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シーン5:放課後

 放課後になると雨が上がっていた。まだ嫌な色をしている雲は残っていたが、生徒たちは傘や合羽のわずらわしさから逃れることができた。

 放課後を告げるチャイムが鳴ったとき、西の空に夕焼けが上がっているのを霧崎は見ていた。べつに授業がつまらなかったわけではないのだが、なんとはなしにその方向をみていた。そのままチャイムが鳴り終わってからも座って窓の外を眺めていた。

「霧崎」最近妙に聞きなれてきた声が聞こえて霧崎は振り向いた。大きな瞳をした少女が座ったままの霧崎を見下ろしている。襟まで伸ばした髪が風になびいて揺れていた。

「これから文芸部行くんでしょう。一緒に行こうよ」

「なんで雨宮さんも行くわけ?文芸部じゃないでしょう」

「いやいや、わたしは文芸部に行くんじゃなくて、その下の図書館に行くの。今日わたし図書館の当番なんだよね」

「当番だったら早く行かなきゃ」

「そ。だから早く仕度してよ」

「いやでもぼくまだなんの用意も」

「だから早くする」

「はいはい」この最近できた友達は少々ジコチューであるな、と今さらながら霧崎は思った。

「雨宮さんこの前家事してるって言ってたよね」図書館への道すがら霧崎が聞いた。

「そうだけど?」

「家事って、夕飯作ったりもするんでしょう?」

「そりゃそうだね」

「今日はいいの?」

「ん?んー、痛いとこ突くなあ。六時まで図書館で、買い物して、帰って作って、食べれるのは八時前かなー」

「それまで家に保護者は?」

「いないけど?」

「子どもだけ?」

「そういうこと」

「………」

「三点リーダで会話しようとするの、やめてくれない?」

「雨宮さん。おれは文芸部だけど文芸部というのはおれ一人の部活なわけでおれが部活に出ようと出まいと責める人は誰もいないんだなあ、ということを考えていました」

「………、それで?」

「だから、要するに、おれが図書委員の仕事を代わってあげましょうという」

 雨宮は手を振り上げると本日4回目のひっぱたきを霧崎の後頭部に食らわせた。

「………、雨宮さん?」

「なんか用?」

「おれ、なんか悪いことしましたっけ?」

「してないねえ」

「あの、なぜか知らないけど、ぼくの勘違いかもわからないんですけど、後頭部がですね、痛いんですが」

「ごめーんひっぱたいちゃった。テヘっ☆」

「『テヘ☆』じゃねえよ『テヘ☆』じゃ」

「ちーがーいーまーすー。『テヘ☆』じゃなくて『テヘっ☆』ですーぅ。ちょっと促音なめないでくれって感じなんですけど―」

「あの、雨宮さま。よろしければ理由の方をお聞かせ願いたいのですが。そうでなければ、わたくしはあなたさまとの関係に少々疑問を感じずにはいられないのですが」

「なんつーか、ノリ?」

「さらば雨宮」即答した。

「ごめんごめん嘘だってうそぉーうそぉー」雨宮は真顔に戻った。「真面目な話すると、わたしは自分の仕事を他人に押し付けたりはしないんだぜバカヤローって感じで」

「…はい。わかりました。理解しました。ですが雨宮姫、それはひっぱたく前に口で言えば済む話ではないですか?」

「まぁマジな話、ちょっとひっぱたきたかっただけっていう」

 さらば雨宮、と霧崎は心の中だけで思った。

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