とある執事の下働き 6
「頑張って働いた日のお酒は格別だわ~」
夕食時に飲んでなかった反動か、カパカパとお酒を飲んでいるビャクラン。
「明日も忙しいそうだから、しっかり飲んでおかないとね~」
「普通逆じゃないかな」
「逆だよね」
「逆だな」
「聞くまでもねぇだろ」
ラビスとヨコヅナは既に帰り、ヨルダックも部屋に戻った。
私達はビャクランが飲み足りないと言うので付き合っていた。
「本当によく次の日平気だよね」
「寧ろ飲まないと、手が震えるわ~」
「アル中じゃねえか」
「明日の仕事に影響なくても、飲みすぎが体に悪いのは間違いないから程ほどにな」
「大丈夫よ~。ちゃんこ食べたら健康になるって、ラビスさんも言ってたわ~」
「健康的に太る、だろ」
「ヨコさんのお腹を見ると冗談に聞こえないよね」
……毎朝厳しい鍛錬をしているのにあの体型、半分以上本気なのだろうな。
「そんなことよりシィちゃん、今度からちゃんこ丼作ることになるから、頑張らないといけないわね~」
新メニューのヨコ丼は『ちゃんこ丼』と命名された、そのまんまの名だが。
「元のちゃんこはヨルダックが作るとは言え、味が評判に直結するぞ」
「言われるまでもねぇ」
自分が考えた料理が外されたとはいえ、やる気は十分のようだ。
「あれ、そんな重大な任命だったの?」
「ちゃんこ鍋屋でちゃんこと名のつく料理を作るわけだからね」
『コヒィーリア王女が好評』と宣伝する事が認められているのだ。責任が軽いわけがない。
「へぇ~、あ、だからあんなに値段の設定でもモメてたんだ」
みんなでちゃんこ丼のお替りを食べてる時、ヨコヅナとラビスが店に出す時の値段でモメていた。
モメていたと言うよりも、すり合わせだが、
「いや、あれはヨコさんの提案した値段が低すぎるだけだろ」
ヨコヅナが提案した値段はちゃんこに米の原価を足しただけの値段。
それでは今より手間がかかるのに、利益が上がることはない。
「価値観が違うのよ~。ヨコさんにとっては有り合わせで作った料理だから」
それでも経営者としてはどうかと思うところだ。
「ラビスさんが始めに提案した値段も高すぎだったと思うけど」
「違うな。あれはヨコヅナ様に値段を了承させるためのフェイク、すり合わせて適切な値段にするために、あえて始め高く提案していたんだ」
「じゃ最終的に決まった値段が」
「ラビスさんが本当に提案したかったちゃんこ丼の値段だろうな……」
「さすがラビスさんだね」
「けっ、気にいらねぇな。全てが暗黒メイドの手の平の上みたいだぜ」
シィベルトは突然料理を選別されたわけだしな、
「あの時、ちょっとシィベルトさん危なかったですよね」
……ほぅ、エイトは気づいてたか。
「あの時?危ないって何がだ?」
「ラビスさんに「作りたくないですか?」って聞かれてた時ですよ」
「もし、あの時「自分の料理じゃないから作りたくない」などと言っていたら、シィベルトはクビにされていたぞ」
「そこまで……いや、あの暗黒メイドならやりかねないか」
ラビスの感情の篭らない目を思い出したのか、シィベルトも納得する。
「シィちゃんは大丈夫よ~」
「うん!シィ君毎日頑張ってるもんね」
だが、ビャクランとワコは違う意見のようだ。
「あの暗黒メイドが何人も容赦なくクビにしてるのは知ってるだろ」
「ラビスにとって頑張ってるかどうかなど関係ない。利益に結びつかないと判断したら切り捨てる」
おっと、ついラビスを呼び捨てにしてしまった、まぁビャクランに付き合って酒が入っているから、誰も気にしないか。
「ラビスさんはそうだけど、きっとヨコさんが止めてくれるよ」
……その可能性は確かにあるが、
「ヨコヅナ様が反対したら、ラビスは意見を変えるのか?」
「あ~、……実は私、ラビスさんにクビにされそうになったことがあるんだよね」
「私もよ~」
「そうなのか!?」
驚くシィベルト、表情を見るにエイトも初耳のようだ。
「正確には試用期間で認められる働きじゃなかったから、正規雇用は出来ないってラビスさんに判断されたんだ」
………ワコは今でも仕事でミスがあり、注意されることも少なくない。
ならば、雇われたばかりの時はもっとミスが多かったのだろう。
今でこそお客さんに人気があり、店に貢献出来ていると言えるが、試用期間ではただの能力の低い人材と認識されて、ラビスが不採用と判断しても不思議ではない。
「でも、ヨコさんが「初めは誰でもミスするだよ。頑張ってるから採用するだ」って言ってくれだんだ」
