドラッヘン辺境伯夫人のお話では一流の教授陣を揃えており、希望者には授業外でも勉強を見てくれるそうです。それでも足らなければ、公爵は学者を頼んでくださると。」
一流ではなく「それなり」だったけど。同じだよね、同じということにする。その方が説得力がある気がするもの。
「はい、殿下の仰る通りです。子女にもそれなりの学問をと考える貴族もおりますので。
我が家の娘は歴史地理と考古学をお願いしております。同じことに興味を持つ友人ができて、娘も楽しそうです。」
そうなんだ。お茶会の定番の話題も悪くはないけど、好きなことで盛り上がれるのは楽しいよね。
「お父様、公爵家では私が学問をしていることに強い興味を持たれたのでしょう?王立高等学院か聖白百合学園のどちらかに行ってもいいでしょう?」
「下層民も通う王立高等学院なんてとんでもない。行くなら、聖白百合学園です。」
お母様、後押しは嬉しいけれど、その王立高等学院にはエルメニアの王太子殿下も通っているんだから、あまり否定しない方が、、、
「う、うむ。行くなら、聖白百合学園だ。」
「ありがとうございます。
私からも公爵家にお願いの手紙を書きますので、失礼します。」
そう言って、さっさとお父様の執務室を出た。
お父様が「ルイーゼ、待て」とかなんとか言ってるけど、聞こえないフリをする。ギルベルト様と同じ王立高等学院は無理だったけど、エルメニアの学校に通えることになって嬉しい。あの嫡男夫妻が住むジョンストン通りのお屋敷を貸してもらえるかわからないけれど、エルメニアの王都にいれば、いつでもギルベルト様に会える!
ギルベルト様やこれからの学生生活のことを考えながら庭で本を読んでいると嫌な奴が来た。従兄弟のフリードリヒだ。彼はバーディアに留学しているはず。帰国する用事があったかしら?
フリードリヒは空いている椅子に座ると話し始めた。
「エルメニアの夜会に招待されたと聞いたんだが、もう帰ってきたのか?あ、悪い、嫌なことを聞いて。不細工王女なんで帰されたんだ。」
「うるさいわね。貴方には関係ないじゃないの。なんの用なの?だいたい貴方、留学してたんじゃないの?用事があるなら、さっさと言ってちょうだい。無いなら向こうに行って。」
フリードリヒは小さい頃から私のことを「不細工王女」と呼ぶ。離れたところにいても、私の姿を見つけるとわざわざ「不細工王女」と言いにやって来るのだ。たしかに私はカタリーナお姉様やヨハンナお姉様みたいに美人じゃないけど、わざわざ言いに来ることはないじゃないの。
フリードリヒは大袈裟に肩をすくめる。
「おお、怖い、怖い。
不細工な上に愛嬌もないんじゃ、相手の男が可哀想だな、こんな不細工を押し付けられて。夜会が済んだら王都の案内もせずにさっさと帰すはずだ。
お飾りの妻、まだ婚約者か。夜会もこんな不細工と出なけりゃいけないなんて、どんな罰ゲームだよ。」
夜会のあと一週間いたし、案内できなかったのは王太子殿下の執務の手伝いをしてたからだし。本当に何しに来たの?私の悪口を言いに来たの?暇なの?
「ギルベルト様は私のことを大切に思ってくれてるわ。お飾りの妻だなんて思ってない。いい加減なことを言わないで!」
私がそう言うと、フリードリヒは鼻で笑った。
「おめでたい女だな。考えてもみろよ。相手はローゼニアといえど、エルメニア一の金持ちで、すごいイケメンらしいじゃないか。そんな男がなんでお前みたいな不細工を相手にするんだよ。お前が王女だから相手にしているだけだ。今頃、美人とよろしくやりながら、浮かれているお前のことを笑ってるよ。」
なんでそんなこと言うの?ギルベルト様は誠実だって、報告書にもあったしクレーマン伯爵もケプラー子爵も言ってたわ。
この男、本当に腹立つわね。
「とにかく、私のことなんだから貴方とは関係ないじゃない。放っておいてよ。
私のことより、自分はどうなのよ。貴方だって、人のことを言えるご面相なの?結婚相手の向こうの姫君が可哀想だわ。顔だけじゃなく、性格も悪いなんて。」
こんな男でも国王の甥というだけで、隣国の姫君との結婚が決まっている。こんな男と結婚しなきゃならない隣国の姫君が可哀想。
「殿下、こちらにおられましたか。そろそろ出発なさいませんと。それでなくても、出発が遅れておりますのに。」
彼の侍従が声をかける。
「出発?」
「じゃあな、不細工。これ、やるよ。」
と、フリードリヒは小さな箱を投げて寄越した。それからクルッと向こうを向いてスタスタ歩き出した。
何なの、あの男!早く留学先に帰りなさいよ。
私は部屋に帰ると、渡された箱を机に置いて、ヨハンナお姉様の部屋に行った。お姉様は部屋にいなかった。どこに行ったのかしら?仕方ないので自室に帰って本の続きを読んでいるとヨハンナお姉様が部屋に来た。
お姉様は椅子に座ると「私の部屋に来たみたいだけど、何の用だったの」と聞いてきたので、フリードリヒに会って腹が立ったことを言った。
「よかったわフリードリヒに会えたのね。隣国の国王陛下のお具合が良くなくて、急いで結婚式を挙げて欲しいって要請があったのよ。留学を切り上げて急いで帰国してきたんだけど、どうしたのか出発を先延ばしにしてて。最後に貴女に会えて良かったわ。
隣国と言っても遠いし、将来王配になるからこの国に帰ってくるのは難しいでしょうし。貴女も外国に降嫁しちゃうから帰ってくるのは難しいでしょう。二度と会えないかもしれないから、最後に会えて本当に良かったわ。」
ヨハンナお姉様はそう言って、本当に安堵した顔をした。
どうしてそんな大事な事を教えてくれなかったの?
「要請があったのは貴女が出発した後のことだったし、貴女も帰ってからすぐに学校のことでお父様と話してたし。それに、フリードリヒが貴女には言うなって。」
なんで私には「言うな」って。そんなに私のこと、嫌いだったの?
「今迄留学していなかったから会えないのは一緒でも、やっぱり寂しいわね。」
お姉様はそう言うと、自分の部屋に帰った。
私はフリードリヒから渡された箱をなかなか開けられなかった。夜になり、ハンナとロッテが下がったあと、勇気を出して箱を開けてみた。中には子供のころにフリードリヒがつけていた指輪が入っていた。
「そのゆびわ、きれいね。わたしにちょうだい。」
「おとこがおんなにゆびわをあげるのは、けっこんあいてだけなんだぞ。
ルイーゼはぶさいくだから、けっこんできなくて、だれにもゆびわをもらえないかもな。」
「ルイーゼ、ぶさいくだから、けっこんできなくて、ゆびわをもらえないの?ふぇ、え。」
「なくなよ。ルイーゼにはおれがゆびわをやるから。そのかわり、おれのおよめさんになるんだぞ。」
「うん、ルイーゼ、フリードリヒのおよめさんになる。」




