シーン70:ジュースが帰ってきた
「よーし勝ったー。これで美羽ちゃん相手に三勝三敗だ」
「くっそー。覚えてろよ。次で決着をつけてやるからな」
帰ってみると、相変わらず子どもたちが盛り上がっていた。
「暑い。くそ暑い。外に出て歩くとさらに暑い。こんなに暑いのに、君たちは元気だな」
「あ、ジュースが帰ってきた」隼が駆け寄ってきた。
「おれじゃなくてジュースが主体?!ひでぇ、ひどすぎる!」
「ついでに、にいちゃんお帰り」
「ふふふ、隼、にいちゃんをそんな扱い方していいのかね?これを見たまえ」
「そ、それはアイスクリームさん!」
「アイスクリームにさん付けか……。まあいい、隼はアイスが欲しくはないか?」
「欲しい!ぼくアイスクリーム大好き」
「では、この兄になにか言うことがないか?」
「アイスクリームが帰ってきた!」
「違う!!!」
ゲームは一休みして、みんなでアイスを食べはじめた。
「ハガネにしては気がきいてんなー。今日、めちゃめちゃ暑いからなー」
「外はもっと暑かったよ。湿気がものすごい」
「エアコンつけねーの?」
「電気代の節約」
「え?ハガネん家、お金ねーの?」
「そんなこともないけど……。じゃ、環境保護」
「そうだけど、暑い日くらいはつけねー?」
「実は美羽ちゃん。響がエアコンつけると体調が悪くなる病気に」
「罹ってねーよ!兄さん、なに適当なこと言ってんだよ。エアコンの調子が悪いって、正直に言えばいいのに」
「エアコン、壊れちまったの?」
「いや、動くことは動くんだよ」霧崎はエアコンのスイッチを入れた。
ガガガガガガと、鈍い機械音が家中を揺らし始めた。
「というふうに、とてつもなくうるさい」
「なるほど。これじゃ確かにつけらんねーな」
「えっ?なんか言った?エアコンがうるさくて聞こえない」
「これじゃエアコンつけないのも納得だって言ったんだよ」
「えっ?なんか言った?」
「だから、エアコン――って、いいかげん消せよ!」
「えっ?なんか言った?」
「美羽パンチ!」
「ぐはっ!」
消した。
「おにいちゃん、本当にありがとう」
「ああ、美久ちゃん。これくらいなんでもないよ」
「あたし、ちょうどアイスが食べたいと思ってたから、嬉しかったよ」
「いや、そんなに喜ばれるほどのことはしてないよ」
「おにいちゃんは、ほんとに優しいね!すごく、優しいね!とっても、優しいね!おにいちゃんの半分は優しさでできてるね!」
「なんでそんなに優しいを連呼するんだ………?あれ、おかしいな。美久ちゃんの笑顔の後ろになにかが見えるような気がする。いつもはそんなことないのに」
「ねえおにいちゃん、あたし、お願いがあるんだけど」
「美久ちゃんの頼みならなんでも聞いてあげたいところだけど……」
「おにいちゃんのお部屋見せて!」
「うわあ、来た!」
「どうしてそんなに驚いてるの?」
「ごめんなさい。それはできません」
「ええっ。そっか……、そうだよね。あたしなんかにお部屋見せてくれないよね」
「あれー?にいちゃん、美久ちゃん泣かせてるの?ひどい!見損なったよ!」
「ううん。隼くん、いいの。美久が悪いんだ……。ぐすん」
「にいちゃん!」
「本気で殴りかかってくるなよ隼。……美久ちゃん、わかったよ。けど、たぶん、本を貸して欲しいだけでしょ?」
「そうだけど、せっかくだから」
「わかったよ」
見せた。
「おにいちゃん!これはなに!こんなに散らかしちゃいけません!今すぐ掃除しなさい!」
「だから嫌だったんだよ。今度掃除するから、許してください」
「確かに、今日はみんなで遊ぶ日だからね……。わかった。絶対するんだよ!」
「はいはい」
「はいは一回でしょ!」
「はい」
アイスを食べ終わったので、霧崎は念願のゲームをできることになった。対戦相手は響だ。
「ほう。我が最初の相手は響が務めると申すか。よかろう。いつも少し馬鹿にしているその態度、改めさせてくれよう」
「なんだその口調……。けどわたし、ゲームしたことないんだよね」
「やる前から負けた時の言い訳か。ひねり潰してくれるわ」
「……なんか、先の読める展開だね」
三分後。
ひねり潰されたのは霧崎の方だった。
「あれ、もう終わり?適当にやってたら勝てたんだけど」
「…………ぐすん」




