シーン68:なんでも来やがれだ
チャイムが鳴ったので、リビングから隼が走っていった。友達が来たらしい。
「では、俺は部屋に帰らせてもらおう」
「ダメ。挨拶くらいはしてください」響は兄の服をつかんで引きとめた。
やがてリビングのドアが開いて、隼が顔を見せた。その後ろから、二人の女の子が――見覚えのある顔だ――やってきた。
霧崎は石化した。
響は「おやまあ」と間の抜けた声を出した。
美羽は「なんでハガネとヒビキがいるんだ?!」と大声を上げた。
美久は「わあ、おにいちゃんに響さんだあ」とおっとりした声を出した。
「えーと、ぼくの友達の美久ちゃんと美羽ちゃんです。こっちは、ぼくのにいちゃんとねえちゃんです」隼は兄や姉や友人の驚きをよそに、一人平然としていた。
「いやー、まさか隼の友達が、美久ちゃんと美羽ちゃんだとはねー」響が二人にジュースを出しながら言った。
「こっちもびっくりだよ」
「隼くんには驚かされてばっかりだね」
「美羽ちゃんと美久ちゃんは、前からにいちゃんとねえちゃんのこと知ってたんだね!すごい偶然だなぁ」
美羽と美久と隼はジュースを手に取った。響も席に座って一息ついた。
霧崎は一人ソファに座ったままうなだれていた。
「どうしたの兄さん、暗い顔して」
「ふ、二人とも、帰りなさい!」霧崎は突然大声を上げた。
「うわっ、びっくりした。なんだよ、ハガネ」
「美羽ちゃんに美久ちゃんを、霧崎家に入れることを許可した覚えはないよ」
「おにいちゃん。ううっ。あたしたちが来るの、迷惑だった?ごめんなさい」
「あ、や、美久ちゃん。迷惑とかじゃなくてね……」
「あー、兄さん泣ーかーせたー。雨宮さんに言いつけてやろ」
「美久、よしよし。見損なったぜハガネ。そんな意地の悪いやつだとは思わなかった」
「だ、だから違う。うちのこと、見られたくなかったんだよ、二人には」
「なんで?いい家じゃん」
「そうだけど……、なんていうかね」
この家は、自分にとって。
卑屈がこびりついた場所。
そんな場所だ。
そんな場所を、二人には――雨宮家の人間には、見られたくなかった。
「いいじゃんか、見られても」響が言った。「兄さんにとって、この家が悪い場所でも、美羽ちゃんや美久ちゃんにとっては、そんなことは関係ないよ」
「………そうだけどさ」
「それに、もしも兄さんの嫌な部分を見たとしたって、二人は兄さんのこと嫌いになったりしないよ」
「別に、そんなことを恐れているんじゃないやい。ただ……」
「にいちゃん、どうしたの?凍えてます熱があります、みたいな顔してるよ。大丈夫?」
「隼……。うん、大丈夫だよ」霧崎は笑って見せた。
「なんだ?ハガネ風邪か?どおりでちょっとおかしいと思った」
「おかしいとか、ひどいね。さすが美羽ちゃんだ」
「おにいちゃん、辛いんなら、あたしたちに構わず寝ててね。あ、看病したげようか?」
「大丈夫だって…………。あーもう、なんでみんなこんなに優しいんだよ!」霧崎は突然立ち上がった。「くっそー、よし、みんな、遊ぶよ。今日はみんなで遊びまくってやる!」
「わー、にいちゃんが急に元気になったー」
「なにする?スーファミか?PCエンジンか?3DOか?バーチャルボーイか?プレイディアか?なんでも来やがれだ!」
「おにいちゃん、一体なんの話をしてるの?!さっぱりわからないよ」
「くそう現代っ子めらが。よし、PS2だな。Wiiはごめん持ってない。部屋から持ってくるからな。いいな、そこ動くなよ。速攻で持ってくるからな」
「おにいちゃんが元気になってよかった!」
「あんな元気なにいちゃん見たことないや!」
「……隼も美久ものんきなもんだけど。やっぱり今日のハガネはなんかおかしいな」
「たぶん、薬局では売ってないクスリでも飲んだんじゃないのかな」
「響!そういうことを言うのはやめよう!たとえ冗談でもやめよう!」
「兄さんまだいたのか。ほら、さっさとゲームとってきなよ」
霧崎はリビングから出て行った。
「ま、実際のところ、美羽ちゃんと美久ちゃんが来てくれて、喜んでるんだよ。だからあんなに元気になったのさ」
「ほんとかよ?」
「たぶんね」




