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夢の中の微笑み

処女作です。


 私は今日も夢を見る。

 それはとても暖かくて、儚い夢。


「今日はいい天気だね!」


 夢の中の名も知らぬ彼女はそう私に語りかける。

そんな彼女に夢の中の私は曖昧な返事をして、


「もうっ、久し振りに2人で出掛けてるんだからもっと楽しそうにしてくれてもいいじゃない………」


 私は苦笑いをしながら彼女の手を握りしめる。


「ふふっ、素直じゃないんだから」


 彼女はそう言いながら微笑んで、


「それじゃあ行こっか!あなた!」





――――――――――





「またあの子の出る夢か………」


 私は布団から起き上がりそう呟く。時計を見るといつもより少しだけ早く起きてしまった事に気付く。


「今日は入学式だから早めに準備でもしようかな」


 私、東雲薫(しののめかおる)は何処にでもいるような普通の15歳。今日から晴れて地元の高校に通う事になるピチピチのJKである。

 しかし、中学を卒業する手前から少し可笑しな夢を見るようになったのだ。それは私だけど私ではない誰かと、その私ではない誰かといつも一緒にいる可愛い女性の2人の日常に関する夢。


「なんで夢なのにあんなに鮮明に覚えているんだろう」


 私は洗面台の鏡を見てドライヤーで髪をセットしながらあの夢について考える。

 そもそもなぜ私の立ち位置が男なのだろうか。私はこんなにも普通の女の子だというのに。


「でもやっぱりあの人可愛いよなあ」


 鏡に映る自分の顔と夢に出てくる女性の顔を脳内で比べると自分の地味さに悲しくなってくる。私はそんな事を考えながら髪のセットを続けた。


「それじゃあ行ってきます」


 支度を終えて新しい制服に身を包んだ私は、誰もいない家に向かって挨拶をする。私の両親は仕事の都合で家にいない事が多い。その為、朝のこの光景にも慣れたものである。

 まあ、娘の入学式の日にも帰ってこないのは流石に寂しいのだが。


「か〜お〜る〜!」


 そんな事を考えながら新しい通学路を歩いていると後ろから知った声が聞こえてきた。


「おっはよーー!!」


 朝から元気いっぱいな彼女はそう言いながら私に抱きついてきた。これで私以外の人だったらどうするつもりだったんだろう、この子は。


「おはよう、小夜」

「いや〜今日からアタシ達も花のJKだね!!」

「私は小夜と違って地味だから、花って程でもないけどね」

「いーや薫は可愛いね、アタシが断言する!」

「はいはい、どうもありがとうございます」

「ぶー。なんで信じてくれないかなぁ………」


 横で不機嫌そうな顔をしているこの子は和泉小夜(いずみさよ)。小学生の頃からの親友だ。この子は誰とでも仲良くなれるし、クラスの中心人物と言ってもいいのだが何故か私といる事が多い。ちなみにめちゃくちゃ可愛くてモテる。


「それより小夜、髪染めたの?」

「うん!あの高校少し染めるぐらいなら大丈夫みたいだからアッシュブラウンにしてみたんだ!」

「そっか、結構似合ってるよ。元気な小夜にピッタリな色って感じで」

「えへへ…ありがと!薫は染めないの?」

「私はこのままでいいかな」


 小夜の髪型はポニーテールのため、髪を染めた事によりなんだか更に元気っ子に見える。これでスポーツ少女でないのだから世の中はなんとも不思議だ。ちなみに身長も私より高くスタイルもいい。全くもって羨ましい。

 ちなみに私は150cm程度の身長で髪は黒髪セミロングというなんともシンプルな髪型である。それに黒縁眼鏡をしているため地味さを際立たせる。まあ特に問題はないからいいだろう。もう少し身長が欲しいとは思うけど……。

 大体、髪を染めるのは小夜やあの夢の女性みたいな可愛い女性だから似合うのだ。私みたいな地味子は黒で十分である。


「まあ、薫には黒が似合ってるしそのままでいっか………。おっ、学校見えてきたね!」

「高校でも出来れば小夜と同じクラスになりたいな」

「アタシも薫と一緒が良いなぁ」


 なんだかんだ私と小夜は同じクラスになる事が多い。小中合わせてクラスが別れた事は2回だけである。まあ高校はクラスが多いため一緒になれる確率は低いが、それでも期待してしまう。

