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10話

 夜にノーザンフィールドの領都行きの客船が出る。私としては早くヴェストニアに行ってギルベルト様のいるエルメニアに帰って来たかったので、ここへ来る時に乗った貨物船がよかったのだけれど、「やはり王女が貨物船では」とのことで、客船になったのだ。

 港までギルベルト様達が見送りに来てくれた。

「殿下、これを。」

グロリア様が柳の枝を輪にしたものを差し出した。無事に帰ってくることを願う遠い国の風習らしい。

 ギルベルト様は「道中、お気をつけて。無事、帰ってきてください」と言って、紙箱をくれた。エルメニアに再び来るのではなく、帰る。ちょっとした言い方の違いだけれど、そんな風に言ってもらえて嬉しい。自分がギルベルト様と結婚してエルメニアが故郷になるんだ、と思えた。そうなるのは、まだ先のことだけど。

 船は定刻に出航した。見る間に岸を離れて、手を振ってくれているギルベルト様が小さくなり、見えなくなった。ギルベルト様も私との結婚を望んでくれているってわかったし、すぐに会えるけれど、涙が出てきた。学校に行くことをお父様が許してくださらなければ、結婚までエルメニアには戻れない訳だし。さすがの私でもお父様の意向を無視してエルメニアで学校に通うわけにはいかないもの。

 ハンナが「いつまでも夜風にあたるのは体に良くないのですよ」と言うので部屋に入る。客船付きのメイドが体を拭く湯を持って来てくれた。

 体を拭いてもらって、ギルベルト様から渡された紙箱を開ける。紙箱にはいろいろなお菓子が少量づつ入っていた。どれも有名なお店の代表的なお菓子だ。

「いろんなお店のお菓子が入ってますね。王都の案内が出来なかった罪滅ぼしですかね?

あれ?これなんでしょうか?」

テーブルに全部のお菓子を並べていたロッテが紙箱の底から平べったい箱を取り出した。

 その箱は綺麗な包装紙にリボンがかけてあった。その箱をロッテから受け取る。紙箱の中身を聞いた時にギルベルト様は「お菓子です。道中にどうぞ」としか言っていなかったけど。その箱はお菓子には見えない。他のお菓子の箱や紙袋とは明らかに違う。何なのかしら?

 ゆっくりリボンを解く。包装紙も綺麗に。箱を開けると、ケシ粒のような真珠で編んである花模様のレースのヘアバンドだった。

「随分と手の込んだものですね。」

ハンナが言う。

 箱の中には手紙が入っていた。このヘアバンドはノーザンフィールド公爵の亡くなられた夫人の持ち物で、夫人は先代公爵の夫人から婚約のお祝いに送られたものらしい。先代の公爵夫人は婚約した時に先先代の公爵夫人から贈られた、って書いてある。もしかしてこのヘアバンド、代々の公爵夫人になる女性が婚約の時に贈られる物では⁈

 「やりましたね、殿下!」

手紙を覗き込んでいたロッテが叫ぶ。

「ロッテ、そんな大声を出したら他の乗客に迷惑よ。」

大声を出したことを注意する。それ以前に人の手紙を横から見ないでちょうだい。けれど、ロッテが声を出さなければ、私が叫んでいたわ。「やったー!」って。

 ハンナがブラシを手に持っている。私が「着けて」と言うのがわかっていたみたい。髪を綺麗にとかしてから、着けてみる。

 う〜ん。黒髪ならもっと映えたのでしょうけど、私は髪の色が薄いから。でも、すっごく可愛い。

「手の込んだお品なのはわかるし代々伝わっている物なんでしょうけど、ちょっと地味じゃないですかね?殿下は結婚されるまでは王女なんだし、結婚してもエルメニアで一番お金持ちの公爵の嫡男夫人ですよ。もっと大きな宝石が付いてたりとかのパァっと派手な物を贈れないもんですかね。」

ロッテの言うこともわかる。手の込んだ品で高価なのはわかるけど、ちょっと地味。やっぱり不細工な私は目立たないように地味な物をつけてろってこと?でも、代々の公爵嫡男の夫人が婚約のお祝いにお義母様から贈られるものだし、あそこの家は一族で結婚を繰り返していて皆美形揃いのはず。私の推理は成り立たない。

