シーン95:こーいうのもキャッチボールっていうのかなー
「ぐはぁー」隼は叫んだ。
「くっそー、山なりのボールも取れねーのか」
「あはははは。隼くん、下手くそだねぇ」
小学生たちは河原に来ていた。美羽と隼がキャッチボールしているが、隼は上手くキャッチできず、体に当ててばかいりいる。それをそばで見ている美久が、手を叩いて喜ぶ。
「笑ったなー。じゃ、美久ちゃんやってみなよ」
「あたしはやらないからこそ笑ってられるんだよ。対岸の火事ってとこかな」
「だいたい、隼が練習するって言って来てんだろーが。だったらちゃんとやれ」
「むー。だってさー、一向に取れるようにならない」
「そこは……その……練習あるのみだ!」
「やっぱり美羽ちゃんは説明が下手だね」
「なんだと美久。つーかさ、美久はなんで来てんだよ」
「たまには光合成しようかと思って」
「コーゴーセーってなんだ!……聞いたことあるような?」
「理科の勉強がんばろうね」
「美久ちゃん光合成できんの?!すっげぇ」
「できないよ!」
「すごい。全然取れない」美久が呟いた。
その後も隼は何度も何度もキャッチを失敗していた。
「おい隼、いいかげんやめねー?」
「ダメだよ。まだ全然上手くなってないんだから」
「むしろ下手になってきてる気がすんだよな。ここ十球ぐらい一球も取れてねー」
「さーもー一球」
「うーん。美久も説得してくれよ。あたしもうやだよ」
「ねぇ隼くん。もう止めようよ。見てて痛々しいよ」
「や、止めないよ」
「ほら、休憩も必要だよ」
「まだ全然体動くよ」
「人間、あきらめが肝心って言うよね」
「ダメだよ。あきらめたらそこで試合終了だよ!」
「……!」
「どーしたんだよ美久。なんで黙ってんだよ。説得を」
「無理だよ。あの台詞言われたらなにも言えないよ」
「なんで声が震えてんだ?あの台詞って……?」
「今度美羽ちゃんも隼くんに借りるといいよ。あの名作を!あ、思い出したら涙が」
「な、なんなんだよ」
「さー美羽ちゃん。もー一球投げてきてー。……グスッ」
「なんで隼まで泣いてんだ?!」
「な、なんであたしが投げなきゃいけないの」
「だからあたしはもう疲れたんだって。隼の相手頼むわ」
美羽に代わって美久が隼の正面に立っていた。ボールを持ち、グローブをつけている。
「な、投げ方なんてわからないよ!」
「いーからテキトーに投げろ」
えい、と美久が投げる。
腰の入っていない投げ方で、ボールは山なりを描くことすらなく、点々とバウンドしながら隼のほうへ向かっていった。
隼はそのボールをよーく見て、じーっと見て、ボールの真正面で待ち、まだじーっと見て、結局ボールはまたの間を抜けていった。
「もぉ隼くん。ちゃんと取ってよ」
「ごめんごめん」
隼は走っていってボールを取り、美久に投げ返す。
高く投げられたボールは放物線を描いて、美久の手前でワンバウンドする。
バウンドしたボールはまた高く上がっていき、やがて美久の位置にまでたどりつき――
「いったぁっ」
美久の顔面に当たった。
「み、美久ちゃん大丈夫?」
「……だ、大丈夫。よーし隼くん行くよー」
美久の投げたボールはまた力なく転がっていき、隼はまた後ろに逸らして追っていく。
(こーいうのもキャッチボールっていうのかなー)
美羽は思った。