ヨコヅナなら言いそうだな。それも不思議ではない。
「少しモメてたっぽいけど、結局ラビスさんが折れて、正規雇用が決まったの」
「そうなんだ…ビャクランさんもそんな感じですか?」
「私は正規雇用が決まった後。店のお酒を勝手に飲んでたのがバレちゃったのよ~」
…いや、それは普通に駄目だろ。
「ラビスさんに即クビって言われたんだけど、ヨコさんは「次やったらクビにするだよ」って」
「許してくれたんだ!?」
「大分モメてたけどね~。ラビスさんが鞭でヨコさんを叩いてたわ~」
「鞭!?」
「その後「お酒飲みたいなら、事前にちゃんと言ってお金も払うだよ」と言われて、給料から天引きされるけど、ヨルダックさんに許可を取れば店のお酒を飲んでも良いことになったわ~」
「はははっ、どこからツッコんでいいやら」
全くだな……少なくとも言えるのは、
「ヨコヅナ様は甘すぎるな、それでは他の者に示しがつかない」
「ふふっ、だから他には内緒にしててね、上司三人以外には秘密の話だから」
「では何故話した?」
「ここのみんなは大丈夫だと思ったからよ~」
……確かはここのメンバーは、今の話を聞いたからと言って店の物を盗ったりしないか。
「でもつまり、ラビスさんがクビだと言っても、ヨコさんが反対したらクビにはならないってこと?」
ラビスはヨコヅナの補佐、最終的な決定権はヨコヅナにあるはずだから、当然と言えば当然か。
「ヨコさんがクビにした奴もいるけどな」
「えっ!?そうなの」
窃盗をした相手でもクビにしてないのに、ちょっと意外だな。
「余程無能な人材だったのか?」
「いや、寧ろ腕は良い料理人だったよ」
「予約客専属に雇われた接客従業員でも一人いたわ、仕事は出来るけど、ヨコさんがクビにした人」
……有能な人材をクビ?
「何故、ヨコヅナ様はクビにしたんだ?」
「「やる気が無かったから」」
シィベルトとビャクランの言葉が重なる。
「店に損失を出すほどサボっていたということか?もしく客から不評だったとか」
「いや、確かにサボってもいたが、損失が出てるというほどではなかったはずだ。いずれそうなってた可能性はあるがな」
「お客の前では問題なかったはずよ。裏では酷い事を言ってても」
……ふむ、そういうタイプの人材は確かにいるな。性格に問題はあるが有能な人間、ラビスと同類と言える。
だがあいつは、請けた仕事に関しては真面目だから少し違うか。
「まぁヨコさんの判断は間違ってなかったと思うがな、あういう奴がいると周りのやる気も削がれるからな」
「そうね。お客さんも馬鹿じゃないから、気づくのよね、あういうの」
……そういえば、ヨコヅナはラビスを補佐にする時に言っていたな。
『嫌々働くぐらいなら違う人が良いだよ』
「嫌々働く、か……私も気をつけなければな」
「ははっ、なんだ、ヤズッチは嫌々働いてんのか?」
「え?そんなことないよね、ヤズッチ真面目だし、サボってるところなんて見たことないよ」
「仕事も完璧だし、クビになんてならないよ」
「……でも、仕事ぶりに義務的な感じは強くでてるわね~」
「義務的か、確かにその表現が合っているな。クビにされるのは困るが、期間限定の勤めではあるからな」
「えぇ!!?」
私の言葉にすごく驚いてるワコ。
「初日にそう説明してたはずだが」
「そうだっけ……でも寮で暮らしてるからてっきり」
「でも明確に期限は決まっていなかったよね」
「そうだな……ちゃんこ鍋屋の状況から考えるに暖かくなるまでと言ったところだろうな」
暖かくなればちゃんこ鍋屋の客数は減るはずだ、人員を減らしても問題ないと考えられる。
本音ではもっと早く姫様の側近に戻りたいのだがな。
「えぇ~、そんなこと言わずに、ずっと一緒に働こうよ~ヤズッチ~」
そう言って抱きついてくるワコ。未成年のワコは酒を飲んでないはずだが…匂いだけで酔っているのか。
「それは出来ない。私にはやるべき事がある」
ワコには悪いが、ここはきっぱり言っておくべきだろう。
「やるべき事って?」
「それは……」
「ワコちゃん、人にはそれぞれ事情があるものなのよ」
言い渋る私の心情を察してか、ビャクランがワコを諭してくれる。
「うぅ~。分かった~」
悲しそうな顔で席に戻るワコ。
胸が少し痛むが仕方がない、ずっと一緒に働くことなど出来ない。
私はハスキーパ家の人間。王家に仕える事が私の使命なのだから。




