連続で我の出番がないじゃと!?
早く、速く、疾い。
『瞬歩』のように直線的な動きだけではない縦横無尽でかつ、無駄のない洗練された動き。
相手の攻撃への反応速度は未来が見えてるかのごとく初動で叩き落とす。
何よりは剣速。並の格闘家の打撃であれば全て叩き落とせるヨコヅナが反応できず、打ち込まれ放題だ。
『閃光』と呼ばれる所以を叩き込まれるヨコヅナ、捕まえるどころか触れることすらできない。
ハイネも初めの内こそ手加減した打ち込みだったが、ヨコヅナの打たれ強さが分かると攻撃に遠慮がなくなっていった。
「聞いてた以上の打たれ強さだな、ハハハッ」
話しながらも手は止まっていないハイネ、笑いながら二本の木刀を振る。
ただヨコヅナも無様に打たれ続けてるだけではない、小さく身を固め最小限の動きで急所への攻撃だけは何とか防ぐ。
「姫さんと言い、大会での娘と言い、王都は暴力的な女性が多いだな」
「ほほぉ、喋る余裕が出てきたか」
ハイネは会話をしながらも、瞬時にヨコヅナの懐に入り横腹への斬撃。
ヨコヅナは体の向きを少しだけ変え、腹の正面で斬撃を受ける。
ヨコヅナにとって腹への攻撃は真剣でもなければ防ぐ必要がない。
好機とみて捕まえようと手を伸ばそうとするヨコヅナ、しかしそれはハイネの罠。
固めていた防御が緩んだ事で出来たの隙間を縫うような下から突き上げる刺突、しかも狙いは喉。
「っんな!?」
危険を感じ咄嗟に身を捩って何とか回避するヨコヅナ。
「フム、危険な攻撃への反応能力はかなり高いな」
冷静に分析するハイネ。
「さ、さすがに今のはヤバイだよ!?」
「当たったら止めてたさ」
これはいい訳ではなく自信からの言葉である。
ハイネの剣は速いだけでなく技術も高い。
同じ二刀でも先日絡んできた狂刃のボーザとは剣技のレベルが段違いに高い。
それは才能もあるが日々の弛まぬ努力があってこそのモノ、
「日々の鍛錬を真面目に行っている所など好感が持てる」という言葉は自分と同じであることからだ。
「もう終わりで良くないだか」
「何を言っている、楽しくなってきたところだろ」
始めた時に比べてヨコヅナの目がハイネの速さに慣れてきたため、徐々に反応できるようになってきていた。
「オラは楽しくないだよ」
「なら、私を捕まえる事が出来たら何でも言うことをきいてやろう」
「……そういう約束は気安くするものじゃないと思うだよ」
「捕まらないから問題ない!」
ハイネはそう言って攻撃のため前に出てくる。
正面からまた刺突を繰り出す、だがあきらかに届かない間合い。
だがしかし木刀が伸びた。
「っ!?」
正確にはヨコヅナからは伸びたように見えただけで、ハイネは突き出した木刀の柄頭をもう一本に木刀でさらに突くことで届かせたのだ。
何とか腕での防御が間に合ったがハイネの姿がない。
刺突を防ぐためにヨコヅナが自らの腕で視線を遮った隙に、ハイネは死角に回り込んでいた。
後頭部への遠慮のない一撃。
ヨコヅナは死角からの攻撃に対して頭だけは守ろうと見もせず腕を振る。
ハイネは腕に木刀が当たる寸前に斬撃の軌道を変える。
狙いは足、太ももに強烈な一撃。
バギッ!という音と共に木刀が折れる。
「っ!?」
今度はハイネが驚くこととなり、一瞬動きが止まる。
それを捕まえようとヨコヅナが手を伸ばすが、すぐに離れたハイネの腕に僅かに触れただけだった。
「よく鍛えているな、打った感触が足とは思えないものだったぞ。」
驚きながらも楽しそうなハイネ。
「痛いことに代わり無いだよ。木刀も折れた事だし、そろそろ終わりにするだか」
「安心しろヨコヅナ」
笑顔でそう言うハイネだが、その笑顔にヨコヅナは不安しか感じない。
「ここは訓練場、木刀なんていくらでもある」
折れたは木刀の代わりにハイネの手には新しい木刀がいつの間にか握られている。
「やっぱり続くだべか…」
しばらく手合わせ(一見イジメのようにも見える)が続いたが、訓練場に他の人が現れたあたりで。
「さすがにもう終わるか、朝食を待たせすぎるのも悪いしな」
「ハァハァ、やっとだべか」
質の高い手合わせに息が切れているヨコヅナ。
「一度も捕まえることが出来なかっただな」
数え切れないほど打ち込まれ、身体が痣だらけになっても、結局ハイネを捕まえるどころか触れることすら、ほとんど出来なかった。
「落ち込むことはないさ、ヨコヅナは十分強い」
「……よく言うだよ。真剣だったら、20回は死んでるだ」
「逆にヨコヅナが防具を着けていればもっと少ないさ。今すぐ戦場に出ても生き抜けると保証するぞ」
「軍には入らないからそんな保証いらないだよ」
「全く頑固なやつだな」
「ハイネ様には言われなくないだよ」
「フフフ」
「ははは」
楽しそうに笑う二人、しつこく勧誘してくるがハイネにとってももう半分冗談なのだろう。
「仮に入隊したとしても、ハイネ様みないに上手く剣を扱えるとは思えないだよ」
子供の頃村のみんなと騎士ごっこと言って木刀を振り回して遊んだりしたことがあったが、どうもしっくりこなかった。
「別に剣である必要はないさ、槍でも矛でも弓でも。戦場では鉄槌を振り回す強者もいるしな」
ハイネは視線を変え、ヨコヅナがすり足の時に使っていた鉄の塊の方を見る。
「試しにあの大鉄棍を振ってみてはどうだ」
「あれって武器だったべか」
太い鉄の柱に両手持ちの取ってを付けただけのような大鉄棍。
確かにあれで殴られれば怪我では済まないだろう。
「ああ、ここではろくに扱える者がいないからただの置物になっていたがな」
軍に入るつもりは毛頭ないが、興味本位で試してみることにするヨコヅナ。
木打ち用の丸太の前で大鉄棍を持って構える。
村でやっていた斧で横から木を切る感じで振ってみる。
常人では持ち上げることも困難なほどの重量の大鉄棍だが、ヨコヅナは難なく持ち上げ、振り回しても揺らぐことのないほどの足腰をしている。
そんなヨコヅナが放つ一撃の的になった丸太は、
木っ端微塵に弾け跳ぶ。
「…フム、入隊願書を取ってくるか」
「だから軍には入らないだよ!」




