シーン47:行こう!
数日間、霧崎と雨宮は一切なにも話さなかった。どちらからも話しかけないし、目も合わせない。同じ教室にいても、いないのと同じだ。
「いや、ぼくだって話しかけようとはしてるんだよ。けど、まったくのシカト状態だから、話しかけづらくて」今日も霧崎は響に愚痴を聞かせていた。
「ねえ兄さん。わたしだって暇じゃないんだから、毎日同じ話されても困る」
「………毎日同じ話、してる?」
「してるよ」響はため息をついた。「結局のところ、兄さんはどうしたいの?雨宮さんと仲直りしたい?」
「……そりゃ、もちろん」
「よし!じゃ、行こう!」
「えっ?どこに?」
「もちろん、雨宮さん家。ほら、早く準備して!」
「ええっ?家なんて、行けないよ。そういう状況じゃない」
「ったく。じゃ、兄さんは、近くの公園にでもいなよ。わたしが雨宮さんを連れて行ってあげるから」
「そういう問題じゃない」と霧崎は言ったが、響は準備を始めており、聞いていなかった。「……仕方ない、善意はありがたく受けよう」
数十分後、雨宮家のチャイムが鳴らされた。雨宮はドアを開けた。
見知らぬ女の子――いや、どこかで見たことがあるような気がする――が立っていた。
「こんにちは。わたし、霧崎響といいます。雨宮美緒さんですよね」
霧崎?――ああ、確かこの娘は、霧崎の妹さんだったな、と雨宮は思い出した。
「なんの用――ま、立ち話もなんだし、上がって」雨宮は響を家の中に招じた。
「え、いや…」響はためらった。兄が公園で待っているのだから、上がって話しこむわけには行かない。
「ほら遠慮しないで。あまり綺麗ではないけど、それなりにくつろげるうちだから」雨宮はニッコリと微笑んでいた。気持ちのいい笑顔だ。
(せっかく招いてくれているんだから、断るのも悪いよね)結局笑顔に負けた形で、上がることになってしまった。
雨宮についてリビングに入っていくと、雨宮家は夕食の真っ最中だった。「あ、そっかもう夕飯時だったんだ。すいません、なにも考えてませんでした」
「いいのいいの。そうだ、響ちゃんも食べる?」
「え?いや、さすがにそこまでは………」
「遠慮しなくていいから。ご飯食べながらのほうが、話だってしやすいでしょう」と言うと、響の返事も聞かずに、雨宮は台所へ行ってしまった。
参ったな、と響は思った。思ったよりも長居することになってしまいそうだ。
「なー、あんた誰?」声がした方を振り向いてみると、食卓に座っている女の子が料理を食べる手を止め、話しかけてきたようだった。隣にもう一人女の子がいて、その子も響に注目していた。
「あ、わたしは霧崎響っていって……」
「霧崎?!」話しかけてきた女の子と、話しかけてきてない女の子の、両方が反応した。
「霧崎って……もしかして」
「おにいちゃんに関係ある人?」
「わかった、ハガネの妹だ!」
二人は立ち上がり、走り寄ってきて、響に質問を始めた。
「おにいちゃん、今元気ですか?」
「あいつ、なにやってんの?うちに来れないのって、なんで?」
「おにいちゃんの妹さんはなんで来たんですか?」
「うちのあねきとどうなってんのか、なんか知らない?」
響はちょっと混乱した。「いきなり色々言われても………」
「ちょっと、美久に美羽、響さんに迷惑かけちゃだめでしょうが。ちゃんと座ってな」台所から雨宮が響の分の食事を持ってやってきた。「じゃ、響ちゃんはここに座って……、食べながら、話そうか」
結局響は雨宮家で夕食をごちそうされることになってしまった。雨宮やその妹さんたちと、楽しく話しながら食事した。
(なんか居心地いいな。あれ?なにか忘れてる気がする…………。なんだっけ?)
雨宮家にほど近い公園。ベンチに男が座っていた。「もうだいぶ経つな……。どうせぼくなんて忘れられてんだろうな。あれっ?目から温かい水が流れてきたぞ?」




