忘れてたのじゃ
上着を脱いだトーヤは中にぴっちりしたシャツを着ており、胸には大きくはないが明らかに少年ではない膨らみがあった。
質問の答えとばかりに顔に巻いていた布をとるトーヤ。
赤髪のショートカットに緋色の瞳、若干目つきは鋭いが整った顔立ちしていた。
「………君、女の子だったべか?」
「おい!、なぜもう一度聞く!」
幼さも残る素顔を見ても中性的でどちらともとれる顔立ちをしているため、ヨコヅナが聞き直したのも無理はない。
『ここに来てまさかの新事実!?少年だと思われていたトーヤ選手が実は少女だった!!』
『あの赤髪……確か武神館の』
『ご存知なのですか?』
『情報だけね……正体を隠していたのは出場を反対されたからかしら。あそこは規則が厳しいから』
武神館とは名前こそ勇ましいが一種の孤児院である。
二世代程前の武神とまで呼ばれた大将軍が創設者であり、戦争孤児を集め将来国のために働ける人材に育てるという名目で建てられたものだった。
毎日武術の鍛錬があることと、多少躾が厳しい事を除けば普通の孤児院ではある。
その孤児院に近年稀に見る武の才能がある子がいるという話はコフィーリアの耳にも入っていた。
『名前はトーカだったのではないかしら』
『トーヤ選手あたらめトーカ選手が少女だった事が判明したこの試合、一体どうなるのか!』
「そんなことどうでもいいから続きをやるぞ」
トーカはそう言うがヨコヅナは棒立ちのままだ。
「審判、良いんだべか?」
「何がだ?」
「女の子だべ」
「……この大会の参加資格に性別の制限はない」
ヨコヅナが他の試合を見ていなかったため知らないが、女性の参加者は他にもいた。たまたまヨコヅナとは関わることがなかっただけである。
「でも、偽名を使ってたみたいだべ」
コフィーリアの言葉が聞こえていたヨコヅナは偽造の参加登録は違反じゃないかと言ってみるが、
「20歳を超えている等の参加条件に当てはまらない者であれば失格だが、そうでないなら反則負けにするほどの問題ではない」
審判の返答を聞いて困った顔をするヨコヅナ。
「他にないなら試合を再開する」
審判が再開の合図をだそうとしてもヨコヅナに戦う意思は見られない。
それどころか体の力を抜き大きくため息をついた後、口にだしたのは。
「オラの負けでいいだよ」
いきなりの降参の言葉。
「はぁ!?」
「何だと!?」
トーカと審判は耳を疑う。
「オラは女性とは戦わないだよ」
ヨコヅナはそう言ってトーカに背を向け歩いていく。
『なんでしょう?ヨコヅナ選手闘技台際へて歩いて行きます』
『…まさか!?』
ヨコヅナはそのまま何の躊躇もなく場外へと出た。
『じょ、場外……』
会場の全員が呆気にとられていた。
「帰るだよカル」
『待ちなさい!ヨコヅナ!』
いち早く正気に戻ったコフィーリアが制止しようとするが、王女の声にもヨコヅナは歩みを止めない。
「良いのか?」
「いいだよ、何を言われてもオラが戦わないのは変わらないべ」
「……そうじゃの。後はケオネスが何とかしてくれるじゃろ」
ヨコヅナはカルレインを肩に乗せ通路へと消えていった。
『あ~、あ~ヨコヅナ選手ヨコヅナ選手。聞こえてましたら会場までお越し下さい。表彰式が行われます。ヨコヅナ選手速やかに会場までお越し下さい』
ステイシーが散々呼び出しをかけるもヨコヅナは姿を現さない。
『ヨコヅナ選手速く会場まで来てください!』
声に焦りと怯えの色が混じる。
「ふふふ。本当に面白いことをしてくれるわね」
言葉と表情がまるで合っていないコフィーリア。
その溢れ出す怒気に泣きそうになるステイシー。
『お願いですので来てくださいヨコヅナ選手~!!』
ヨコヅナは現れない。表彰式のことなど全く頭になく、さっさと帰ってしまったのだから。




