表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/100

シーン66:暇だからつけてみたんだ

 夕方の路上を、美久が一人下校していた。

 明日は終業式だ。

 つまり、あさってから夏休みだ。

 美久は少しうきうきしていた。

 今日、学校の図書館で本を二冊借りてきた。夏休みだから、いつもより多く本が読める。

 夏休み中に、十冊は読みたい。今日借りた分はすぐ読んでしまって、また借りに行こう。

 たまにはおねえちゃんにねだって、新しい本を買ってもらおうかな。

 それとも、おにいちゃんから借りようかな。おにいちゃんはあたしが今まで読んだことのないような本を、たくさん持っているから、楽しそうだ。

 でも、本以外にも、たくさん遊べるといいな。

 セミの鳴き声が聞こえていた。

 懐かしいな、と思った。去年も聞いたセミの声。

 夏が来た。



 その人物は電信柱の影から、前を行く人をうかがっていた。前行く人に存在を悟られないように、慎重にそっと覗き込む。

 なぜわたしはこんなストーカーまがいのことをしているんだろう。

 そもそも、隠れる必要はあるのだろうか。追跡している人は、真ん前に立っている人にも気づかないことすらある人じゃないか。

 帰ろうか。

 でも、帰ってなにをしよう。暇だな。ダメだ。部活をやめてからというもの、なにをしていいのかわからない。ほんと、わたしは部活一筋だったんだなあ。

 あさってから夏休みかぁ。嬉しいよ、そりゃ。嬉しいけどさ、なにをしろって言うんですか。宿題?なにが悲しくて宿題を楽しみにしなくちゃならないんだ。いや、やるよ?宿題くらい、ちゃんとやりますよ。けど、それが夏休みの中心になるのは、嫌じゃないですか。

 ああ、バスケやりたいなぁ。バッシュが体育館の床に擦れる音が、聞こえてくるようだ。去年の夏はバスケ三昧だったな。暑かったな。今も暑いけど。

 あ、忘れていた。前行く人を追跡中だったんだ。

 見ると、前の人は道の端に生えている雑草の観察中だった。しばらく動きそうにない。

 足早に歩いたり、かと思えば急に止まって草の観察を始めたり、やっぱり不思議な人だなぁ。

 もう追跡を始めてから三十分は経つけど、一体いつになったら帰りつくんだろう。二十分もあれば充分帰れる距離なのに。

「なにしてるの?」

「うわぁ!」

 急に横から話しかけられて、響は驚愕の声を上げた。

「み、美久ちゃん。こんなところで、偶然だね」

「うん。響さん、こんにちは」美久はペコリとお辞儀をした。

「で、こんな電信柱の影で、なにしてるの?」

「ちょっとした、ストーキングだよ」

「ストーキングって?」

「犯罪行為」

「ええっ、響さんって、悪い人だったの?!」

「まあね」

「どうしよう。警察の人呼んでこなきゃ。はっ、あたし、もしかして口封じに殺されるんじゃ!」

「よくわかったね」

「ああどうしよう。どうしたら助かるのかな。ダメだ。最初の目撃者は必ず殺されるんだ。こ、こうなったら探偵さんのために、なにかヒントを残さなきゃ。あたしの血で、響さんの名前を書けばいいんだよね」

「そうなんだ」

「うん。こういうのを、ダイイングメッセージって言うんだよね。でも、書いてる途中で力尽きちゃうんだ。だから、誰のことを書いたのかわからなくなっちゃう。そこで登場するのが探偵さんだよ」

「ま、探偵小説講義はそれくらいにして、前見てごらん」

「えっ?」

 美久は前を見た。見覚えのある人物がそこにいた。

「あれは、楊くんだね」

「そう。わたしは雨宮くんを追跡していたのだ」

「なんで?」

「興味あるじゃん。雨宮くんがどんな生活してるのか。今日、校門を出るとき、偶然雨宮くんを前方に見つけてね。暇だからつけてみたんだ」

「……暇なんだ。それで、面白かった?」

「あんまり。フツーに歩いて、時々立ち止まっての繰り返しだった。帰るのにも時間かかるんだなあってことくらいかな、わかったのは」

「まぁ、楊くんはちょっと周りが見えてないだけだから……」

 響と美久は前方の楊を見た。楊はまた歩き始めていた。

「さて、あと何分で帰りつくことやら」

 追跡を再開した。

 楊は歩いている。

 前方に電信柱がある。

 と、ゴツッと鈍い音がして、楊が額を押さえて屈んだ。

「えっ?なにがあったの?」美久は戸惑った。

「たぶん雨宮くん、電信柱にぶつかったね」

「でも楊くん、ちゃんと前を見て歩いてたよね」

「ちゃんと前見て歩いてたねえ」

「なんで……」

「やっぱり不思議な人物だねえ。前見て歩いているのに電柱にぶつかるとは。見てるのに見えてないのかな。理解しがたいことだけど」

「ていうか、助けないと」

「だね」





「うわっ。こぶになってるよ。痛そう」響は楊の額に触れた。

「なんで霧崎さんと美久がいるの?」

「そんなことはどうでもいいんだよ。なんで電柱避けなかったの?」

「急に柱が来たので」

「電信柱は急に来ない!……こんなんで、ちゃんと生きていけるの?」

「大丈夫だよ。致命傷にならない程度には避けれるから」

「それは大丈夫っていえるんだろうか……?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