幸運と言えるかはまだ分からぬがの
「バカですね~、ヨコヅナ様は」
ここはハイネの屋敷にあるヨコヅナの部屋、仕事の類もこの部屋で行うことになっている。
経営者としてのノウハウはもちろん、事務仕事すらしたことないヨコヅナでは書類一つにしても、
「見辛いうえに、誤字も計算ミスもある。進捗が遅れているわけです」
「申し訳ないだ…」
「コヒィーリア王女の元に届いていた報告書はちゃんとしていたはずですが」
「あれは我が書いたモノじゃからの」
ヨコヅナが書いたものをそのまま送れば、速攻で呼び出されて説教だと思い、コヒィーリアにはカルレインが清書した書類を送っていた。
「カル様が責任者になった方が上手くいきそうですね」
「オラもそう思うだよ」
ラビスの皮肉に対して本気で賛成するヨコヅナ。
「面倒だから嫌じゃ」
「…そうですね、カル様が責任者なら私が補佐する必要もありません。ヨコヅナ様はラッキーですね~」
ヨコヅナの経営者としての能力が低くからといって、別にラビスは怒っているわけではない。
寧ろそれだけ難易度が上がる、つまり自分にしか出来ない仕事ということになるのだ。
「ちゃんこ鍋屋と清髪剤の仕事が成功すばお金持ちになれます。デブでバカでエロいヨコヅナ様でもお金持ちなら女の子にモテますよ」
「…幸運というより姫さんのおかげだべ」
悪口の部分は聞き流し、気になったとこだけ訂正するヨコヅナ。
「それは違いますよ。コヒィーリア王女に支援してもらえるのは、ヨコヅナ様の実力です」
清髪剤はカルレインの発案だということだが、ちゃんこ鍋は完全にヨコヅナの実力だ。
そもそも闘技大会で結果を残せたからコヒィーリアの目に止まり今があるとも言える。
その点に関してはラビスは運だと思っていない。
「じゃあ何が幸運なんだべ?」
「決まってるじゃないですか、私が補佐になったことですよ」
自分が補佐をすれば成功間違い無しだと言い切るラビス。
「本当に自信家だべな」
「事実ですから、ヨコヅナ様とは違うのですよ」
ヨコヅナを貶すことは忘れずとも仕事に対しては真面目なラビスは、
「さてと、ヨコヅナ様には基本的な書類作成から出来るようになって貰わなくてはいけませんが、それを待っていては何時まで経っても仕事は終わりません」
事実なのだが、相手の気持ちなど考えずはっきりモノを言うラビス。
「なので私が書類を作り、ヨコヅナ様が確認して判子をするのが基本の流れになりますね。もちろん後々の為に書類作成も出来るようになってもらいますが」
ヨコヅナの補佐にはなったがずっとではない。いずれはコヒィーリアの専属の仕事に戻ることになる。
「それでこの後のご予定ですが」
「あ、今日はマツさんの手伝いがあるだ」
「手伝い?」
「荷物運びと庭師の作業じゃよ」
今日は屋敷に必要な日用品等の納入日、それに合わせて庭師の作業を手伝うのが、今までの流れだ。
「…それはヨコヅナ様がしなくてはいけない仕事なのですか?」
「日にもよるだが量も多いし重たい物もあるから、オラがいた方が早く終わるだ」
「庭師の作業の方は、庭を我好みにしたいだけじゃから別にいつでも良いぞ」
王女の依頼より優先するのは、それなりに理由が必要になるが、それ以前に一つ疑問が浮かぶラビス
「それは賃金が発生しているのですか?」
「してないだよ」
最初ハイネもお金を払うと言っていたのだが、ヨコヅナは住まわせてもらっている上、食費も払っていないのだからと断ったのだ。
「…ヨコヅナ様は本当にバカですね~」
「あ~…、仕事が遅れているから駄目だべか」
「いいえ、ヨコヅナ様の環境を考えるに荷物運び程度の手伝いはするべきでしょう」
日々共に過ごす人達の心象が悪くなるとヨコヅナに余計なストレスを与える原因になりかねない。
ヨコヅナのことを貶しはするが、生活環境の安定はしっかり考えるラビス。
「庭の作業の方は一時中断ですね。ちゃんこ鍋屋の件を急いで進める必要がありますので」
「清髪剤じゃなくて、ちゃんこ鍋屋を急ぐだか?」
「理由は大きく分けて三つあります。一つは建国祭での噂が忘れられる前に広告を出せるようにする為、二つ目は季節てきに寒くなってきます。ちゃんこ鍋は寒い時期のほうが売れるでしょう」
仕事に対して真面目なラビスは、既にちゃんこ鍋を売るための戦略を考えている。
「そして三つ目は、グズグズしていると紛い物が出てきます」
建国祭で一番と言っても過言ではないほど来客数だったのだ、名前だけパクって売り出す者もいるだろう。
「なので最優先はちゃんこ鍋屋の開業を広告する為の準備です」
「ビラでも作るだか?」
「それも必要ですが先ずは、開店する場所探しですね。なので屋敷での手伝いが終わりましたら立地を探しに行きます」
「分かっただ」
「他にもやることは沢山ありますから、さっさと終わらせてください」
「了解だべ」
そう言ってマツを手伝いに部屋を出ていくヨコヅナ。
「どっちが主人か分からんの」
「主人はコヒィーリア王女ですから、ヨコヅナ様を敬う必要はありません」
「そうじゃな」
「さて、この間に出来る仕事を進めておきますか。カル様も手伝ってください」
ヨコヅナが作成した雑な書類と他から上がってき来た書類なども、まとめてテキパキと処理していくラビス。
「…本当に仕事に関しては真面目じゃな」