 ロッテと二人で首を捻った。

「人前に出ることを想定されたお品ではないのだと思います。自室で書き物や針仕事をする時にお髪が邪魔にならないように纏めておくためのお品だと思います。」

ハンナの言葉にロッテが疑問を言う。

「普段のってことですか?見せることを前提にしないなら、お金かけすぎな代物じゃないですか。リボンで用を足しますよ。」

「予定になくても突然人が訪ねて来たりして、会わなければならないこともあるでしょう?いつ人と会っても良いようにだと思います。

ロッテの言うような大ぶりな宝石がついた、いかにも財を見せびらかすような物を普段、日常に身につけるのは品が良い行いとは言えません。目立ちはしないけれど財力がわかるお品、というところでしょうか。」

ギルベルト様と結婚すると、そんなことまで気を配らないといけないの?私もさすがにヨレヨレのかぎ裂き、食べこぼしの染み付きドレスはどうかと思うけど。

 まあ、いいか。ギルベルト様はハンナやロッテ、侍女を連れて行ってもいいと言ってくれたし。ハンナもロッテも一緒に来てくれるって。ハンナに任せておけば問題ないよね。

 なんか疲れたし、今日はもう、寝よう。ギルベルト様の夢が見られるといいな。


 川には流れがあり、流れに逆らって上流に向かうよりも、下流に向かって進む方が早いに決まっている。なので、エルメニアに向かうよりもノーザンフィールド領に向かう船の方が早い。けれど、客船なので途中いくつかの港に泊まるので、やっぱり遅いと思う。ベッドとかは快適だけど、早く帰りたい時には貨物船だよね。船員の話も楽しかったし。退屈な何日かを過ごすことになりそう。

 この船の終点、ノーザンフィールドの領都につく日の朝、ノーザンフィールド公爵とケプラー子爵が私の船室を訪ねて来た。

「船は昼頃ノーザンフィールドに着きます。ノーザンフィールドかアルトドラッヘン、どちらかで一泊することになると思いますが、どちらでなさいますか?」

そんなの決まっている。アルトドラッヘンだ。今日のうちに海を渡っておけば、その分だけ早く出発できる。

 海を渡る。人生で二度目の海。何度見ても、って二度しか見てないけれど、面白い。いろいろな船が浮かんで行ったり来たりしている。動かない船もいる。それを眺めているうちにアルトドラッヘンについた。

 アルトドラッヘン辺境伯夫人は私が屋敷に泊まることをとても喜んでくれた。そして、明日早朝に出発することを悲しまれた。

 明日早く出発といえども、王女がいるので晩餐が催された。

「殿下は王立高等学院をご希望なさってますが、学院内は身分は一切考慮されません。平民も貴族、王族でさえも対等の立場なのです。殿下はそれをご承知ですか?」

なんで今更そんな質問を公爵はするのかしら?私を教えてくれた家庭教師は平民出身の博士もいた。慈善活動の時に会うだけ、という貴族令嬢ではない。それに、平民といっても最低限の礼儀は持ち合わせているはずだし、無法地帯ではないのだからそこまでの危険とは考えられない。公爵は何が言いたいのかしら?隣のケプラー子爵も難しい顔をしている。

 公爵は話を続ける。

「殿下はご承知でも、殿下のお父上である陛下はどうでしょう?学校に通われること自体、良く思われないのではないでしょうか?」

あ、お父様が反対するかもしれないということね。お母様も。説得できるかしら?

 ケプラー子爵が話す。

「殿下が陛下を説得できたとしましょう。学院に通い、無事卒業なさいます。卒業後はのことをお考えになられましたか?

学院でできた人脈は殿下が学者になるのなら良いのでしょうが、辺境伯夫人としてはどうでしょう?

