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魔境堕蛇羅

作者: 月輪話子

兄貴のラックから勝手にスカジャンを拝借した。


別に着たいわけじゃない。つーか正直御免被る。


鳥の翼をもった車のキー3羽が、周囲に極彩色の光を振りまいて笑うミラーボールっぽい太陽に向かって飛んでいて。

エッフェル塔が姫路城を縦にぶち割りながら聳え立ち、城の中の家老達は太陽の光のつぶに乗ってサーフィンしながら脱出。

そして一番大きく描かれている、金色の雲をまとったやけに神々しい白蛇が、その地獄のような光景を見ながら何語かでつぶやいている。

「Sono alle XXXX, questo trasforma l'anima in FACK!」


デザインが喧嘩している、目がちかちかする、悪趣味…等という感想では到底形容が間に合わない。

そんな『魔境』がでかでかと刺繍されたスカジャンなんて。


でもこんな意味不明なもんでも、兄貴はいたく気に入っていた。

物持ちが悪いアイツが、薄汚れてヨレヨレになっても裾が擦り切れても着続けていたし、恥ずかしいから出ていくときに着るのはやめろと散々言っても逆に魅力を小一時間力説されたりもした。


常人の理解をゆうに超え、小一時間見つめ続ければ1日中センチメンタルな気分になってしまいそうなレベルの代物を何故私がパクッているかというと…。

確かめたいことがあった。


兄貴は、まだこの魔境に住んでいるのか。



1か月前、兄貴に彼女が出来た。

ツーショット写真を見せてもらったけれど、なかなかオシャレな女性。

シンプルな中にガーリーがちゃんとあるコーデとメイクは、ファッションへの相当なこだわりを感じさせた。


横でへらへらピースマークを作っていた兄貴の私服はだささが際立っていた。


諭されたのか自分のセンスのなさに気づいたのかは知らないが、最近兄貴は上着をライダースに変えた。

彼女に選んでもらったのだとおもちゃを与えられた子供の様に舞い上がる姿は間が抜けて見えたが、元々スタイルはいい方なのでとても晴れやかに着こなしていた。


だから私は実験を敢行した。

結果は、あんなに気に入っていたスカジャンが1週間部屋からなくても全く気づかなかった。

兄貴の惚れこんだ魔境は、彼女という存在を前にいとも簡単に寂れてしまった。



アイツは今日も洗面台に鼻歌交じりで30分も張り付いて髪をセットしたあと、ピカピカのライダースを来てデートに向かった。


うっきうきでバカみたい。中学生かよ。



私とのショッピングのときは気にもしなかったくせに。


「彼女が」って枕詞をいちいちつけて話すな、うざい。

会ったこともないのに欲しいものなんて知らないよ。自分で考えろよレビュー★1のパチモンの化粧品紹介してやるぞ。



…私が一番かわいいんじゃなかったのかよ。



不満が止まらないどうしようもない私をスカジャンの蛇は笑っているように見えた。


ねー、蛇ちゃん。

アンタのいる世界を理解したら、もう一度アイツの世界を構成できる。

そんな気しない?




今日も私は行き場なく渦巻く想いとスカジャンを抱きしめて、眠りに堕ちる。

いつか、この蛇のマニアックな住みかの夢を見ることを夢見ながら。

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