シーン99:さっさと水汲まないと置いて行きますよ
夜。
波の音が聞こえる。
砂浜。
「いい考えですね。みんなで花火なんて」
「昨日スーパーで売ってたからね。祭りの花火には負けるけどね。こんなちっちゃい手持ち花火だから」
「なに言ってるんですか。大きさよりも心意気ですよ」
「意味わからんよ。響ちゃん、お祭り好き?」
「んー、どっちかというと好きですね。でも一回くらいしか行ったことないな」
「デート?」
「違いますよ。家族みんなで行きました。もう三・四年前ですね」
「そうなんだ。行けばいいのに」
「なんとなく億劫ですからね」
「今年は行ってみたら?たまに行くと、また味があるもんだよ」
「うーんそうですね。でも一緒に行く人がいないんですよね。あ、雨宮さんたち、一緒に行きますか?あれ聞いてない」
「……よし、今年は響ちゃんに子どもたちを連れてってもらうとするかな。そしてあたしは家で寝てよう」
「? なに呟いてるんですか?」
「いーえなんでもー?」
「どうせ誰もやらんということで、ぼくたちが水汲みやらされてるわけですね楊くん」
「………」
「雨宮さんと響は浜辺でだべってるし、子どもたちは波に向かっていくしで、ほんとうらやましいですね楊くん」
「………」
「今日はみんなで花火やるなんて、すっげぇわくわくしますね楊くん」
「………」
「でもこんな夜中にみんなでぞろぞろと出かけるほうがわくわくするぜとか思いませんか楊くん」
「………」
「夏休み実質ラストの日にこんなイベントがあるんだからもうほんと泣きそうになりませんか楊くん」
「さっさと水汲まないと置いて行きますよ」
「もう汲んだの?!ちょっと待ってよ」
「美羽ちゃんダメだよ。絶対に水に入っちゃダメなんだからね」
「わ、わかってるよ。だからこうやってギリギリのところにいるんだろ」
「それが既に危ないんだと思うけどな。隼くんも、絶対に入っちゃダメだよ」
「うん!でも、もうちょっと、もうちょっと」
「やべっ波が来た。逃げろ隼」
「わー。あーあ、靴濡れちゃったよ」
「もう。靴濡らしちゃって、どうするの」
「あーあ、脱いでおけばよかったなー」
「今さら言っても遅いよ」
「いや、今からでも遅くない。靴脱ぐぞ」
「えー。もう濡れちゃったのには変わりないよ」
「乾くかも知れねーだろ」
「な、なるほど。美羽ちゃん頭いい」
「多分乾かないと思うけどね。もう夜なんだから」
「へん。いーよいーよ美久はそーやって気取ってれば。あたしは靴脱いで、海入るもんね」
「よーし、ぼくもはいろー」
「あ……」
「おお、すげえ波だぜ。逃げろ」
「わー。引いたね。よし、また入っていこーよ」
「……なんか楽しそう」
「おー」
「わー」
「……靴を脱いでおけば問題ないわけなんだよね。美羽ちゃんと隼くんのミスは先に靴を脱いでおかなかったことであって、靴を先に脱いでおけば問題ないわけなんだよね」
「美羽ちゃん見て。ここ掘っておくと、波が来たあと元に戻るよ」
「マジか!よし、やってみよう」
「ここを掘ればいいんだね。よーし、がんばるぞぉ」
「あれ?美久なんでいるんだ?」
「あ、ほら波が来るよ。逃げなきゃ!わー」




