シーン61:世界は狭いや
「で、隼は、あんなところでなにしてたんだ?」机の上にあるクッキーに手を伸ばしながら、美羽が訊いた。
「鬼ごっこ!――をしようとしてたんだけど、公園にお兄さんたちがいたから、できなかった」
「鬼ごっこなんて、やっぱり隼はお子様じゃねーか」
「えー。鬼ごっこ、すっごく楽しいのに!」
「へんっ。大人はやっぱり野球だろ。隼、野球やったことあるか?楽しいんだぜ」
「野球も好きだよ。美羽ちゃんも野球やるの?じゃ、今度一緒にやろーよ」
「いいよ。あたしの上手さを見せて、驚かせてやるよ」
「そっちこそ驚くよ、ぼくより下手な人なんていないからなあ」
「そういうやつに限って下手だったり――って下手なのかよ!」
雨宮はコーヒーを口に運んだ。美羽と隼くんはもう仲良くなったみたいだ。子どもは仲良くなるのが早いな、と思った。
「ちょっと話の邪魔して悪いんだけど、隼くん。鬼ごっこしようとしてたってことは、お友達と一緒だったんじゃないの?」
「ううん。友達とは一緒じゃないよ。にいちゃんだよ」
「お兄さん、か。どんなお兄さん?」
「なんか、会社帰りです疲れましたー、みたいなにいちゃん。いつも下向いてるんだよね」
「なるほど」雨宮はうなづいた。「やつならほっといてもいいか」
「ん?あねき、こいつのあにきのこと知ってんのか?」
「たぶんね。美羽は知らない?」
「だって、隼とは今日初めて会ったんだからよ」
「そうだよね」
そのときドアが開いて、美久がリビングに入ってきた。
「おねえちゃん、お腹空いたー。あれ?なんで美羽ちゃんもいるの?」
「ああ美久。ちょっとおいで、美羽が彼氏連れてきたよ」
「あねき、なにバカ言ってんだよ。初めて会ったって言ってるだろ」
「いつものお返しだよ」
「かれし?」そのとき美久は隼に気づいた。「……あれっ?隼くん?」
「あーっ、美久ちゃんじゃん!どーしてここにいるの?」隼が言った。
「いや、それはこっちのセリフだよ。なんで隼くんがここにいるの?」
「隼くん?」「美久ちゃん?」雨宮と美羽は顔を見合わせた。
「知り合い?!」
「うん。隼くんはあたしのクラスメイトだよ」
「ええっ!」
「ふうん。隼くんが美羽ちゃんが怪我したから連れてきてくれたんだ」美久は雨宮が淹れてくれた紅茶を飲みながら言った。「じゃ、ありがとう」
「ううん。美羽ちゃんが困ってたから、トーゼンのことをしたまでだよ」
「なんも役に立たなかったけどな。いや、それはいいや。それより、隼が美久のクラスメイトだったことに驚いたよ。世界は狭いや」
「ほんと。あたしもびっくり」
「美久と隼は仲いいの?」
「ううん、あんまり。隼くんはいつも男子といるからなあ」
「違うよ、美久ちゃんがいっつも女子といるんじゃんか。ぼくは女子とも遊ぶよ、たまにだけど」隼が反論した。
「……まあ、そうともいうね」美久がえへへと笑った。「美羽ちゃんは、男の子とも仲いいよね。うらやましいなあ。あたし、運動苦手だから」
「そうかあ?そのかわり、あたし美久みたいに学校の成績よくねーもん」
「ああ、そうだね」
「ちょ、美久、否定しろよ」
「ふーん。美羽ちゃん、勉強できないんだ。確かにできそうに見えないもんねー」
「隼、バカにすんなよな」
「いいじゃん。学校の成績で人生決まらないって、ねえちゃんが言ってたよ」
「いいおねえさんだね。隼くんのおねえさん、どんなおねえさんなの?」
「すごくいいねえちゃん。元気だし、優しいし、いつもぼくに構ってくれるよ」
「確かにいいあねきだな。じゃ、どーせ隼だって成績悪いんだろ?良さそうに見えないもんな」
「そう思う?でも、ぼく勉強できるよ」
「そんなの、信じられるかよ。美久は同じクラスだから、こいつの成績知ってんだろ?」
「隼くん成績いいよ。クラスで一番いいよね」
「えへへ。まあね」
「マジ?美久よりいいの?!」
「うん。だからあたしはクラスで二番かな」
「へへーん。美羽ちゃん、恐れいったか」
「く、くそう」
隼は胸を張った。
「ちなみに、隼くんはクラス一の変人でもあるよ」
「うう。美久ちゃん、それを言わないでよ」
しぼんだ。




