シーン51:とりあえず殴ってみる
「というわけで兄妹でお邪魔したいわけなのですが…」
「えー」
次の日の昼休み、霧崎と雨宮は机を挟んで向かい合っていた。
「………なぜそんな嫌そうな顔するのさ。やっぱり二人も押しかけてくるなってこと?」
「いや、響ちゃんは大歓迎なんだけどさ」雨宮はじっと霧崎を見て、ため息をついた。「この陰気な人間がうちに来るかと思うと、ああ、憂鬱で………」
「………」
「ちょ、本気で泣きそうな顔すんなよ」
「いいよいいよ。そうやって響ばっかり可愛がられればいいんだ。どうせ、おれなんていらない子なんだ。うわあああん」
「………そんなほんとのトラウマっぽいボケすんなよ。対応に困る」
「どうでもいいんだけどさ」霧崎は周囲を見回した。「なんでクラス内に誰もいないんだろうね」
その言葉の通り、今教室にいるのは霧崎と雨宮だけだった。
「………タブンデスネ、ミンナ、キヲツカッテクレタノダトオモイマスヨ」
「なんでそんな感情のないロボットみたいな顔してるの雨宮さん」
「理解しろよ。あんたとあたし、付き合ってると思われてんだよ。クラスでは」
「えー」
「てめぇ露骨に嫌そうな顔しやがったな」
「シテナイデスヨー」
「なんで霧崎が嫌そうな顔するんだよ。それはあたしの役目だろうが」
「なんでそんな誤解されちゃったんだろうねえ」
「覚えてないの?」
「ああ思い出した」以前霧崎と雨宮は二人で朝のホームルームを抜けたことがあった。それ以外にも、雨宮が文芸部に入り浸るなど、最近かなり親密にしている。そんな誤解があってもおかしくないか。「なるほど。雨宮さん、ごめんなさい」
「謝られるのもむかつくけどな」
「今後どうしましょうか」
「考えてみようか」
――今後の対策案――
1.クラスメイトと話し合ってみる。
2.噂は完全無視する。
3.今後学校では二人で話さないようにして、自然にそんな噂が消滅するのを待つ。
4.とりあえず殴ってみる。
5.そんな噂はないんだと自分に言い聞かせる。
6.登校拒否する(霧崎だけ)。
7.髪型を変えて明るくなってみる(霧崎のみ)。
8.この世からいなくなる(霧崎一人で)。
「どれを選ぶかであなたの性格がわかるよ☆」
「わかるか?……まともなのは前者三つだけだな。最後三つは雨宮さんなにもしないし」
「あたしとしては4がいいかなー」
「いちばんやっちゃ駄目なことだろ……」
「『4.(霧崎を)とりあえず殴ってみる』」
「えっ?ぼくが殴られるの?なんで?ぼくが殴られたらなにか解決するの?ああそうか。殴るような奴と付き合ってるわけないということで」
「変な趣味があるんだと思われるかもよ?」
「そう思うんならやめろよ」
「真面目な話、無視でいいと思うんだけどね。人の噂も七十五日」
「それがいいですな。で、今夜妹ともどもお伺いしますがいいんですか?」
「いいよー。ドンと来い。鍋やるよ、鍋」
「暑い季節なんですが」
「暑くてもいいじゃないさ。大人数なら鍋だよ鍋!」
「……マジかよ」




