怪盗の名を持つもの
私の名はカイトゥー。スペルはKAITWO。
怪盗の技と共に父のような存在のあの方より頂いた名だ。
今日は世界屈指の大企業に忍び込む。
「遂にこのセキュリティに挑む日が来たな。時間との戦いになるぞ。」
それは4重になっていて各層に扉が2つあるのだ。
片方は使い古されたオーソドックスなキーロックで、もう一方は最新の外部保管式認証ロックだった。
後者の方の端末は指紋情報を読み取り解錠するタイプだ。ただし、外部保管式という事でこの端末から直接登録情報を吸い出すことは出来ない。読み取った情報を別端末に送り、そこで照合して結果のみをまた別の端末に送る。履歴は残らないようになっていて、送信情報を捕捉して遡ってもそこには結果の情報しか無い。間に別端末を挟んでいると更に遡る事は出来ない。難攻不落のロックシステムなのだ。
「まあ、私にかかればこの程度なんて事はないのだがな。フゥッハッハッ!
んっ、待てよ。これは…解錠出来ないな。」
ただでさえ時間をかければ見回りに見つかると言うのに、その前に仮に登録情報を見つけ当てても解錠した瞬間に捕まる。所謂フェイク錠と言うやつだ。
「難解な物に挑戦したくなる怪盗心を逆手に取ったいい罠だったぞ。」
キーロックを手早く解除すると、次の層へ進む。
結局4層とも同じだった。
「くっ、次こそはとの思いで疑心暗鬼にまでさせるとは、このセキュリティの作成者は相当な捻くれ者だな。」
最後の扉に手を掛ける。
「さあ、ご開帳だ。」
中にはずらりとファイルが並んでいた。
その時、扉が解錠されて開き、見回りが中のチェックを始めた。
「聞いていた時間通りだったな。全く律儀な事だ。」
膨大な量のファイルに身を隠したカイトゥーは呟いた。
見回りが去るとファイルを読む。
「へー、これは便利そうだな。早く発売しないかな。っと、違った。仕事をしないとな。」
手元にあったファイルに書き込む。
「ケイ、エイアイ、トゥー、これで良し。後は足跡を残してっと。良し帰るか。」
このK-AI-Ⅱと言うハッキングAIツールが評価されて、大企業のセキュリティ顧問として迎えられたあの方の元で、今度は侵入者を排除する仕事をこなすカイトゥもとい、S-AI-Ⅱその名もサイトゥーだった。