外国人である殿下が人脈を築くのを助けてくれる公爵夫人はお亡くなりになっていますし、グロリア様は王太子妃。ご実家といえど一廷臣の夫人にあまり肩入れするのは難しいお立場です。殿下のお知り合いというと、ケリー伯爵夫人くらいですか。」

そうね、私はヴェストニアでも知り合いが少ないし、外国のエルメニアにはもっと少なくて、あの夜会の時にギルベルト様が紹介してくれた人くらい。いくらノーザンフィールド公爵は中央とは距離を置いていて、ギルベルト様が積極的な社交を望まれてはいないとしても、人脈が全くないというのも、ね。

 どうしたらいいのかしら?学問をするなら王立高等学院が最高だけれど、平民に人脈ができても貴族女性の社会では役に立ちそうにない。このままではお父様を説得出来ず、学校に行くのは無理なのかしら。

 でも、私も学校に行ってみたい。グロリア様もイザベル様も楽しそうに学校のお話をなさるんだもの。

「殿下、聖白百合学園はどうです?学問的には物足りないかもしれませんが、それなりの教授陣を揃えてますし、希望者には授業外でも勉強をみてくれます。それで足りなければ、お兄様、殿下のために学者を頼んでくれるでしよう?」

辺境伯夫人が助けてくれた。公爵もうなずいている。

 聖白百合学園か。ギルベルト様と一緒の学校ではないけど、もともと学年も違うから学校ではあまり一緒にいられないでしょうし、こだわる必要はないのかしら?聖白百合学園は貴族子女が通っていて卒業後も交流があるという話だから、人脈もできるだろうし。悪くない選択かも。

「聖白百合学園に行きます。私はエルメニアに知り合いもいないし、学校で人脈を作るのも必要だと思うんです。聖白百合学園なら、お父様も納得してくださるのではないかと。」

 私がそう言うと、ケプラー子爵がうなずきながら話し始めた。

「たしかに学校は学問をする場ですが、友人を作ったりいろいろな経験をする場でもあります。

王立高等学院は良い学校ではありますが、学内には身分が及びません。さすがに王太子殿下と婚約者であるグロリア様には護衛がついていますし、殿下にもつくとは思いますが、警備的にも聖白百合学園が良いと思われます。」

そうね、警備のこともあるわね。聖白百合学園は貴族子女が通うだけあって、学校にも専属の警護の騎士がいるらしい。

 警備もしっかりしているし、貴族子女が通うから人脈も築けるし、これならお父様も文句のつけようがないわね。

 前にアルトドラッヘンに来た時は自分に自信がなくて変な態度をとってしまい味もわからなかったけれど、今はギルベルト様も私との結婚を望んでいるとわかっている。望んでいるはちょっと言い過ぎかもしれないけれど、否定的な感情は無さそうだし、婚約者として大切に扱ってくれているとわかっている。なんたって、嫡男夫妻の住むお屋敷を滞在先にしてくれたくらいだし。普通に会話できるし、落ち着いて食事も味わえる。

 辺境伯夫人が私に話しかけて来た。

「殿下、ギルベルトは素っ気無い態度なのではなくて?キチンと殿下をエスコートできているのか心配です。殿下をお招きしながら、一度も王都の案内をしていないというではないですか。それに今も、せめてアルトドラッヘン迄でも殿下をお見送りできないものかと。殿下のように可愛らしい女性と婚約できて喜んでいるのですけど、女性の気持ちに疎いみたいで、母親としたら殿下に愛想を尽かされていないかと心配です。」

そんなこと、全然ない。いつも気遣って花やお菓子を届けてれるし、会えば私のおしゃべりにも付き合ってくれる。ヨハンナお姉様には「ルイーゼの話はよくわからないわ」って言われるのに、嫌な顔ひとつせず相槌を打って聞いてくれる。それに、王都の案内ができないのは王太子殿下の側近として、殿下だけでなく宰相のロイド伯爵からも期待されているから仕方ない。それに私自身刺繍に忙しかったし。

 うっかりギルベルト様のハンカチに刺繍をしたことを喋ってしまった。

「まあ、殿下がギルベルトのハンカチに刺繍を。先日、手紙が来たけれど、あの子、そんなこと一言も言ってなかったわ。」

いえ、言える出来ではないので言わなかっただけだと思います。せっかくギルベルト様が黙ってくれていたのに、自ら言ってしまった。

 辺境伯夫人は刺繍の詳細を知りたがった。私が口籠もっていると公爵が助けてくれた。

「ヘレン、そんなに知りたがるものではないよ。どんな刺繍なのか、グロリアでさえ見せてもらってないからね。」

夫人は「グロリアでさえ見せてもらえなかったのなら、仕方ないわね」と言って、それ以上追及しなかった。

 ギルベルト様とグロリア様は生まれた時からとは言わないけれど、物心つく前から一緒にいて、どこへ行くにも常に離れたことがないって聞いた。そのグロリア様にも見せてない。自分でもひどい出来だとは思っているけど、ギルベルト様にとってはグロリア様にも見せないほどの恥ずかしい出来だったのね。私はそう思ったのだけれど、辺境伯は違ったらしい。

