シーン94:金貯めて、いつか絶対買ってやる
陳列棚の上にはたくさんのパッケージが並べられている。
その表紙はさまざまで、愛らしいキャラクターが元気にポーズを決めているものもあれば、少年がシリアスに佇んでいるものもある。どれも、自分を購買してもらおうと必死でアピールしているのだ。
「あった」
霧崎は呟いた。手を伸ばしたその先には、太閤の一兵卒時代を思わせるイラストが描かれたパッケージがあった。
霧崎はその箱を手に取ると、じっと表紙を眺め始めた。
「欲しかったのになあ……」
慨嘆した。
「にいちゃん、なに見てんのー?」
「隼か。欲しいソフトは決まった?」
「ううん。まだ」
「じゃ、ぼくはこれ買ってきていいか?」
「ダメだよ。みんなが欲しいソフト買うって決めたんじゃんか」
「……ぼくの金なのに。美羽ちゃんと美久ちゃんは?」
「あっちにあるゲームやってる」
「店内体験用のか。店に来てまでわざわざやらなくてもいいのに」
その日の午後も、霧崎の家のリビングで、美羽と美久と隼がゲームをしていた。
部屋からリビングにやってきた霧崎が、彼らに言った。
「ちょっと出かけてくるけど、みんな留守番頼める?」
「にいちゃんどこ行くのー?」
「ん?ちょっとゲーム買いに」
「お、それいいなー。ちょーど、ここにあるゲームに飽きてきたとこだったんだ」美羽が言った。
「へえ、そう。でも、ぼくが欲しいゲームを買いに行くだけだから……」
「おにいちゃん、あたし、みんなで楽しめるゲームがいいなぁ」
「あれ?なんか文脈がおかしいな。ぼくの、ぼくによる、ぼくのためのゲーム購入なんだけど……」
「じゃあさー、みんなで行って、みんなで買うゲーム選ぼうよ」隼が提案した。
「賛成!異議なし」姉妹が言った。
というわけで現在、霧崎たちはゲームショップに来ている。
霧崎はもう一度名残惜しげにゲームの表紙を眺めると、静かに元の場所に戻した。
いいさ。
一緒にゲームする人がいるって素晴らしいよね。うん、素晴らしいさ。
これは一人用のゲームなんだから、買わなくていいんだ。うん、いいんだ。
「……金貯めて、いつか絶対買ってやる」
美久は陳列棚を気難しげに眺めていた。
どうしよう。どれにしよう。どれもいいなぁ。
「美久ちゃん。どう?欲しいゲームは見つかった?」
「あ、おにいちゃん。うーん、これが欲しいんだけど……」
美久は棚から一つ取り出して、霧崎に示した。
「……推理ゲームか。美久ちゃんほんとにミステリー好きだね」
「うぅん。ミステリー以外も好きなんだけど、今はハマッてるかな」
「でもこれはダメだな。一人用だし、あの二人は好きくないでしょ」
「そうなんだよね。ねぇおにいちゃん」
「買わないよ。一つ買うだけで精一杯なんだから」
美羽はまだ店内体験用のゲームをしていた。
その隣では、見知らぬ小学生くらいの男の子がコントローラを握っている。
「よーしあたしの勝ちだな」
男の子は立ち去った。
「次、誰が相手だ?」
「ゲーセンじゃないんだから、知らない人と対戦するなよ。まあ子どもならいいけど」
「おっ、ハガネか。今んとこ、三人抜きだぜ」
「こういうのはずっとやってちゃダメだよ。ちゃんと他の人に譲らなきゃ。それはともかく、買うの決まった?」
「えーと、これ、結構面白いぜ?」
「これは新作で高いから無理。もっと古くて安いので」
「なんだよケチ」
「金がねーんだって」
隼は怪訝そうな顔をしながら、ソフトを一つ一つ手に取り眺めていた。
「どうした隼」
「あっ、にいちゃん、これなに?」
「ああ、ファミコンのソフトだな。隼、ファミコン知らないのか……」
「知らないー。あ、けどこのゲームの名前は知ってる」
「RPGだな。このタイトルはまだ続いてるからなー」
「にいちゃんこれやったことある?」
「あるよ。今も家にあるはずだけど……あ、でもファミコン壊れてるからやれねーや」
「むーいいなぁ。にいちゃんこれ買って」
「買わないよ!そもそもソフトは持ってて、ファミコン本体が壊れてるんだって」
「じゃ、ファミコン買って」
「果てしなく今さらなので却下」
喧喧諤諤の議論の末、買うソフトが決まった。
「みんな、異議はないね。じゃ、買ってくるよ」
「あ、でもさー、やっぱりにいちゃんはにいちゃんの欲しいゲーム買いなよ」
「は?」
「それは、あたしらが今度金出しあって買うからさー」
「……そういうことは先に言って欲しかった」
霧崎はソフトを持って歩き出した。
「おにいちゃん、そっちはレジだよ。ソフト返すんならこっち」
「いいんだよ。ったく。そのかわり、ぼくもこれで遊ばさしてもらうんだからね。欲しかったゲームのことなんか忘れるくらい、遊ばさしてもらうんだからね。いいな!」




