シーン64:朝からご挨拶だね
「あー、美羽ちゃんに美久ちゃんだあ」
「隼くん、おはよう」
「うーっす隼ぁ」
小学校の校門で隼は美羽と美久に会った。集団登校で、お互いの班がちょうど同時に学校に着いた形だった。班はそこで解散して、それぞれのクラスに向かう。
隼と美久と美羽は一緒に歩き出した。
「昨日は隼くん、急に帰っちゃったから、びっくりしたよ」美久が言った。
「うん。ごめんね。にいちゃんのこと思い出したからさ」
「あにきには会えたのか?」美羽が訊いた。
「叩かれた。にいちゃん、ひどいんだ」
「へー、隼のあにき、叩いてくんのか。怖いあにきなんだな」
「ううん。ぼくを心配してたから叩いたんだって、ねえちゃんが言ってた」
「そうなんだ。だったら、いいおにいちゃんなんだね。心配してくれるんだもん」
「………そうなのかな?」隼は首をひねった。
「なー隼。昼休みになったら、グラウンドに出てこいよ。クラスのやつらとたぶんドッジやるから、一緒にやろーぜ」
「野球は?」
「野球は道具がないからできねーよ」
「じゃ、鬼ごっこ?」
「やんねーよ!なんでそんなに鬼ごっこが好きなんだよ………」
「じゃ、美久ちゃん、鬼ごっこやろうよ」
「なんであたしにふるの?あたしは体動かすのは苦手だから……」
「じゃあ美久、あたしたちとドッジやるか?」
「美羽ちゃんまで……。だから、あたしは運動はしないってば。それより、えーと、えーと、そうだ。隼くん、マンガは持ってきてくれた?貸してくれる約束してたよね」
「あっ、忘れちゃったー」
「そっか。楽しみにしてたから、残念だなあ。……なんて、冗談だけどね」
「明日は絶対持ってくるからね!」
「……隼くん。一応確認しとくけど、学校にマンガ持ってきちゃダメだからね」
「おはよっ、霧崎。相変わらず猫背だな」
「ああ、おはよう雨宮さん。朝からご挨拶だね」
登校中、霧崎と雨宮は会った。
「嫌だったら背筋伸ばせ」
「……じゃ、別にいい」
チッと雨宮は舌打ちして、歩き出した。霧崎も一緒についてきた。
「隼くんにはちゃんと会えたのか?」
「うん。無事でよかったよ。でも、隼のこと、叩いちゃったんだよな」
「叩いたの?!霧崎、最低だ!」
「反省してます……。もう絶対叩きません……」霧崎は決意するように静かに言った。
「で、それはともかく、雨宮さん、疑問があります」
「おお。人間として、いいことだな。Whyから科学は進歩していったのだよ。なんでも貪欲に知ろうとすることが大切だ」
「なぜ雨宮さんが隼のこと知っているんですか。しかもぼくとはぐれたことまで知ってたし、隼が公園に戻ってくることまで知ってた。なんで?」
「人に聞く前にまず自分で考えてみよう」
「考えたよ、昨日、夜寝る前に。けど、一分考えて何も思いつかなかったから寝た」
「やる気ねーな。霧崎の普段の生活が目に見えるようだ」
「で、なんで雨宮さんが隼のこと知ってたの?」
「霧崎、世の中には知っといたほうがいいこと、知らないほうがいいこと、どっちでもいいこと、の三種類があるんだよ。だから、訊くな」
「さっきと言ってることが違う!ていうか、知っちゃったらなんか悪いことでも起こるの?」
「いや、今回の場合、知っといても知らなくてもどっちでもいいこと、なんだけどな」
「な、なんだと……」
「知らなくてもいいんだから、ここで言う必要はないよなぁ」
「いや、でも、疑問に思って夜も寝れないんですが」
「霧崎もさっきと言ってることが違うな」
「そりゃ、どうしても気になるってことじゃないけど……」
「仕方ないなぁ。今日、ジュースおごれよ。それが条件だ」
「……なぜこんなことに我がなけなしの小遣いを使わなければならないんだ?………くそう、わかったよ。その条件を呑もう。で、答えは?」
「実は隼くんはあたしの息子なんだ」
「なにい!そうだったのか!!!」
「信じんな!」




