プロローグ
なんてことはない。これはただの独り言だ。
などと自虐気味に自分は口にする。
生きることにどんな意味があるのだろうと思った。
死ぬことにどんな意味があるのだろうと思った。
結論は出なかった。
窓際の花瓶には淡い色をしたガーベラが供えられている。水をやる必要はないらしい。
日差しは燦燦と輝き清涼な風が吹くものの、自分の心は晴れなかった。
体がベッドの上から動かない自分はここでずっと、生きる意味や死ぬ意味を考えている。
もう無駄ではないかというくらいには考えたつもりだ。妹などは「ねー、難しいこと考えんのやめたらー?」と言ってきた。その言葉には共感するがなんだかんだ自分も考えるのが生き甲斐になってしまった、と伝えると「あーじゃあそれが生きる意味なんじゃない?知らないけど」と一つの答えを見つけられてしまった。
少し悔しかった。
「あーあ」
なんて溜め息を吐いて、もう一度布団の中に潜り込む。
自分の記憶はほとんどがこの白たくさんな世界だ。学校や、海や、山や、遊園地、プールだとか、自分の知らないものがたくさんある。妹はよくそれについて話してくれるけど、やっぱりそれは人伝に聞いたもので。実感もないものだ。
まあ自分はやることもないので浅知恵だけは色々なところから仕入れたものだけど。
心臓止まってもある程度は五感が残っている時間があるとかそういう。
自分の人生は不幸だったのだろう。幸せというものでは決してなかったと自分でも思う。
けれど、充実感はあった。家族は顔を出してくれる。父親なんて仕事の後に毎日くる。妹は自分の知らない事について楽しそうに語ってくれたし、母親は写真や絵を見せ、手料理を作ってくれた。
味は、さほどでもなかったけど。
そんなわけで、自分としては、自分の人生にそれなりの満足をしているつもりだ。
あくまでそれなりだ。
そりゃあ、自分だって学校行って青春したり水着着て海ではしゃいだり、山で山菜採ったり遊園地のジェットコースターに乗ってみたい。
まあそこらへんには妥協して。
満足していないのは、死ぬ意味が分からない。いや、無いよー、生きる意味がなくなったら死ぬんだよーとかいうオチではなく。その点で言えば生きる意味を探すことが生きる意味なら死ねないじゃないか。そうでもなさそうな気もしたが、自分はそう思う。
時計を横目で見てはあ、とため息を吐く。
まあ自分死ぬんですよ。
と誰も居ない部屋で呟いてみる。
明日死にますわー。ははは。
理由なんてお聞きなすんな。
脳内会話終了。
生きる意味や死ぬ意味は、果たして明日死ぬときまでわかるのだろうか。
そう思いながら少し休憩、と布団の中で目を閉じた。




