シーン88:今日も暑い一日になりそうだ
AM8:00
少女はやかましくなり続ける目覚し時計を手探りで探し当て、止める。まだ夢を見ていたい気持ちを必至でこらえて起床する。
洗顔を終えた頃にはすっかり目は覚めている。悪くない気分だ。
部屋に戻る途中で、仕事に向かう姉に会う。
「響、おはよう。行ってくるね」
「おはよう。姉さん、行ってらっしゃい」
AM8:18
ジャージに着替えた少女は、玄関を出て鍵を閉める。太陽はすっかり昇っており、今日も暑い一日になりそうだ。
ストレッチをした後、走り始める。日課のジョギングだ。
しばらく走り続けていたとき、少女は向こうから走ってくる人に目をとめる。向こうから来る人も、同じように少女に気づき、お互いに近寄っていく。
「雨宮さん、おはようございます」
「おはよ、響ちゃん。朝から頑張ってるね」
「それはこっちの台詞ですよ。雨宮さんも走ってるんですね」
「うん。暇だから体力づくり」
「暇だから、ですか」
「響ちゃんは違うの?」
「わたしは……部活してた頃のなごりですよ。体動かさないと落ち着かなくて」
「ふうん。あ、今日晩ご飯一緒に食べない?そうめん作るから」
「いいですね。兄さんと隼連れて行きます」
「今日の晩飯はとっておきのお楽しみがあるのだよ」
「え、なんですか」
「それは言えない」
「えー」
AM9:05
帰宅した少女は冷蔵庫からスポーツ飲料水を取り出す。飲みながらリビングに向かうと、そこに兄を見つける。
「菫兄、起きたんだ」
「響はジョギングか。偉いな」
「そんなことないよ」
「パン焼くけど、朝ごはんもう食べた?」
「お願い」
兄と一緒に朝食をとる。
「今日もこれから学校行くんだ」
「今日も?夏休みなのに、なにやってんの?」
「サッカー部と野球部がなんかもめてるんで」
「なんかって……」
「サッカー部が練習しているときに、野球部のボールが飛んできたって言ってたな。多分そのときは隣で野球部が練習していたんだな。うちのグラウンドは小さいから」
「しょうもな」
「しょうもなくないぞ。それだけ部活に集中したいってことなんだ。部活に精を出すのは、高校生活を豊かにするうえで大事なことだからな」
「それでなんで兄さんが行かなきゃならないの?」
「それが俺の役目だからさ」
「……ああそう」
「響には悪いな。いつも隼の世話を押し付ける形になってしまって」
「わたしはほとんどなにもしてないよ。鋼兄がいるもん」
「鋼が?あいつがいたって、何にもならないだろ?」
「そんなこと……いや、いいや。わたし、そろそろ部屋戻るよ。勉強しなきゃ」
「響?」
AM11:02
少女は勉強に一区切りつけ、リビングに向かう。今日はよく集中できた。もう充分だろう。
少女はリビングのドアを開けて中を見て、驚いた。
「隼、なんでまだパジャマ着てるの?」
そこにはパジャマを着たまま携帯ゲームをしている弟の姿と、同じくパジャマを着たまま、ソファで寝ているすぐ上の兄の姿があった。
「ねえちゃんおはよう」
「おはよう。……おはようってことは、今まで寝てたんだな。いつもはもうちょっと早く起きてるのに」
「だってさー、昨日はずっとにいちゃんとゲームしてたから」
「ずっとって、いつくらいまで?」
「えっとねー、三時」
「なんて時間!」
少女はソファに寄って行った。兄はだらしない表情で眠っている。多分一度起きてここまできて、また眠ってしまったのだろう。
少女は兄を揺さぶり起こす。兄は薄目を開けたが、まだ半分夢の中のようだ。
「すぐ起きるから、もうちょっと」
「兄さん見損なったよ!」
「はい?!」少女の怒気に、兄は驚いて覚醒する。
「小学生に夜更かしさせるなんて、なんてことするんだよ!」
「ああ、あれは気がついたらあんな時間になっていてね」
「これからは隼の世話はわたしがするよ!兄さんは一人で引きこもっといて!」
「……すいませんでした」




