倒せるのであれば一緒じゃがな
ヨコヅナは殴りかかってきた相手の拳を躱しつつ半身になり、相手の腰を下から持ちつつ、逆の手で後頭部を掴み、そのまま地面へと叩きつけた。
【下手投げ】闘技大会でヂャバラを投げた技だ。ヂャバラはふらつきながらも立ち上がっていたが、常人では数日は立ち上がることが出来ない。
「絡んでくる奴多すぎじゃないだべか」
「肩がぶつかって骨が折れたから、治療費よこせとか、またベタじゃったの」
「それにしても理解できないべな」
向かってくる相手がいなくなったことで、最初襲われた時から気になっていた疑問に首を傾げる。
「まぁ、こんなところを金持ちが呑気に歩いているとも思えぬし、通るにしても護衛は当然おるじゃろな」
何も知らずに貧困街入ってきた田舎者を狙うにしても必ずしも弱いとは限らない。
「ヨコのように簡単に返り討ちにできる者もおる。とても効率的とは言えぬの」
ゴロツキに効率など言っても仕方ないがの、とつけ付け加えるカルレインだが、
「そういう意味じゃないだよ」
ヨコヅナの疑問とは少し違っていた。
「ではなんじゃ?」
「狩る覚悟も狩られる覚悟もないみたいだべ」
それは普段から獣を狩ったり、盗賊を退治していたからこその考えだ。
ヨコヅナは人を襲って金品を得るというのはとても危険を伴う行為と考えている。殺されても文句を言えない行為だからだ。
「わはは、ゴロツキにそんな覚悟があるはずなかろ。こやつらは楽して金を得たいだけなのじゃから」
「コツコツ畑仕事してるほうが楽だとオラは思うだべがな」
「ヨコの意見は間違っているとは言わぬが、皆が同意するかは別じゃな」
「見つけたぜ!ここに居やがったか!」
声の方を向くと顔にくっきり大きな手形がついた男がいた。ヨコヅナに握り締められ泡を吹いて気絶したはずだが、意識が戻ったらしい。
泣きながら許しを請うていたが早くも仕返しに来たようだ。
「先生!あいつです!」
手形男が読んだのは黒い服を着た男。ゴロツキ達とは雰囲気が違う。
「わざわざ俺を呼んできて倒して欲しいのはこんな田舎者の……ん?」
はじめヨコヅナを嘲るような表情をしていた黒男だが、何かに気づいたかのように表情を変える。
「貴様、闘技大会に出場していた者だな?」
「え、あ~……出てただよ」
「なるほどな。こいつらでは束になっても敵わぬわけだ」
「あいつを知っているんですか?」
「王女が主催した闘技大会の準優勝者、ヂャバラを倒したのもこの男だ」
「ヂャバラってあの四狂の!?」
「つまらぬ仕事だと思ったが、来たかいがあったな」
そう言って闘志をあらわに前にでる黒男。
「俺はコクエン流のヘンゼン。次は俺が相手になろう」
「……名乗ってもらって悪いだが、オラはあんたと闘う理由なんてないだよ」
闘る気のヘンゼンに気の抜けた声で答えるヨコヅナ。
「新参者が暴れ回っていると聞いたのだが?」
「食べ歩きしてたら、絡まれたから身を守ってただけだべ」
「そうか。だがこちらも雇われている身なのでな。仕事である以上貴様を倒させてもらう」
「はぁ~……やっぱり帰るべきだったべな」
ヘンゼンが引く気はなさそうなのでヨコヅナは渋々構える。
「やる気が出ないなら出さしてやろう」
そう言うと同時にヘンゼンの体がブレる。
予備動作のない状態での高速移動でヨコヅナの目の前に移動し、中段突きを繰り出すヘンゼン。
予想外の動きにヨコヅナは無防備に一撃喰らうがヘンゼンは追撃せず距離を取る。
「驚いたか、ケンシン流では瞬歩と呼ばれ奥義とされているらしいが、コクエン流では基本技の一つだ」
「そうだべか」
「コクエン流は実践格闘技、ケンシン流のような名が広がってるだけのお遊戯を同じと思わないことだな」
「そ、そうだべか」
ヘンゼンが自慢げに説明してくるが、ヨコヅナは全く興味なかった。
闘技大会を観ていたヘンゼンはヨコヅナを格闘家だと思っているがヨコヅナにそんな意識はない。
スモウを格闘技と思っていないという意味ではなく、ヨコヅナにとって強くなるというのは目的ではなく、のんびり生きるための手段だからだ。
ちなみにコクエン流は人気のあるケンシン流を何かと目の敵にしている。
【瞬歩】も同じ技名が嫌なのか【疾動】と呼んでいる。
「ケンシン流とコクエン流の実力の違いを、その身に教えてやろう」
「いや、別に教えてくれな」
「アチョー!!」
ヨコヅナの言葉など聞かず、ヘンゼンは掛け声と共に攻撃を仕掛ける。
「ハイ!ハイ!ハイ!ハイィ!!」
ヘンゼンは突き蹴りを織り交ぜ、激しい連続攻撃を繰り出す。
「……ゴロツキ達に比べればマシじゃが」
ヨコヅナは全ての攻撃を叩き落す。
闘武大会ではいいように殴られることの多かったヨコヅナだが、決して反応速度が遅いわけではない。
ヘンゼンの攻撃なら緊張や重圧がない状態であれば叩き落すぐらい造作も無い。
「ちっ、鈍重な筋肉バカではないか、ならば」
距離をとり攻め方を変えるヘンゼン、明らかに届かない間合いから蹴りを放つ。
石がヨコヅナに向かって飛ぶ。落ちていた石をヘンゼンが蹴り飛ばしたのだ。
「実践格闘技と言っただろう!」
ヨコヅナは飛んできた小石を叩き落すが、ヘンゼンに疾動で懐に入られ腹に手をそえられる。
「ハァッ!!」
ヘンゼンは【破擊】(ケンシン流での【発勁】)を放つ。
破擊は完全にきまっており、並の者なら内臓を損傷し勝負は決まっていただろう。
「あ、それは覚えてるだよ」
「な!?」
しかしヨコヅナは何事もなかったような声とともに、今度はヨコヅナがヘンゼンの胸に手をそえる。
「こんな感じだべか」
「ぐはッ!」
ヘンゼンの体が吹き飛ぶ。
「わははっ、下手クソじゃの。それではただの近距離張り手じゃろ」
破擊(発勁)は衝撃を後ろに逃さず、相手に叩き込むことが真髄であり、吹き飛んでは意味がない。
「難しいだな」
「ケケケッ おもしれー奴がいるじゃねーか」




