はじまりの日 2
アニマル・トレインは、アニマルとつくだけあって動物を育てるゲーム。
動物の姿をしたアニマルモードと、耳や尻尾を残し擬人化した姿のフレンドモードがあって、好きなように切り替えられる。
アニマルモードのキャラはヌイグルミのような可愛さがあるし、フレンドモードは三頭身のちんまりしたキャラが人気がある。
アキラちゃんに言われたとおりゲーム機を充電しようとしたけど、良く分からなくて結局やってもらった。
どこに何を挿すのかとか、どれくらい充電しなくちゃいけないとか、色々教えてもらってその度に頷く。
機械オンチな訳じゃないから、多分大丈夫だと思うけど……。
「あれ、本体デザインだけ変わってると思ったけど……パーツも追加されてるみたい」
「え?」
「ほら、見て。アニトレに蝶なんかいないのに、入ってるよ」
電源を入れて初期設定をしてくれてたアキラちゃんが、そう言って画面を私に見せてくれた。
アニマルを選択する画面だけど、確かに蝶が表示されてる。
「この分だと、フレンドモードのパーツにも蝶が入ってるかも。すごいね、こんなの初めて見る」
「こ、これって私ひとりだけなのかな?」
「限定モデルで抽選一名だったんでしょ? じゃあ、ユウだけかもね」
「うわ……」
限定モデルって、デザインだけじゃなかったんだ……。
データまで追加されてるなんて、もしかしたら自分で思ってたよりもすごいものが当たっちゃったのかも。
アキラちゃんに聞いてみたら、こういうのは珍しいって。
限定カラーだとか、企業とコラボしてイラストが入ったのとかはあるけど、そういうのは基本的にデザインだけで中身は弄らないって。
オークションに出したら高値で売れると思うよ、なんて言われて勢い良く首を横に振った。
珍しい、というか、一点モノだからコレクターなんかは欲しがると思う。
でも、私はこの蝶のデザインが気に入ってるし、手放したくない。
そんな私の様子にアキラちゃんはちょっと笑って、私の頭をぽんぽんと叩いた。
……子ども扱いされてる。
「それで、どうするの? 他の動物にするか、蝶にするか」
「蝶!」
「……即答だね」
だって、折角データがあるなら、蝶にしたい。
本体のデザインとも合うし、このゲーム機を手に入れるきっかけだったんだから。
「オスかメスか、どうする?」
「オスがいいな」
「へぇ、どうして?」
「蝶はオスの方が羽が綺麗なんだよ」
ネットでモルフォの事を調べた時に、その事を初めて知ってビックリした。
でも、蝶に限らず、オスの方が色が鮮やかだったりする生き物は多いみたい。
蝶の中でも例外はあるらしいけど、モルフォはオスの方が綺麗。
「じゃあ、アニマルモードの方は蝶でOKだから、フレンドモードのパーツ選びだね。男の子用のパーツは……はい、ここから」
アキラちゃんがページを開いて見せてくれる。
顔の輪郭だけでも1ページはあるよ……。
「別に今ここで全部決めろって言ってるんじゃないよ。こうやって色々見てたら、どんなキャラにしようかイメージができてくるんじゃない?」
「あぁ、なるほど」
「本、貸してあげるから良く考えるといいよ。ボディパーツは一度決めたら変えられないからね」
アキラちゃんのアドバイスを聞きながら、輪郭、目、耳、鼻、口……顔のパーツを見ていく。
一番パーツの種類が多いのは、やっぱり目。
色々な形や大きさ、色は微妙に濃淡が違うものが並んでる。
それぞれのパーツが気に入っても、実際に顔に当てはめていくと微妙になる事もあるらしい。
パーツ番号をメモしておいて、ゲーム機の画面で組み合わせてチェックするように言われた。
顔の次は体で、後の大半は服や小物のパーツ。
学生服からユニフォーム、ファンタジーな感じのものもあって、本当に多種多様。
それに靴や帽子、アクセサリーといった装飾品まで。
小さい頃、着せ替え人形が好きだった私としてはちょっと心踊るものがある。
「服はもちろん好きなだけ変えられるから。でも、1日に何回も着せ替えさせると嫌がられるから気をつけなよ」
「う……」
さすが幼馴染、私が考えそうな事が分かってたか……。
でも、1日に1回ならいいよね?
こんなに種類があるんだもん、色々着せてみたい。
「ところで、どうやっておばさんたち説得したの?」
「……あ」
「はぁ……プロバイダ契約、親の同意がないと無理なのに、どうするの」
アキラちゃんの呆れたような視線に、私は首を竦めた。
そうだ、ついパーツ見るのが楽しくて忘れてたけど、まだゲームの事すら言ってないよ。
「どうしたらいいと思う? アキラちゃん……」
「そうだね……携帯電話との違いを説明すれば? ネットに繋がるって言っても、メールのやりとりできるのはお互いが許可したユーザー同士だけで、ネットも特定のサイトにしか繋がらないし。後は、さっきも言ったけど、プロバ代の安さだね」
「え、特定のサイト?」
「あぁ、これは言ってなかった? アニトレの公式サイトと、ユーザーの交流サイト、後はポイントに関するサイトとか。とにかく、アニトレ関連の許可されたサイトしか表示されないよ。プロバ代が安いのも、そのせい」
中高生が対象のゲームなだけに、完璧に有害サイトにアクセスさせない為の対策らしい。
親が安心して子供に与えられるゲームとして、パソコンや携帯電話はダメでも、アニトレならOKってケースが多いんだって。
アキラちゃんって情報通だなぁ。
……と、いう事は。
私の親も説得できるかも!
「ありがとう、アキラちゃん!」
「どういたしまして。ユウがアニトレできるようになったら、私も楽しめるからね」
また頭をぽんぽん叩かれた。
同い年なのに、いつも年下扱いされるっていうか……。
「おばさんたち説得したら、ネットが繋がるまでにパーツ決めて、キャラの名前も考えておくといいよ。後の事は実際に遊びながら説明してあげるから」
「うん、分かった。本当にありがとうね、アキラちゃん」
「いいって。それより、時間大丈夫? もう夕方だけど」
「えっ?」
アキラちゃんの言葉に部屋の時計を見ると、もう5時を回ってる。
アキラちゃんの家に来てるの知ってるからちょっとくらい遅くなっても怒られないだろうけど、今日はアニトレの件があるから機嫌を損ねるのは避けたい。
私が慌ててる間に、アキラちゃんはゲーム機を元通り箱に戻してくれてた。
お礼を言ってトートに箱を入れると、貸してもらった重い本を抱えて立ち上がる。
「頑張って」
「うん! 明日どうなったか報告するから」
アキラちゃんと一緒に階段を下りて、玄関先でバイバイと手を振って別れた。
教えてもらった事を言えば、私もOKをもらえる確立は高いと思う。
頑張って説得して、楽しい気分でパーツ選びしたいなぁ。
お母さんが許可してくれたら、お父さんが反対しないのは今までの経験で分かってる。
二人同時に相手にするのは大変だから、狙うならまだお父さんが帰ってきてないだろう今!
私はひとり気合を入れて、足早に家に帰った。