シーン49:ただいま
「どうでもいいけどさ、死ねはひどくないかな、雨宮さん」
「いやあ霧崎さん、それは察してくださいよ。あたしが本気で死ねなんていうわけないじゃないですか。あたしゃクラス内じゃ『仏の雨宮』なーんて呼ばれちゃったりなんかしちゃったりしてる人間ですぜ」
「………通り名がつくなんて、どんな学校だよ」
霧崎と雨宮は雨の中を歩いていた。霧崎は自宅に帰ってもよかったが、響がいるので、雨宮家に向かうことになった。
「…この濡れまくった服はどうすればいいかなあ?」
「楊の服着れば?」
「いいのかな?」
「いいよいいよ、楊だし」
「貸してくれればいいけど」
「ていうかさ!」雨宮は真面目な顔をした。「霧崎。響ちゃん、あれなに?」
真剣な表情の雨宮に、霧崎も身体をこわばらせた。「響がどうかした?」
「だから、あれはどういうことかって聞いてんだよ!」
「な、なにか響が悪いことでも?」
「かわい過ぎるよ!」
「…………。はあ?」
「そしていい子過ぎるよ。なんで今まで隠してたんだよ」
霧崎は雨宮の額に手を当てた。「ああ、なるほど。雨宮さん、少し熱っぽいな………」
「あたしはまともだっつーの」雨宮は霧崎の手を払いのけた。「響ちゃんと、話してみてあたしは感動したよ。話すことは整然として乱れがなく、聞くときは的確なところで相槌を打ち、笑顔を絶やさず、なによりかわいい。ほんと、あんたなんかの妹にしとくにはもったいないよ……」大げさにため息をついてみせた。
「………やらねえぞ?」
「そんな!霧崎ひどい!」
「ひどくないよ!」
「美羽と美久もなついちゃってねー」
「あの二人は誰にでもなつくからなあ。ほんと、いい子たちだよ」
「………やらねえぞ!」
「言ってないよ!」
「ねえ霧崎………、あんた、まだ夕食食ってないよね」
「ああ、そういえば腹減ってるな」
「今日くらい、食ってけよ」
「いいの?」
「最近あんた来なかったから、美久も美羽も楊もさびしがってたんだよね。だから、少しでも長くいてやってよ」
雨宮家に着いた。ドアを開けて、玄関に入る。
「ただいまぁ!」雨宮が元気な声を出した。
「………お邪魔します」霧崎が呟いたのを聞いて、雨宮は小さなため息をついた。
さてまずは――と考えていると、家の中から美羽と美久がやってきた。「おかえり!」と重なった声が響いた。
「ただいま。二人とも留守番ありがと」
「二人とも、久しぶりだね」と霧崎が言うと、二人は首を振った。
「おにいちゃん、おかえりなさい」
「ハガネ、お・か・え・り」
「……ただいま」
美久も美羽もニコッと笑った。雨宮もふうと息を吐いた。
「霧崎濡れてるから、タオル……ついでに着替えちゃった方がいいか。ちょっと楊に言ってくる」
「あたしタオル取ってくるよ」美久が手を上げた。
「あたしは楊に服借りてくるか」美羽も名乗り出た。「あねきはいいから休んでろよ」
「そう?……霧崎の食事の準備もあるし、お願いしようかな」
「なんか、いろいろ迷惑かけるみたいで、申し訳ないなあ」
「いいんだよ。全身ずぶぬれ男はじっとしてな」
「なあ美久。あねき、傘一本しか持っていってなかったよな。どうやって帰ったのかな」
「確かにそうだったね。うーん。あっ、だからおにいちゃん濡れてたんじゃないの?」