「大切な物だから、誰にも見せずに自分だけの物にしておきたいんだろう。」

と言ってくれた。私の刺繍の出来を知らないとはいえ、随分と前向きな捉え方だわ。ギルベルト様もそう思ってくれていたらいいんだけど、、、

 明日早くの出発だからと晩餐はあまり遅くにならずに終わった。部屋に帰るとロッテが「今日は泣かないんですか?」と聞いてきた。

「なんで泣く必要があるのよ。明日早く出発するのよ。もう寝るんだから、寝る支度をしてちょうだい。」

本当になんで泣く必要があるの?前回のアレは、嫌われて婚約の話がなくなったとおもったからであって、もうギルベルト様と婚約したし、婚約者として夜会にも出たし。泣く必要なんてないじゃないの!

 ハンナが呆れた声をだす。

「殿下はロッテの相手をしない。ロッテもサッサと支度をする。せっかくここのメイドが『お寝み前にも』とお湯を用意してくれたのですから。」

ほら、ハンナに叱られた。ロッテのせいだからね。サッとお湯を使ってベッドに潜り込んだ。

 翌朝、出発時に寝ぼけていたのは私だけだった。

「殿下、起きてください。船に乗るんですから、危ないですよ。川に落っこちちゃいますよ。泳げるんですか?」

ロッテにそう言われて腕を掴まれる。

 痛い。強く掴みすぎ。「痛いじゃないの」と文句を言う私に辺境伯は「殿下は未だお若いですから、いくらでも寝られるんですよ」と言うが、ロッテはちっとも眠そうじゃない。「ロッテも同じ年なんだけど」と言う私にロッテはこう答えた。

「殿下とは鍛え方が違いますからね。」

鍛え方かぁ。

 鍛え方って何よ?何をどう鍛えるの?でも、ロッテは実家では継母に使用人みたいに、それ以上にこき使われていたって聞いたことがある。そのことかも。

 まあ、辺境伯夫人、将来は公爵夫人になるので朝早く起きる必要はないとはいえ、私だけが寝ぼけているのも格好が悪い。なので、パチンと両手で頬を叩く。痛い、けれど少し目が覚めた気がする。

 それは側から見てもわかったのか「これで、船から落ちずにすみますね」とロッテが笑う。私は慎重に舷梯をのぼって船に乗った。

 前回は絶望的な気持ちで船に乗って、ずっと泣いていた。でも、今は違う。ギルベルト様と少しでも一緒にいるために、また、人脈を作って少しでもギルベルト様のお役に立てるように、学校に行きたい。そのためにはお父様とお母様を説得しなくっちゃ。


 婚約を断られてしまう、と絶望的な気持ちだった前回とは違い、今回は船からの景色を眺める余裕がある。が、手放しで景色を楽しんでばかりはいられない。学校に通うのを許してもらえるよう、お父様達を説得しなければならないのだ。

 何しろヴェストニアには学校はほとんどない。大きくなった子弟に仕事ではなく学問をさせられるだけの余裕のある家は家庭教師を頼むのが普通だから。必然、学校に通うのは、家庭教師を頼む余裕のない下流階級ということになる。もちろんヴェストニアにも例外はある。大学だ。大学は貴族や裕福な商人の子弟が多い。でも、入学資格は男子のみ。女性が学校に通うのは下流階級で初等教育の間だけ。それすらも通わせない親も沢山いる。学校に対するイメージがエルメニアとは違いすぎる。前途多難の予感。

 船から馬車に乗り換える。

「う〜ん」

私は大きなあくびをした後、両手を伸ばして伸びをする。すぐさまハンナに「みっとものうございます」と注意される。

「だって、馬車って船と違って動けないでしょ。伸びくらいしないと体が固まってしんどいのよ。」

「そのために休憩がございます。」

ダメだわ。ハンナに勝てそうにない。

 一回でも船に乗ってしまうと、馬車は窮屈に感じる。ずっと座って動けないし。だからといって、休憩を何回も取れば、その分遅くなるし。休憩中も思い切り伸びをすると「みっともない」とハンナに注意されるし。

