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シーン69:温かい心で一歩引いて見守る

「わあ、美久ちゃん強いな。また負けちゃったよ」

「あたしが強いというより、隼くんが弱いんだと思うけどな」

「うわっ、美久ちゃんひどい!」

「よしっ、あたしの番だな。美久、今度は負けねーぞ」

「あたしだって負けないよ、美羽ちゃん」

 霧崎家のリビングでは、小学生による格闘ゲーム大会が繰り広げられていた。

「………なぜゲーム機の所有者であるおれが、参加していないんだ?ぼくだってやりたいのに」

「兄さん、大人気(おとなげ)ないよ。温かい心で一歩引いて見守る、それが大人ってもんだよ」

 霧崎と響は、小学生たちのゲーム大会を後ろから見ていた。

「そんな話聞いたことないね。ねーみんな!ぼくにもゲーム……」

「わっ、びっくりした。……あーあ、ハガネが大声出すから、負けちまったじゃねーか!」

 美羽が霧崎を睨んだ。

「………ごめんなさい」

「ねぇにいちゃん。のど渇いたから、ジュース取ってきてー」

「自分で取りに行けよ」

「だって、次ぼくの番だもん」

「あ、おにいちゃん、あたしも」

「じゃ、ついでにあたしもな」

「みんな、いい流れだね。兄さん、わたしもお願い」

「ううっ。みんなしてぼくをパシリにする」霧崎は泣きながら台所に向かった。

 冷蔵庫を開ける。

 閉める。

「みんなぁ。もうジュースないんだけど」

 返事がない。リビングに戻ってみると、小学生たちはゲームに夢中だった。

「くそう。みんなでぼくをないがしろにしやがって」

「あ、兄さん、はい」響が手を出していたので見てみると、千円札だった。

「買ってこいってか?ジュースがなかったらぼくが買ってこいってか?」

「いやあ、暑くて動く気がしないんだよね」

「暑いのはぼくも一緒なんだが」

「引きこもりの兄さんが少しでも外に出られるようにと気を使ってですね……」

「引きこもりじゃねーよ」

「なんだよハガネ。そんなに行きたくねーのか。じゃ、あたしが行くよ」美羽が立ち上がった。

「えー、だったらぼくが行くよ」隼が立ち上がった。

「あ、じゃああたしが行くよ」美久が立ち上がった。

「そんな、年少のあなたたちに行かせられるわけがないじゃないか。わたしが行くよ!」響が立ち上がった。

「なんだ?これは一体」

 全員、なにかを期待するように霧崎の方を見ている。

「………どこの芸人だよ。くそう。わかったよ、わかった。おれが行けばいいんだろ。行ってきますよちくしょう!」

「ありがとう。それでこそ兄さんだ」

「けど、なんでみんなこんなに揃ってたんだ?」

「あ、兄さんが冷蔵庫行ってる間に、わたしが仕込んどいた。みんな、協力ありがとね」

「響、なんてやつだ!」



「おにいちゃん、やっぱり、あたしもついていこうか?おにいちゃんだけに任せるのって、やっぱりひどいよね」

 霧崎が玄関で靴をはいていると、美久が見送りに来てくれた。

「ん?いいんだよ。ぼくだって、本気で行きたくなかったわけじゃないんだからさ」

「そうなの?でも……」

「いいのいいの。子どもは大人のことなんか気にせず遊んでなさい」

 美久はふくれっつらをした。「子ども扱い」

「されるのは嫌か。そうだね、悪かったよ。けど、今回はぼく一人で行けるからいいよ」

「帰ったらおにいちゃんもゲームしようね」

「望むところだ」


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