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間違えてはおらぬじゃろ


「これより王都闘技大会予選決勝を開始します」


 開会の挨拶もそこそこに大会の開始が宣言された。


「はじまったの、どうじゃヨコ、腹痛かったりせぬか?」

「…大丈夫だべ」

「緊張せず、気楽にやれば良い」

「…分かりましただ」


 カルレインとケオネスに言葉を返すも、ヨコヅナが緊張で固くなっているのは一目瞭然だった。


「では第1試合、ヨコヅナVSシバット、両選手闘技台へ」


 審判が試合の選手を呼ぶ。


「行ってくるだ」


 闘技台へ向かうヨコヅナ、緊張のためか覇気も感じられない。


「う~む、どうもおかしいの?」

「あそこまで固くなってしまうとはな」

「熊と対峙することと比べればたいしたことないのじゃから、間近となれば吹っ切れると思っておったが」

「やはりこのような場で、大勢に観られながら戦うのとは違うということか」

「肝の小さいやつじゃな」

「……本戦には出れないかもしれないか」


 ケオネスはここでヨコヅナが負けても約束通り咎める気はない。

 正直予選は勝って本戦に出場してほしいし、ヨコヅナの実力を見て勝てるだろうと思っていたのだが。

 闘技台の反対側から上がってきた対戦相手は、ヨコヅナに比べれば小さく見えるが引き締まった軍人らしい体つきをした男、ここまで勝ち上がってきたのだから弱くはないのだろう。

