シーン80:実は整然と散らかっているのだよ
昼食後。
「じゃ、野球行ってくんな」
「行ってくるね!バイバイ」
美羽と隼は玄関まで見送りに来た霧崎と雨宮と響と美久に言った。
「行ってきな。昼飯の片づけがまだ残っているにもかかわらず、それをぼくと雨宮さんと響に任せて行ってきな」
「なんだよハガネその言い方は。仕方ねーじゃん。約束の時間に遅れそうなんだから」
「自分の出したゴミすら他人任せにして、せいぜい楽しんで――ぐはっ」途中で雨宮のチョップが飛んだ。
「美羽。こんなやつに構わなくていいから、行ってきな。遅くならないうちに帰るんだよ」
「うん」
「……まずい、このまま送り出したら、ぼくが本当に陰険なやつってことになってしまう。冗談だからね。気をつけて行くんだよ。怪我しないように、事故とかに遭わないように、そして変なおじさんとかにも遭わないようにように、さらに言えば飢えて山から降りてきた――ぐはっ」
「美羽。本当にこんなやつに構わなくていいから、行ってきな」
「お、おう。行ってきます」
「行ってらっしゃい」
片付け終了。
「さあて、美久、あたしたちも帰ろうか」
「あ、おねえちゃんちょっと待って。あたしは用があるから」
「用って?」
「ぼくから本を借りたいんでしょう。美久ちゃんのことだから、多分あれは本気なんだと思ってたよ」
「ううん、おにいちゃん。それもあるけど、もっと大事なことがあるよ」
「なんかあったっけ?美羽ちゃんも隼もいないのに……」
「おにいちゃんがちゃんとお部屋掃除したか、チェックしないと!」
「………ああ、そんなのあったね」
「なんで目を逸らしてるの?まさか、まだ掃除しててないんじゃないよね?もうあれから何日か経ってるよ」
「ふっ。ぼくを見くびらないでほしいな。そんなに見たいんなら、見るがいいさ」
「えーと、つまりなんの話?」雨宮が説明を求めた。
「ちょっと前に美久ちゃんにぼくの部屋を見せたら、掃除しなさいと怒られたんだ」
「ほんとにひどかったんだよ。赤ちゃんが使ってる部屋なんじゃないかと思ったよ」
「………確かに赤ん坊は片付けとかできないけどさ」
「霧崎の部屋、散らかってるのか。ま、そうだろうな。あんたみたいなずぼらなやつの部屋が、綺麗なわけないもんな」
「ひどい言い様だな。けど、今は完璧に整理整頓できてるからね。『えっ?できるやつですけど何か?』ですからね」
「そこまで言うなら、見せてもらおうじゃないか」
見せた。
「どうですか。この完璧に整理整頓された部屋」
「ひどいなこの部屋。本でできた沼みたいだ。霧崎、これのどこが片付いてんだ?」
「そう思うのが素人なんだよなあ」
「なんだそりゃ」
「もう、おにいちゃん!全然片付けできてないじゃん!ちゃんとするって約束したのに!」
「ふっふっふ。美久ちゃん、よく見てみなさい。ちゃんと整理はできている」
「どこが?入れないくらいに散らかってるよ?!」
「わからないかなあ」霧崎は本を踏みつけながら部屋に入った。
「ほら、この辺に散らかっているのが小説。こっちの方はマンガ。その辺りは週刊誌。さらにあっちはゲーム。そっちは学校関連のもの。種類によって、エリアが決まっているんだ。つまり、雑然と散らかっているように見えるけど、実は整然と散らかっているのだよ!」
「………意味わからん」雨宮は呟いた。
「ふーん、そうなんだ。それでも、散らかっているのに変わりないよね?」美久はニッコリと微笑んだ。
「い、いや、でもー、ぼくとしてはこれで充分片付いてまして……」
美久の背後に、カッ、と稲妻が落ちた。
「ちゃんと掃除しなさい!!!」
「美久ちゃんが怖い。……でも負けちゃダメだ。そ、掃除する必要なんかないよ!」
「よぉし、じゃ、あたしがやろっかな。がんばるぞぉ」
「や、止めなさい」
「なんだ霧崎。見られて困るもんでもあんのか?」
「ないけどさ。自分の部屋くらい、自分で管理したいじゃんか」
「じゃ、ちゃんと管理しろよ。あたしはいいけど、美久が怒るぞ」
「そうだよおにいちゃん。あたしは怒るよ。というか怒ってるよ!」
「……わかりました。ちゃんとやりますよ」
「今度来たときに片付いてなかったら、ほんとにあたしがやるからね。おにいちゃん、覚悟しといてね」
「はい」
「楽しみだなあ、おにいちゃんの部屋片付けるの。すっごく綺麗にしてあげなくちゃ」
「だから、ぼくが自分で片付けるって言ってるじゃん」
「おにいちゃんが本気でやるわけないもん」
「………………ちゃんとやろう」




