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わははっ!運命の出会いじゃの


「ここに来るのも久ぶりだべ」


 夢を語りあったあの日から数年の月日が経ち、子供達はそれぞれ自分の夢を叶えるため村を出ていった。


「みんな元気だといいだな」


 一人残った少年は畑を耕したり、森で獲物を狩ったりと、皆が嫌がった生活を送っていたが自分にはこんな生活が合っていると考え、これからも村を出ることはないだろうと思っていた。

 今日も仕掛けていた罠に獲物がかかっていないかを見に森に入り、使わなくなって久しい秘密基地に寄ったのだった。

 少年が成長したこともあり、入口は小さく中へ入ってみると立つのもやっとという広さだ。


「こんなに狭かったんだったべかな?」


 中には昔みんなで持ってきた物や、台所もどきや寝台もどきなど、子供ながらに皆で工夫して作ったものもある。

 大概はホコリをかぶっており、壊れているものが多い。


 懐かしみながら周りを見回していると、ガサッと


「ん?……」


 寝台ところから物音が聞こえた。

 よく見ると布団がもり上がっている。

 動物でも入り込んだのか、もしくは何処かから流れてきた浮浪者が住み着いたか。

 一瞬身構えた少年だったが、


「ふぁーぁ、………誰じゃお主?」


 ムクりと眠気眼にそう言って寝台から起き上がったのは少女だった、村では見ない少女だ。


「…それはオラが聞きたいだよ」


 歳は10才程に見え、髪は長く銀で瞳は金、肌は透き通るように白く顔は人形のように整っていた、まるで妖精のような少女だ。

 ただ、服装はボロボロの布をまとっているだけの格好だから残念感が漂っている。

 不審者には違いないが、子供だから危険はない・・・とは思えなかった。

 少女が纒う雰囲気が普通の人間とは明らかに違うと少年には感じられたからだ、本当に妖精かもしれないと思えるほどに。


「そう警戒するでない」


 少女はゆっくりと寝台から降りて立ち上がる。


「お主はこの小屋の持ち主かの?」

「別に持ち主という……!?」


 言葉の途中で少年は何かに気づく。


「…なんじゃ!?」


 少年は突然少女を引き寄せる、その瞬間。

 爆発したかのような轟音と共に小屋の壁が破壊される。


「にょわぁぁ!!?」


 少年は少女をかばうように自分の後にやる。


 ぐるうぅぅぅぅぁぁあああっ!!!


 そこから現れたのは、巨大な熊。


「…魔素狂いだべか」


 熊は毛が異様に黒く、目が赤く輝いている、小屋を破壊してくるだけあって異常な凶暴性がある。


「とりあえず、外に出るだよ!」


 少年は少女を小脇に抱える。


「そんな荷物のように持つでない!!」


 少女の文句は聞かず外へ出る。


 がるううぅぅぁぁああっ!!!


 小屋を壊しながら二人を追って来る熊。

 外に出た少年はそのまま逃げ出さず、距離を取って熊に向き直る。


「逃げぬのか?」

「オラはあまり走るのは速くないだよ」


 熊は巨体の割に足が速く、走って逃げるのはまず無理だ。


「それに追ってきて村に入ったら大変だべ、ここで退治しておかないと」

「退治出来るのか!?」


 常人があの巨大で凶暴な熊を退治するなら、数人が弓矢のような飛び道具や槍などの大型の武器持って挑む必要あるだろう。

 だが少年が持っている武器は、腰に下げた短刀のみ、とてもあの熊に刃が立つとは思えない。


「君は逃げていいだよ」


 村とは関係ない少女に逃げるようという少年だが、


「舐めるでないぞ、小僧」

「小僧?」

「小僧を残して逃げ出すようなことはせん!退治するというのならお手並み拝見といかせてもらうかの」


 そう言って少女は、少し離れたところで、腕を組んで悠然と立つ。

 色々おかしなところがある少女だと思いながらも、少年は熊と向き合う。

 巨大な熊と比べれると一回り小さく見えるが、少年の身長は190程あり体重は130超えの逞しい体格をしている。


 ぐるうるぅぅぅ!


 近づいてくる熊に対して、少年は腰に下げた小刀を抜かない。


 股を広げて腰下ろし、そして片足を高々と、足の裏が天に向くほど高々と上げ、強く地面を踏む。

 大地が揺れたかと思う程の轟音。


「ぬおうっ!?」


 その衝撃だけで普通の野生動物は逃げ出すだろう。

 【四股を踏む】と呼ばれるこの行為には、本来邪気を払うという意味も込められる。


 ぐるうぅぅぅぐるうぅ!!!


 だが熊は逆に狂気をむき出しに向かってくる。

 対して少年は、腰を下ろした状態から前に手を付いて前傾姿勢になる。

 その姿はまるで蛙のようにも見えるが、少年から感じる力強さは熊と比べて勝るとも劣るものではなかった。


 がるううぅぅぁぁああ!!!


 そして突進してる熊に対して、強く踏み込み凄まじい勢いで頭からぶつかりに行く。

 巨大な熊に対して無謀とも思える攻撃、そして生物がぶつかったとは思えない轟音が響く。


「……驚きじゃの、あのような人間がおるとは」


 頭部、正確には眉間の部分が陥没して地に伏している熊。

 巨大な熊相手に頭からぶつかれば、ただでは済まないはずだが、少年は額を赤くはらしているだけだ。


「やるのう」


 パチパチと手を叩く音。


「今の世、熊を頭突きで倒す人間などそうはおるまい。お主何者じゃ?」


「オラの名前はヨコヅナ。ニーコ村の平凡な農民だべ」


 平凡な農民は武器を使わず熊を退治など、出来ないしやらうともしないが、ヨコヅナはいたって真面目だった。


「頭突きではなくブチかましという技だべ」


 【ブチかまし】一見ただの頭突きのようだが、地面を踏む力に体重とスピードを掛け合わせその突進力を一点に集中する列記とした技である。


「あの様な構えから行う格闘など見たことないぞ」

親父(おやじ)から教わったスモウという格闘技だべ」


 少年の鍛え上げられた身体はただ農作業や狩りだけで出来たものではない、幼い頃から父親から教わったスモウの鍛錬を、毎日欠かさず行うことで出来たものだ。


「スモウ…聞いたこともないの」


 ヨコヅナは今まで親父以外にスモウを知っている人と会ったことがないので予想通りの反応ではあった。

 それは別にいいとして、少女の名前をまだ聞いてないことに気づく。


「君の名はなんて言うだ?」

「うむ、我も名乗るとするか」


 少女は勿体ぶって、オーバーアクションでポーズをとる。


「我の名はカルレイン。聖魔大戦にて数多の都市を滅ぼした、八大魔将が一人、死光帝カルレインであるぞ!わはははは」


「…………………なんだべ!?」


 この出会いが平穏にのんびり暮らしたいヨコヅナを、平穏でものんびりでもない運命へ一歩ずらす事となる。


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