 悪い方向ばかりに考えをめぐらしているケオネスに後ろから声をかける者がいた。


「選手の調子はどうかしら?」

「緊張で固くなっているようだ…」


 つい反射的に返してしまうケオネス。

 話しかけて来たのは深くフードをかぶり、足下まである外套でまるで姿を隠しているような格好の女性。

 見るからに怪しいが、ケオネス達の居る場所は関係者以外入れない観戦場所だ。

 そしてケオネスにはその女性の声と雰囲気に覚えがあった。


「そうなの?ケオネスが逸材を連れてきたと言うから見に来たのに」

「っ!?…コフィーリ」

「しぃ~、見ての通りお忍びで来てるの」


 話しかけてきた女性はここに来ないはずのコフィーリア王女だった。


「予選は観戦されないはずでは?」

「来たかったけど仕事があるから許可が出なかったのよ、だから抜け出してきたわ、ふふふっ」


 見えている口元だけでも笑顔なのがわかる。

 今頃王女側近のメイドと執事があわてふためいているだろう。


「でも期待ハズレな試合を見ることになるかしら」

「そ、それは」

「安心するのじゃ。あの程度の相手、多少緊張で固くなっていようとヨコの相手ではないわ」

「そちらの少女は?彼の妹かしら」

「いえ、この少女はカルレインと言いまして」

「ヨコの同居人じゃよ」


 コフィーリアとカルレインの目線が交差する、お互いが相手を値踏みするように。


「……そう、では期待して試合を見るとしましょう」


 王女の言葉にケオネスも視線を闘技台に戻す。



「武器の使用は禁止です、また目突き、金的、噛みつきの攻撃も禁止となります。闘技台の外に出た場合も負けとなります。宜しいですね。それでは両選手開始線へ」


 審判のルール説明が終わり、両選手が開始線へつく。

 審判が手を上げて、


「はじめっ!!」


 振り下ろされて試合が始まった。


「でりゃあァァー!!」


 開始早々先手必勝とばかり前に出て、ヨコヅナの顔面へ向けて拳を繰り出すシバット。その攻撃をヨコヅナは、

 何もせず顔面に受ける。


「オラ!オラ!オラ!」


 続けざまに三連打。


「うおらァァ!!」


 さらに回転するようにしての後ろ回し蹴り。

 いちいちうるさい掛け声とともに、次々と繰り出される攻撃を、ヨコヅナは防御もせず受け続ける。



「なっ!?何をしているんだヨコヅナ!?」


 開始から全く手をだそうしない、それどころか相手の攻撃を防ごうともしないヨコヅナを見て驚きと困惑の声を挙げるケオネス。


「いきなりの攻撃で戦意を失ったのか!?」


 負けても良いと言っても、王女も見てる前で不様すぎる試合は問題だと焦る。


「本当に何をやっとるんじゃ?ヨコのやつ」


 首を傾げるカルレイン。

 その声にはケオネスのような焦りはない、単純に疑問を口にしただけのようだった。


「……ふふっ、凄いわね彼」

「確かに凄い連続の攻撃ですが」

「違うわよ、私が言ってるのはあなたが推薦したヨコヅナって選手のことよ」

「へっ!?」

「全ての攻撃をまともに受けているのに、効いていないわ、彼には」



 シバットの攻撃は確かにヨコヅナに防御もされず当たっている。

 しかしダメージはほとんどなかった。

 見る者が観ればヨコヅナの身体の芯はぶれておらず、重心は安定したままなことがわかる。

 ヨコヅナの行っているスモウの鍛練。

 大木を揺らす程のブチかましは、それだけの衝撃の反動を頭部に受けているということとなる。

 またヨコヅナの身体は一見肥満のように見えるも鍛え上げられた筋肉の上に張りのある脂肪がのっている、並の攻撃では衝撃を脂肪が吸収し筋肉が防ぐため、骨や内臓に届かない。


「生半可な鍛練ではあの身体は出来ないわ」


 その言葉にケオネスはヨコヅナの普通ではない鍛練を思い出す。


「本人は父親に教わったことをこなしているだけで、鍛練が異常なことに気づいてないがの」

「…簡単に負けないことはわかったが、しかし何故ヨコヅナは手を出さない?」

「それは我もわからん?」


 カルレイン達に疑問の視線向けられている当のヨコヅナは困っていた。


(弱すぎるだよ!?)


 ヨコヅナがこのような状態になったのは、試合前のアークからの頼み事にあった。



_____________________



「シバットはこっちに来てから出来た親友なんだ」


「本戦に出場できれば王女や他のお偉方の目にもとまる、予選で終わるのとでは雲泥の差」


「なんとしてもこの機会を生かさせてやりたい」


「シバットが強いのかって?そりゃ名前は知られてないが、実力では優勝候補だと俺は思ってる」


「しかし勝ち進んで行くには怪我をしないことも重要だ」


「だから頼むヨコ、この試合シバットに勝たせてやってくれ!」



_____________________



 アークの頼みはシバットに怪我をさせず、わざと負けくれということだった。

 もちろん初めはケオネスの推薦で出場している為、わざと負けることは出来ないと言ったが、しつこく食い下がられヨコヅナはしぶしぶ「強くて勝てそうになかったら」と言ってしまった。

 そのため試合前のヨコヅナは、多くの観客に見られる緊張に加え、ケオネスの期待とアークの頼みの板挟み状態にあった。

 あと兄と慕うアークが、自分を応援してくれないことに地味にショックで、落ち込んでいたりもする。

 そのような要素が混ざりあい、初撃から一連の攻撃をモロに喰らうにこととなった。

 シバットが本当の強者だったなら、それで終わっていただろう。

 しかしヨコヅナにとっては弱すぎた。


(手を抜いてるわけじゃないだべな?)


 もちろんシバットは本気で攻撃を打ち込んでいた。


「はぁ、はぁ。くそっ、なんなんだこいつは?」


 すでに息が上がるほどに本気で。

 どれだけ攻撃しても、ビクともしない相手に困惑しだしていた。


(とりあえず反撃するしかないだな)


 色々なことがありすぎて1周回って冷静になってきたヨコヅナ。

 攻撃が弱くとも防御技術に長けているのかもしれないし、負けるにしても攻撃しなければ八百長だと批難されるだろう。


 だから、


「うおォォー!!」


 少し離れて息を整えていたシバットが再度攻撃をしかけてきたのに合わせ、半歩前に出て頬を狙い平手で打ち抜いた。


 それは偶然と必然と天然が合わさって、完璧な一撃となる。

今まで手を出してなかったため、シバットにとって虚をつくカウンターになったこと。

 ヨコヅナを少し見上げるこのになるシバットからは、下から斜め上への軌道をとった平手は死角だったこと。

 毎日張り手の鍛練で木に叩きつけているヨコヅナの手の皮は、分厚く石のように硬くなっていること。

 いつもの癖で腰と肩をいれて打ち抜いてしまったこと。

 その結果は、


 一瞬にして意識が飛び、糸の切れた人形のように崩れ落ちるシバット。


「…んん~?間違えただか?」


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