シーン6:図書準備室
西上高校の図書館は、入ってすぐ右前に閲覧コーナーが広がっている。面積の広い机と椅子が並んでおり、側面はガラス張りで開放感がある。入って正面には週刊誌コーナーがあり、そのすぐ奥が辞典コーナーである。その奥から見上げるほどの高さの本棚が並べられており、最奥の辺は全部本棚で埋まっている。Lを時計回りに90度回転した形が、本棚の部分だと言ってもいい。
図書館の受付は、図書館に入ってすぐ左側にある。図書館の受付に行くためには、図書館入り口手前にある、図書準備室に入る。準備室と図書館との間は床から1メートルほどが壁でその上はガラス窓で繋がっており、壁と窓とのさかい辺りから机上の板が飛び出ている。ここが受け付けであり、本の貸し借りがしたい生徒はここで手続きを行うのである。
霧崎と雨宮はその図書準備室に入った。準備室には誰もいなかった。
「当番わたしだけだからね」といいながら、雨宮は受付の前に座った。
準備室はそれなりの広さがあった。しかしそのほとんどを大きな机となんの書類も入っていない棚に占領されていた。机はほこりかぶっており、しばらくの間使われていないことをうかがわせた。
「あの机は本来教員が遣うためのものだからね。今は誰も使ってないんだけど」
「もったいないな。文芸部よりも広いよここは」霧崎は図書準備室の中を歩きながら、きょろきょろと中を確認していた。「いや、そんなことはいいんだよ。どれだけ広くたって。そんなことより、なんでこの部屋には台所があるの?なんでガスコンロがあるの?なんだこれ。誰か住んでんの?」図書準備室の奥のほうには、霧崎の言うとおり台所が完備されていた。
「そんなバカなこと言ってないでさあ」
「バカなこと?!」
「さっさとどっか座ってよ。目障りだから」
「え、なに?ぼくが悪いの?だいたいぼくはなぜここにいるの?雨宮さんが来いって言ったんじゃないの?なにこれ。なんだこの扱い」雨宮が指をパキパキと鳴らして見せたので、災難が降りかかる前に霧崎は席に着いた。
「ぶっちゃけすることないんだよねー図書委員って。誰も本借りにこないし」
「え?こないの?」
「わざわざ放課後に本借りに来るかっつの。昼休みに借りといてさっさと帰りたいってのが人情ってもんですよ」
霧崎は少し考えた。「…じゃ、雨宮さんも帰りなよ」
「…やだ」
「妹さんって何歳?」
「九歳くらい」
「帰ってやんなよ」
「ったく、霧崎のくせにやかましい」
「うわっ!なんという言われよう」
「六時になったらソッコ―帰る。そういうことで、家族とは話ついてるから」雨宮はまじめに言った。「これ以上帰れっているのは、きょうだいの絆に対するボートク」
「…そうですか」
「だからもうなにも言うな」
「…わかった」霧崎はうなずいた。
「あ、霧崎、暇なんだったらコーヒーでも沸かしてよ」
「え、あれ使っていいの?…でもコップが」
「あるよー。常備済み」雨宮は台所の隅のほうを指差した。ピンク地にクマが描かれたコップが伏せられていた。
「いやでも豆が」
「だいじょうぶ持ってきてる」雨宮はインスタント豆をバッグから取り出した。
「あんたここになにしに来てんだ!」
霧崎は立ち上がって台所の方まで行き、やかんに水を入れ火にかけた。外はまた雨が降り始めてきたらしい。窓を叩く雨の音が激しさを増してきた。
「砂糖もミルクもありませんが」霧崎は淹れたコーヒーを雨宮に差し出した。
「だいじょうぶ持ってきてる」雨宮は砂糖とミルクとついでにスプーンをバッグから以下略。
「…もう突っ込まねーぞ」霧崎は頭を抱える。「それはそうと雨宮さん。また怒られるのは嫌だからためらわれるのだけれど、思いついたことがあるんだけど」




