シーン73:夏休みだなって感じるじゃん
「………テレビが見えない」
リビングに来たところで、響がぼやいた。さっきまで今日の分の勉強をしていて、疲れていたところだ。昼食までの間、テキトーにテレビでも見ようと思っていた。
「あ、ねえちゃんおはよう」
「いや、今起きてきたんじゃないし。朝ちゃんと会ったし」
振り向いて声をかけてきた隼に言った。隼はテレビの前に座って、コントローラを握っている。つまり、ゲームをしている。
「おう、ヒビキ。お邪魔してます」
「うん、それはさっき会ったときに聞いたよね」
隼の横にいる美羽に言った。美羽もまたコントローラを握っている。美羽が隼の相手をしているのだろう。
「あ、響さん。いつもお世話になってます」
「それはさっき聞いてないけど、別に今言うべき言葉じゃないね」
ソファに美久が座っていた。美久は文庫本を手に持っている。ということは、ゲームに加わっているわけではないらしい。
「ああ、つっこみ疲れた。ねえ隼、リビングのテレビを占領されたら、姉ちゃんが見れないじゃんか」
「えっ?ねえちゃん、テレビなんて見てたっけ?」
「姉ちゃんだってテレビくらい見るよ。姉ちゃんをなんだと思ってんだ」
「んー、そうじゃなくて、お昼にテレビなんて見ないよねー、と思って」
「そうだけどさ。昼にテレビ見ると、夏休みだなって感じるじゃん」
隼は首をかしげた。「よくわかんないや。今、美羽ちゃんやっつけてるところだから、ちょっと待って」
「へんっ。返り討ちだぜ」美羽が隼に言った。
「ねえ、美羽ちゃんに美久ちゃん。まだ帰らなくていいの?
「えっ?」
「もう昼前だよ」
響が言うと、二人は時計を見上げた。二人とも、時間を意識していなかったらしい。
「あー、もうこんな時間か」
「もうそろそろおねえちゃんが帰ってくるね」
「ま、別にお昼くらい出してあげるから、居てもいいけど?」響が言った。
「ううん。ちゃんとおねえちゃんが用意してくれるから」
「もうめんどくせーから、あねきもここに呼んじまおうぜ」
「うーん。でも、それは……」
美久はうかがうように響の方を見た。
「ん?わたしは別にいいよ。雨宮さんさえよければ。兄さんがなんていうかは知らないけど」
「そうだよね。おにいちゃんはきっと反対するよね。って、響さんなにしてるの?」
「ん?メール。読む?」
送信済みメール
to:兄(暗い方)
件名:美久ちゃんを泣かせやがってこのやろう
本文:雨宮さんがもしかしたら家に来るかも知れないけど、絶対に反対しないように。美久ちゃんが泣くから。反対したら、一生兄さんのこと軽蔑してやるからね
「………こんなメール送って、よかったのかなあ」
「いいんだよ、兄さん(暗い方)だから。それより、ちゃんと雨宮さんに連絡してね」
「あっ!美久、ダメだ。忘れてることがあった」
「どうしたの、美羽ちゃん。あっ!」
「美久も気づいたか。そうだよ、うちにはあいつがいるんじゃんか。あねきここに呼んじまったら、あいつが飢え死にしちまう」
「忘れるなんて、悪いことしちゃったなあ。ちゃんとご飯あげに帰らなきゃね」
「なに?ペットでも飼いだしたの?」
「違うよ。響さんも知ってるでしょう」
「なんだっけ?雨宮さん家に、なにかいたんだっけ?」
「おいおい。ヒビキだって、ちゃんと会ったことあるだろ?」
「………………なんだっけ」
「楊くんだよ!」
「ああ、我が同級生の雨宮楊くんか。すっかり忘れてた」
「ったく、ほんとめんどくせーよな、楊は」
「そんなこと言っちゃダメだよ。楊くんはあたしたちでちゃんと世話してあげなくちゃ」
「……ほとんどペット扱いだな。ま、雨宮くんなら仕方ないか」