 無事、高校に辿り着いた私達は高校の正門にある入学式の看板とお決まりの写真を小夜と撮り、正門を潜りクラス表を見に行く。

 私は自分の名前を探していると、先に小夜が声を上げた。


「やったっ!アタシ達同じクラスだよ薫!!」


 小夜が指差す方向を見るとそこには和泉小夜の文字。そして、その少し下の方に東雲薫の文字があった。


「今年もよろしくね、小夜」


 私の高校生活は良いスタートを切れそうだ。





――――――――――





 クラス表を確認した私達は入学式の会場となる体育館へ向かう。入学式はクラス毎に出席番号順に座って行われるらしい。しばらくの間は小夜と離れる事になる。『い』と『し』では近くになれないのは仕方ないが、やはり少し寂しさを感じてしまう。

 そう思いながら私は自分の座席を探しそこに座る。席に座って携帯を弄りながら開始を待つ。しばらくすると私の隣の席に座る音が聞こえた。私は少しだけ目を向けるとその子と目が合った。女子の制服を着用し、少々癖のあるショートヘアーと優しそうな垂れ目、そして何よりも目を引いたのが白のメッシュが髪に入っている事だった。驚いた私に対して、その子が話しかけてきた。


「キミがボクの前の番号の東雲さんで合ってる?」


 ――私は驚きのダブルパンチを食らった。白のメッシュにボクっ娘だなんてこんな衝撃的な事はそうそう無いだろう。ボクっ娘……いたんだ……。そんな事を思いながら私はなんとか返事をする。


「私が東雲で合ってるよ。東雲薫。ということは貴方が周防さん?」

「うん!ボクは周防小鳥(すおうことり)だよ!よろしくね東雲さん!」

「ええ、よろしくね周防さん」


 なんだかおっとりしてそうな見た目に合わない喋り方にギャップを感じながら私と周防さんは自己紹介の後、入学式の開始までお互いのことについて話し合った。





――――――――――





 入学式は特に問題なく終わりそれぞれのクラスへと移動となった。私達は1年3組の教室へ移動する。教室に着きクラスメイト全員が自分の席に座り終わるとこのクラスの担任が声を上げる。


「俺がこの1年3組の担任となった袴田了(はかまだりょう)だ。これから1年間よろしく頼む。担当教科は数学だ。そして、君達にはいきなりで悪いが自己紹介をしていって貰おうと思う。俺も早くみんなの名前と顔を一致させたいからな」


 袴田先生(見た目が少し女っぽいからカマちゃんと心の中で呼ばせて貰おう)はそう言うと、出席番号の初めから前に出て自己紹介するように伝えて窓際に行ってしまった。うむ、結構強引なんだなカマちゃん。

 自己紹介が始まってすぐに小夜の番が来た。


「出席番号2番、和泉小夜です!好きな事は読書で恋愛小説を良く読みます。嫌いな事はいじめとかそういう事全般。困った事があったら私に何でも頼ってね!」


 実に小夜らしい自己紹介だ。普通の人はああいう事を皆んなの前では言えない。そこが小夜の強いところなのだろう。男女問わず小夜に好奇の視線が注ぐ。やっぱり小夜は何処でも注目されるんだな、と私は少しだけ呆れた。

 その後も自己紹介は順調に進んでいき、そろそろ終わりといったところだろうか。小夜以降の目立った自己紹介はといえばやはり周防さんだろうか。見た目といいリアルボクっ娘というのがクラスメイトにも衝撃的だったみたいである。私?私は適当にやり過ごしました。


 後数人というところでそれは起こった。私がボーッとしながら自己紹介を聞いていた時だった。

 1人の女子生徒が教壇の前に立ち自己紹介を始める。その女子生徒は小夜に負けず劣らずの可愛さであった。私の頭の中で何かがチラつく。

(何処かで見た事あるような………)


「出席番号35番、(やなぎ)こころです。好きなものは――」


 私は必死に記憶を探る。


 最近何処かで見たような。


 だが思い出せない。


 何とも言えない歯痒さが薫を襲う。


「1年間よろしくお願いします」



 そう言って彼女は―――




 夢の中の彼女と同じように





 こちらを見て微笑んだ。










批評をいただけると嬉しいです。

手探りですが頑張っていきたいと思います。

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