シーン54:みんなだらしないなあ
「暑い」
「うっせえよ霧崎。今日何回目だ?」
雨宮家は夕食の時間になっていた。食卓に全員が集まっている。食卓の中央――全員が囲んでいる真ん中には、熱く煮立った鍋が置かれていた。
「暑いもんは暑いんだよ。暑い暑い暑いあつ――」机の向こうから箸が飛んできて霧崎に命中した。「いてぇ。目に入ったらどうするだよ雨宮さん」
「あれっ?おかしいな目に入るように狙ったのに……」
「………本気は止めようよ」
「だってさあ、霧崎がうるさいんだもん」
「いやでも――」霧崎は同意を求めるように周囲を見た。「みんなだって、暑いよね」今は初夏。今日の最高気温は33度だ。
「ウウン、ソンナコトナイヨ、オニイチャン」
「ハガネ、ナニイッテンダヨ。スズシイクライダゼ」
「二人とも、雨宮さんに気つかいまくってるのバレバレだよ」美羽も美久も汗をだらだら流し、うちわであおぎまくっている。
「いい子だね二人とも。お姉ちゃん、感動しちゃった」
響が発言してないな、と霧崎は妹の方をうかがった。
響は中空を見上げ、目は焦点が定まっていなかった。「暑い……。あれえ、おじいちゃんにおばあちゃんだぁ。二人とも、ずっと前に亡くなったはずなのにぃ。わぁ、きれいなお花畑だねぇ」
「ひびきぃ!そっちは行っちゃだめだ!」急いで水を飲ませた。
「あれっ?ここは?さっきまでわたしはどこに居たの?」
「よかった響、正気に戻ったんだな」
「まったく、みんなだらしないなあ。ほら、楊なんて、文句も言わずに食べてるよ」
「それはすごいな」楊を見た。楊は鍋に手を伸ばし――たまま動いてなかった。
「暑さで気絶してるんだよ。水、水!」水を飲ませると復活し、うちわを手に取り黙々とあおぎだした。
霧崎は雨宮を見た。「ほら、やっぱり鍋は無茶だったんだ」
「うーん。あたしは一向に平気なんだけどなあ………」雨宮は汗一つかいていない。「真夏の鍋も平気だし」
「それは雨宮さんがかいぶ――」発言の途中で、鍋に入っていたお玉が飛んできた。「あつっ!暑いとは字の違う熱っ!」
「誰が怪物だって?!」
「………まだ発言の途中だったんだけどな」
「これでも『可憐で儚げな雨宮ちゃん』で通ってんだよ?」
「どこでだよ。『苛烈に墓送りな雨宮さま』ならわからないでもないけどな」
「なんだよそれ」
「押し寄せる強豪どもをバッタバッタと苛烈になぎ倒し、次々と墓送りにする雨宮さん」
「霧崎くぅん、墓送りにされたいのかなぁ?」雨宮は微笑んだ。
「いやあほんとに雨宮さんの作る鍋っておいしいよね。凍える心もぽっかぽかだ。え?暑いなんていう奴がいるって?誰だいそんなけしからん奴は」
「てめぇだよ」
「ごめんなさい」
美久はフラフラになりながら、隣の美羽に話しかけた。「おにいちゃんすごいよね。なんだかんだ言いながら、ちゃんと食べてる」
美羽はうなずいた。「あたしたちは、ちょっときついよな。おいしいんだけどさ」
「あれ、美羽に美久、箸が止まってるよ、ちゃんと食べなきゃ!」
「いや、あたしたちはもうお腹いっぱいで」実際に、二人とも充分の量はちゃんと食べている。
「あれ?確かにあたしたち結構食べたけど、鍋には全然残ってるなあ」
「雨宮さん、こんなこと言いたかないんだけどさ……」霧崎がやれやれ、といった感じで言った。「ま た 量 を 間 違 え た な ! ! !」
「………。テヘッ☆」
「テヘッ☆、じゃ済まされないよ。ったく!」




