シーン78:並大抵のエネルギーじゃないですよ
「あっ」
隼が箸からから揚げを落とした。机の上に落ちたのを、すぐに手で拾って、食べる。
「隼くん、お行儀悪いねえ」
「ったく、どんなしつけ受けてきたんだか」
「むー。美羽ちゃんも美久ちゃんもうるさいなあ」
「あたしたちはそんな行儀悪いことしないからねぇ」
「あたしらは、ちゃーんとあねきからうるさく言われてきたからさ」
「いや、姉として言い訳させてもらいたいんだけど、ちゃんと言ってきたんだよ。けど、隼は聞いてくれないから、いつまでたっても直っていないっていうね」
「というか、隼くんはあわてすぎだね。もうちょっと、ゆっくり食べればいいんじゃないかな」
「はい」
「おお、隼が簡単にうなずいた。さすがは雨宮さんですね」
霧崎家のリビングでは七人が昼食を食べていた。霧崎、響、隼、雨宮、楊、美羽、美久の七人だ。
あのあとすぐに全員霧崎家に帰ってき、すぐに昼食となったのだった。遅くなったこともあり、雨宮が全員分の食事を買ってきていた。
「なぜぼくはソファにいるだろうな。なぜ机で食事させてくれないんだろうな」
霧崎が呟いた。その言葉どおり、霧崎はソファに座っていた。置く場所がないため、膝の上に弁当を乗せている。
「簡単な話だろ。もうこっちにはスペースがないからだよ」雨宮が答えた。
「………わかってるよ。ふん。いいもんね。今日は仲間がいるもん。ね、楊くん」
霧崎は隣に座っている楊を見た。楊も机からあぶれて、ソファで昼食をとっている。
「………」
「………うん」
「………」
「はい、スイッチ・オフですね。いいよ。楊くんは一人で黙々と飯食えばいいさ。ぼくだって、一人でご飯食べるのには慣れてるんだからな。なめるなよお」
「………」
「………はあ」
「響ちゃんが楊連れてきてくれたんだって?大変だったでしょう」雨宮が響に言った。
「はい。……あ、あれはもう経験したくないですね。一歩進んでは沈思し、二歩進んでは中空を見上げ、ちゃんと歩いてるなと思ったらあさっての方向に行く。ほんと、どれだけ首輪があれば便利だと思ったことか………」
「それはそれは……。ごめんね」
「いや、雨宮さんが謝ることじゃないです。むしろ雨宮くんと暮らしていることを尊敬します」
「そうかな」
「すごいですよ。雨宮くんと暮らすのは尋常な体力じゃ無理ですよ。並大抵のエネルギーじゃないですよ」
「……喜んでいいのか?」
「そりゃ響、雨宮さんは瀕死の状態から復活すると戦闘力が上がる種族の人間だからな。地球人と一緒にしちゃ」
霧崎の発言の途中で、雨宮が箸を投げつけた。
「あたしゃれっきとした地球人だ!」
「痛い。ひたいに当たった。うう」
「兄さん、わざわざそんな離れたところからからかうなよ」
「言っとくけど、響の言い様もいいもんじゃないんだからな。おれが代わりにつっこまれといてやったんだからな」
「なー、結局なんであねきは来るの遅くなったんだ?なんかあったの?」
「うん……ちょっとね……」
「おねえちゃん、なんか辛そうだね。あたしたちでよかったら、力になるからね」
「二人とも、気にしなくていいよ。思春期にはいろいろあるんだ」霧崎が言った。
「霧崎、そんな離れたところからテキトーなこと言うなよ。わざわざ、そんなくそ遠いところから」
「たかが机とソファの距離じゃんか」
「それからさ、思春期って、あたしたちの年齢より前のことじゃね?中学生くらい」
「そっか。じゃ、青春の悩み」
「やっぱりテキトーだな」
「中学生と言えば響だな。ねえ響、思春期の悩みってなに?」
「きゅ、急に振るなよ兄さん。悩みっていわれても、別にないよ」
「気になってるとか言ってた、バスケ部の男子はどうなった?」
「な、なんだよその話。わ、わ、わたしはそんな話しらねーよぉ」
「あたしもその話聞きたい。ねえ、告白とかしないの?」
「あ、雨宮さんまで。だから、その子には、つ、つ、付き合ってる子がいるんだって。だから、わ、わたし、なんか、き、きっと、眼中にないから」
「ああそっか。じゃ、別のやつ見つけるとか」
「兄さん。い、いいかげんにしろぉ!!!」
「わぁ。響がテンパり過ぎて噴火した。みんな逃げろぉ!」
「わー」
全員、机を中心に逃げ散った。
「ハガネに話そらされた、って感じだな。なー美久」
「うん。あたしたちは聞かないほうがいい話、ってことなのかな?だから、聞かないでおこうよ」
「だな」




