シーン71:手伝ってあげるからね
「いやー、楽しかったなーハガネん家」
「ほんと、いいお家だったねえ。また来たいな」
「美久ちゃん。そんな目でぼくを見つめてもダメだ。もう二度と来て欲しくない」
「いいもん。隼くんに招待してもらうから」
「………くそう」
夕方、霧崎と美久と美羽は雨宮家までの道を歩いていた。小学生の女の子二人なので、一応霧崎が送っていくことになったのだった。
また少しだけ、雨が降り出していた。傘を三本、並べて歩く。
「けど、あたしらもうちょっとなら居れたのになー。なんでもう帰らなきゃならないんだ?」
「子どもは早く帰らないとね」
「ハガネ、なんか隠してんだろ」
「はて?」
「さては密会だな。ハガネ、最低だなー」
「………どこでそんな言葉覚えるんだよ」
「じゃ、本当の理由は?」
「……そろそろ兄貴が帰ってくるんでね」
「ほーう。ハガネのあにきなら見てーもんだけどな」
「いい兄貴だよ。すごく。とてつもなく。ありえないくらいに」
「どうしたハガネ。なんか、辛そうだぞ」
「ん。なんでもないよ。それよか、美羽ちゃんも美久ちゃんも、明日から夏休みか。いいなあ」
「いいなあって、高校生も夏休みでしょ。明日からは、おねえちゃんともおにいちゃんともいっぱい遊べるね」
「なんでハガネはそんな暗い顔してんだ?もしかして、学校好きなのか?ありえねー」
「高校生は補習があるんスわー。ほんと、なんで夏休みまで学校行かなきゃならないんスかねー」
「ああ、あねきもそんなこと言ってたなー。午前中だけだけど、学校行かなきゃいけないって。マジ、高校生って最悪だよな。小学生でよかった」
「美羽ちゃんだって何年かしたら高校に行くんだよ。そして、ぼくと同じ苦しみを味わえばいいんだ」
「でも授業って、午前中まででしょ?午後から、いっぱいいっぱい遊べるよね。あたし、嬉しいな」美久が言った。
「……まーね。でも小学生だって、宿題がたくさん出るんでしょ?」
「うん。でも、あれくらい明日一日で終わるよ?」
「でたよ。秀才発言だ。美羽ちゃんはあれだよね。夏休みの最終日に泣きながらやるタイプだよね」
「………まーな。泣いたりはしねーけどな」
「毎年あたしが手伝うもんね」
「美久っ。それを言うな!」
「美羽ちゃん………。年下に手伝ってもらうのか」
「なんだよ。悪いかよ。そーいうハガネだって、夏休みの宿題は最後の日までやらねーんだろうが」
「ふっふっふ、甘いな美羽ちゃん。ぼくは最終日になっても開き直ってやらないタイプだ!」
「へーそうなのかやるなー。ってダメだろ!」
「で、結局二学期に入ってから泣きながらやることになる」
「………あたしよりひどいな。けど、今年は宿題ないんだろ?ホシュウってのがあるんだから」
「ところがそうも行かなくてね。八月に入って二十日間くらいは補習無しの完全休みだから、その間の分が、ちゃんと出る。というか、先にもう貰ってるんだけどね」
「高校生、きついな………」
「大丈夫。今年はあたしが手伝ってあげるからね、おにいちゃん」
「しょ、小学生に宿題を手伝ってもらう高校生だと?!………さすがに、そういうわけには」
「じゃ、ちゃんと自分でやってね」
「はい。………なぜだ?!今年はちゃんと宿題をやることになってしまった」
「美久すげーなー」
「美羽ちゃんも感心してないで、今年はちゃんと自分でやってね」
「はい。………あたしまでちゃんとやらされることになってしまった」




