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何も知らない少女の夢



 大きめの屋敷三階の角部屋。窓からは木が見え、家具も木製のものが多く、全体的な色合いも落ち着いた自然的な部屋のベッドの中で、一人の幼児が目を覚ました。

「あ、あ……」

 キリスト教 魔導科学第三章P125魔力と電気  オウル山脈   黄緑色の景色   

     白カラスの生態と魔術適性  銀月 

                  地下世界における適応  星辰揃う深海の都

  五重の塔    雪原狼   アーシャルテ 

          髑髏のスープの利用方法  キルヒホッフの法則

   ユーヤ教典  フーリエ解析     光の世界

     渡来人   尋常ならざる異界の者     ホラティウス

       魔導術式学第七章P588wrt記述による系統的変形  夢見

   魔女に与える鉄槌  ルシャトリエの原理       ドラジェルダ 

        カフカ   遊園地   狂った大地

   闇に吠える二つ目の獣   マーフィーの法則  ポジティブシンキング

    ハミルトン   泣き寝入り       狸鍋    ペルソナ

       

 情報が、流れていく。自分じゃない自分。私は、私は、ルーシャ、クレナ、西園寺希、カーレクィナーディア、ロゼ、近衛御伽、霧崎乙野、レッド、あ、あ、あ……

 誰だ? 私は誰だ? 自分の中に、いや私達は私達で誰が私で、あ、う。


「ルミネお嬢様ー?」


 一人の小さな少女が困惑する幼児の名を呼び部屋に入ってくる。

 ルミネ。私はルミネ。

 なんどか心の中で呟くと情報の混乱は収まってきた。


「お嬢様ー?今日もご飯を持ってきたのはメイドのアルカですよー」

「アルカ」

「わあ、お嬢様。発音上手です! そう、アルカですよー」


 アルカは……小さくちぎられたパンと……牛乳だろうか? 白い飲み物を持ってきてルミネの口に運ぶ。

 パンは意外と柔らかかった。なぜ自分でも意外だったのかわからなかったけど、意外だった。


「お嬢様、今日は絵本を読みますね」


 アルカは、そういえば。世話係……みたいな人だったなと思い出す。三歳児がこんな思考をしていることはおかしいのだけど、なぜこうなっているのかは皆目見当つかない。ちょっと、絵本とかいいから一人にしてほしい。自分を見つめ直させて。


「遥か昔、神々は争いました。死を司る神、ドラジェルダが豊穣と安息を司る神、アルシェの権能(けんのう)を奪わんと争ったことをきっかけとして多くの神が互いの権能を奪い合う戦乱が起こったのです。神の恩寵を受けしこの大地は荒れ、海は赤く濁り、空は割れ人々は恐怖と混乱に陥りました。それを生と慈愛の神アーシャルテが……お嬢様?」


 やめて。そんな情報過多は今の私には耐えかねる。

 メイドから離れベッドに潜り込みうずくまって今の自分を整理しようとする。


「長いですかね? 実際神々は居ますがそんな戦争あったか? と言われるようなお話ですしつまんないかもですね。」


 そう言うとパタン、と本を閉じる音が聞こえた。

 アルカらしき気配がこちらに近付いて、

「今日のお嬢様、変ですね? 私の役目はお嬢様の傍に居ることなのでそういうのはよくわかりますよー。わかったところで何をすることもないですが」

 と話しかけてくる。


「幼い子供は不可思議な夢、アンダの月を見るとも言いますから、お嬢様もそれを見て不安なんでしょう。私は居ますから大丈夫ですよー」


 それは。まあ。

 なぜだか知らないけど凄く嬉しい。嬉しいけど、今はほんの少しだけ静かにしてほしかった。

 自分は、今。どうなっているのか。それがわからないのだから。

 まず、ここは私の知る世界のどこでもない、ということだ。

 思い出も無く、掠れた知識が残る自分の頭には今の神話に関する情報と一致していないように思う。

 第二に、そもそも私は死んだか何かしたはずだ。三歳児ではない自分が居た。それも複数。知識的に言えば異世界転生の類だ。娯楽物にも使われてたりする、アレ。魔導的に言うならばハードル、コスト、リスクが高すぎてやる意味が消えるようなものであったはずだ。スキルだのご加護などという都合の良いものはない。

 だというのに、私はルミネとして現世に存在する。特に、いや記憶以外はだが異変は無い。

 第三、私はどうすればいいのだろう? 状況についていけない。

 まあいっかとかいうポジティブシンキングしてしまうのが一番早いのだろうか。


「お嬢様、私は洗濯物を干しに行きますので、失礼しますね。お嬢様も今は一人になりたいでしょうから」


 布団に被って見えないが多分優しい笑顔で笑いかけてアルカは洗濯物を干しに行った。

 いつまでも布団に包まっていても多分ネガティブスパイラルになるだけだろう。そう思って布団から抜け出して窓の外を見てみる。

 柔らかい光が太陽から降り注ぐ。眩しさに目を(すが)める。道が少し舗装され、草が邪魔にならないぐらいに丁寧に刈られていた。その平原で子供達が元気に遊んでいる。

 じっとその景色を見ていて分かったが、人通りはそこそこ、村に近い町といった感じだった。

 人と言っても、猫、犬、ウサギといった獣の因子が混じる獣人種が居たり、耳長の森精種(エルフ)や小柄で筋肉質な鉄鍛冶種(ドワーフ)、鱗持つ蜥蜴人(リザードマン)などが見える。

 子供達はボールで遊んでいたり、木の棒でチャンバラしていたり。

 元気でいいな、と思った。

 なぜかノスタルジックになって、それで思い出した。

 私は、死にたくなかった。死ぬ前に、何かしたかった。それが何なのかわからないけど、死にたくない、死んではならないのだと。

 

 私はなんだろう、と考えてみる。

 死にたくない、不死になりたいと願っていた、そして、それを今も引きずっている。

 それでも、ただ、死にたくないと思う。


「お嬢様、落ち着かれましたかー?」


 独り言を呟いていたら、アルカが戻ってきた。顔に汗が滲んでいて、どうやら急いで戻ってきたらしい。 


「アルカ」

「何ですか?」

「外、出てみたい」

 驚いたように目を開いた後にっこり笑って、

「じゃあ一緒に行きましょうか」

 と私を抱きかかえて、

「あ、その前にお召し物用意しますね」

 とクローゼットを開けて服を着替えさせた。 




続きは……頑張ります。

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