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シーン59:野球をやるにはもってこいの空だ

 美羽は一人で道路を歩いていた。今日は日曜日、友達と河原で野球をやる約束をしている。野球は大好きだった。いつも一緒に遊ぶ友達の中では、美羽が一番上手い。一番活発なのも美羽だ。

(こんなんだから男子に、おとこおんな、とか言われんだよなー。言ったやつはボコボコにしてやったけど)

 それはもちろん、いじめではなく冗談と言うべきものだった。それは美羽もわかっている。それでも、美羽は少しだけ気にしていた。

 少しは女の子らしくした方がいいのかな。

 けど、野球やってる方が楽しいしなー。わざわざ、女の子らしいことする必要もねーか。

 それに、女の子らしいこと、ってなんのことだかよくわかんねーしな。

 顔を上げると、真っ青な空だった。雲ひとつない空。野球をやるにはもってこいの空だ。

 気持ちのいい空を見ていると、力が湧いてきて、走りたくなってくる。

 よし、走るか。

 力を溜めて。

 スタート。

 ――と、目の前をボールが横切った。

 うわっ、と急ブレーキをかけたが、バランスを崩した。

 立て直せない。

 そのままズデンと転んでしまった。

「いってー」どうも、足を少しすりむいてしまったらしい。それでもハデに転ばなかったおかげか、足のほか、痛いところはなかった。その足も、歩くくらいはできそうな痛みだった。――走るのは無理そうだが。

 ボールが飛んできた方を見ると、公園だった。つまり、公園でボール遊びしていた人間が、誤ってボールを外へ飛び出させてしまったらしい。確か、ここはボール遊び禁止だったはずなのにな。悪い人間がいるもんだ。

 しばらく見ていると、男の人が公園の出入り口から出てきて、ボールを拾うと、美羽には気づかずまた公園へと戻っていった。

 やれやれ。

 帰って手当てするか、と立とうとしてみると、やはり痛みが走った。しかし、我慢できる痛みだった。活発な美羽はよく怪我をしていたので、少々の痛みには慣れていた。

「ねー、どうしたの?」いきなり真横から男の子の声が聞こえた。びっくりしてそちらを向くと、知らない男子が美羽の怪我を心配してくれていた。

「大丈夫だよ、こんくらい……」知らない子に迷惑かけたくないから、それだけ言って家に帰ろうと歩き出した。

「大丈夫じゃなさそうだよ。痛いよ助けてって感じだよ」男子は美羽について来ていた。たいした痛みではないが、どうしても足を引きずってしまうので、確かに痛そうに見えるかも知れなかった。

「大丈夫だよ。うち近いから」

「でも、困った人がいたら助けなさいって、ねえちゃんがよく言ってるよ」

「じゃ、つっ立ってないで助けろよ」

「でも、どうしたらいいのかわからない」

「……なんだ、こいつは」美羽はため息をついた。見たところあたしより小さいくらいのやつだし、悪そうなやつじゃねーか。

「じゃ、肩貸せよ」

 男子は自分の肩をつかむと、一生懸命外そうとした。「うーん、ダメだ。肩外れないから貸せないよ」

「ベタなボケしてんじゃねーよ!」





 霧崎は公園の外にある自動販売機でジュースを買っていた。

「…ったく、キャッチボールするなんて、マナーの悪い人がいるよな。鬼ごっこするのに邪魔だよ」二本のジュースを取り出して、振り向いた。

「ほらっ隼、ジュース――、ってあれ?さっきまですぐ側にいたのに………」


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