 宿での夕食時、馬車にぶうぶう不満を言う私にケプラー子爵は「殿下は波が静かな時の船しかご存知ないからそう思うのですよ」と言って、自分の体験した話をしてくれた。ケプラー子爵は若い頃、トレア公国に行った帰りの船で嵐にあったらしい。

「もう、上下に揺れるとか左右に揺れるとかではなく、上下左右全方向に振り回され、傾き、甲板は波をかぶるのです。かぶるというか、叩きつけるというか。その波に攫われ、海に落ちる人もいるとか。危ないから船室から出るなと言われたのですが、船室の中は波に攫われる危険がなとはいえ、何かに捕まらずに立っていることも座っていることも出来ず、一旦手を離してしまえば、船の揺れに併せて、あっちへゴロゴロこっちへゴロゴロと転がってしまうのです。もう、本当に生きた心地がしませんでしたよ。」

そんな大変な目にあったのに、私の婚約の交渉担当で何度も船に乗る羽目になってしまい、申し訳ないです。

 シュンとする私。

「あの嵐で何隻もの船が難破したといいます。私の乗った船は一人も波に攫われることなく、荷物も捨てることなく、無事にヴェストニアの港につきました。私は運が良かったみたいです。あの時はローゼニアの海運会社の船に便乗させてもらったのですが、それ以来、私は船に乗るときは必ずローゼニアの船に乗るようにしています。ローゼニアの船だから安全と言うわけではないのでしょうが、安心できるので。」

ケプラー子爵はそう言って笑った。

 海って楽しいばかりじゃないんだ。知識としては知っていたけど、実際に酷い目に遭った人の話を聞くと違う。

 とにかく前回とは違って、明るい気持ちでヴェストニアの王都に帰って来た。

 ヴェストニアの王城ではお父様とお母様が私を待ち侘びてくれていた。自分の部屋に帰る前に、キチンと挨拶しなくちゃ。

「お父様、お母様、ただいま帰りました。」

「ああ、お帰り。エルンストもご苦労だった。疲れているだろうが、簡単でいいので、先に報告してもらいたい。」

せっかちなお父様、ケプラー子爵も私も長旅で疲れているんだから、報告は明日でもいいじゃないの。

 ケプラー子爵は私よりも疲れているだろうに、エルメニアへの道中のこと、夜会のこと、滞在中のこと、ヴェストニアへの帰途のことを報告し始めた。

 私は一刻も早く、学校のことを話してお父様の許可をもらいたかったけれど「疲れているだろうから」と早く部屋に帰って休むように言われてしまった。

 久しぶりの自分の部屋。やっぱり落ち着く。メイドがお湯の支度をしたので、お湯に浸かった。お湯に浸かるのは気持ちがいい。

「う〜ん。」

と伸びをした。ハンナに何かを言われる前に「自分の部屋なんだからいいでしょ」と言った。ふふん、反論できまい。

 お湯に浸かっていると、急に眠気が襲ってきた。

「殿下、お湯に浸かっている時に寝てしまうと溺れちゃいますよ!」

ロッテの声だ。

「寝てま、せん。目を瞑ってい、るだ、け、、、」

「寝てます。サッサと上がってください。」

そう言うと、ロッテは「ヨイショ」と言いながら私の腕を引っ張る。うるさいなぁ、ロッテは。ハンナが二人いるみたい。仕方ないのでお湯から出てベッドへダイブ!

「あー、掛け布団の上に寝ちゃダメです。ヘルマン夫人も笑ってないで手伝ってくださいよ。」

 ドアが開く音がしてヨハンナお姉様の声がする。

「ルイーゼ、エルメニアの夜会はどうだったの?教えてちょうだい!

え、昼なのにもう寝てるの?」

「疲れているのよ。エルメニアではずっと緊張してたでしょうし、長旅だし。ゆっくり休ませてあげましょう。」

カタリーナお姉様だ。

 おやすみなさい。起きたら、いっぱいお話し聞いてね。

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