シーン48:ごめん
「なんかすっかりお世話になっちゃって………」響は食事を終えて、雨宮に礼を述べた。「ごちそうさまでした。おいしかったです」
「いやいや、こっちも楽しかったよ。久しぶりに五人で食事できたんだし」
「ねえ響さん。まだ時間だいじょうぶだよね」
「もっと、おしゃべりしてよーぜ」雨宮家の小学生たちは、すっかり響になついたようだった。
「うん、まだ大丈夫……」響も雨宮家に慣れてきていた。夕食中のおしゃべりは楽しかったし、なにより雨宮たちの温かい雰囲気はとても居心地がよかった。
(なるほど、兄さんが夢中になるわけだ)
デザート持ってくるね、と言い雨宮が立ち上がった。ちょうどそのとき窓の外が目に入った。「――雨だ」窓に数条の雨の跡がついていた。
その言葉を聞いて、響が「あっ!」と声を上げた。「大変だ!」
「だよね。響ちゃん、傘持ってきてなかったもん」
「じゃないんです。兄さんのこと、忘れてた」
「霧崎?」
「ええとつまり、今日わたしが来たのは兄さんのためで、兄さんは今公園に居て、わたしは雨宮さんを連れて行こうと思ってたんだけどとても居心地がよかったから忘れてしまっていて……」
「………とりあえず、落ち着いてくれないと、話がよく見えない……」
「とにかく!兄さんが今公園に居るんです。雨宮さんに会うために!」
「………意味がわからない」あたしに会うために、なぜ公園なんかに居るんだろう、と雨宮は思った。直接会いにくればいいのに。「ったく、あの馬鹿は!」
「わたし、行ってきます。もう帰っちゃってるかもしれないけど……」響が立ち上がった。
忘れられたままさびしくベンチに座ってると、頭になにか冷たいものが落ちてきた。「――雨か」泣きっ面に蜂という奴だ。神様はみじめな人間に冷たいらしい。
見回してみても、この公園には屋根のある場所はなかった。すぐ本降りに変わり、見る間に霧崎の体はぐっしょりと濡れた。なんか、おれ、濡れてばかりいるな。
「さむい。そんな季節じゃないのに」
そのまましばらく濡れていた。
園内には他に誰もいない。
孤独だな、と霧崎は思った。
誰もいないところで独り、というのは辛くない。
むしろ心が落ち着いて、澄んでいくような感じがする。
辛いのは――
「馬鹿だな」
雨が遮られた。霧崎の上に傘が差し出されたようだった。
「ほんとに、あんたは馬鹿だな」
「………まあね」霧崎は顔を上げずに答えた。
「さっさと帰れよ。雨降ってきたんだから」
「妹のことは、信頼してるんで。帰るわけにはいかなくてさ」
「そもそも、言いたいことがあったら、うちまで来いよ」
「それはぼくも思う」
「学校でも会うんだから、そんときでも」
「あまりにも拒絶されてたから、話しかけられなかったんだ」
「拒絶してた覚えはないんだけど」
「うっそだあ」
「うそじゃねえよ」
「………そう。そっか」
「………うん。そうだよ」
「雨宮さん、ごめん」霧崎は顔を上げた。
「別に………。あたしも、悪かったよ」雨宮の顔が見下ろしていた。
目が合って、お互いニヤッと笑った。
「兄さん、ちゃんとできてるかなー」窓の外を見つめながら響が呟いた。「なんせ兄さんだからな、心配だ」
「大丈夫だよ。おにいちゃんは強い子だもん」美久が隣に来て一緒に窓の外を眺めはじめた。
「でも、やっぱりわたしも行った方がよかったんじゃないかな。あたしに会いに来たんだから、って雨宮さんが一人で行っちゃったけど………」
「なんだ、ヒビキは心配性だなー」美羽も隣に来た。「ハガネは、やるときはやる奴だから、大丈夫だって」
「………それもそうか。よし、心配するのは止めて、せっかく雨宮さんが出してくれたデザート食べちゃおっか!」




