シーン46:メール
「で、あねき、どうすんだ?」
「おにいちゃんと仲直りしないの?」事の次第の説明を終えて、雨宮家には平穏が訪れていた。
「仲直りって。向こうが悪いんだからさ、向こうが謝ってこないことには、どうしようもないよ」
「けど、おねえちゃんだって、おにいちゃんの話ちゃんと聞いてあげなかったんでしょう?」
「そりゃそうだけど………」
「あーあ、これでもうハガネに会えねーのかなー」
「そんなことは、ないだろうけど………」
――そのときメールの着信音が鳴り響いた。
ものすごい勢いで、雨宮は携帯を確認する。「………迷惑メールだった」肩を落とした。
「おねえちゃん、おにいちゃんみたいだよ!」
「霧崎みたい?」
・・・
――あるクラスメイト|(匿名希望)による霧崎鋼についての証言|(プライバシー保護のため音声は変えてあります)――
正直言ってぇ、暗い、の一言に尽きますね。あいつが誰かと話しているとこ見たことないしぃ、休み時間とかぁ、いっつも本読んでるか、机にうつぶせて寝た振りしてるかでぇ。いや、みんな嫌ってるとかないですよ。なんていうか、空気?いてもいなくてもいい存在、みたいな?というか、いるのかいないのかわからないっていうかぁ。そうそう、あたしなんて、最近まで、顔も良く覚えてなくて、クラスメイトだってことがわからなかったし、名前も教えてもらうまで知らなかったんですよ。あははは。ほかのみんなも、そんな感じじゃないんですかねぇ…。
・・・
「………いやだぁぁぁ!あたしまでそんな印象になるのわぁぁぁ」
「おねえちゃん、肩を落としてる様子を言っただけだよ………」
「それにしてもあねき、ものすごい勢いで携帯に飛びついたじゃねーか」美羽はニヤニヤしている。「そんなに、ハガネからのメールが恋しいのかよ」
「なに言ってるの美羽。普通だよ」
「でもさー、今ごろハガネ、あねきにメール打とうとしてるかもよ?」
別に、そんなもん求めてないもん、と雨宮は呟いた。
夕食後、響が自部屋でくつろいでいたところ、ドアにノックがあった。開ける。そこには深淵の闇から現れたものがいた。
「妖怪?!………よく見れば、兄さんじゃん」
「人のこと妖怪扱いするなよ」
いや、兄さんの顔はそれくらい暗くなっている。さっきもかなり暗い顔していたけど、今はさらに二乗された暗さだ。
………このまま行けば兄さんは本当に妖怪化してしまうかもしれない。いやいやいや、見たいなんて思ってない。思って、ないですよ?
「あー、兄さん、雨宮さんにメール送ったんだ。そして、冷たい返信があったんだね?」
霧崎は首を横に振った。「なにを書いていいか、思いつかないんだ」
「あのねー兄さん。自分の思ったことを思ったとおりに書けばいいんだよ。それとも電話する?」
霧崎はさっきよりも勢いよく首を振った。「そんなこと、できるわけないだろ!」
「じゃ、もう謝らなければいいんじゃない?別に謝らなくてもいいような人なんでしょう?」
「そ、そんな冷たいこと言わないでくれよ………。ぼくには、響くらいしか頼れる人間がいないんだ」
はて……、この間まで、あたしのほうが兄さんに相談してたんじゃなかったっけ?なんでこんな急に立場が逆転してるんだ?
「ま、いいか。じゃあ、わたしがなんとかしてあげるよ。兄さん、携帯出して」
「はい」霧崎は簡単に自分の携帯を差し出した。この兄は、見られたくないとかないのだろうか。
響はしばらく霧崎の携帯をいじっていた。それから「はい」と返した。
「なにしたの?」
「送っといた」
「………………はい?」
確認すると、送信フォルダに、確かに雨宮宛のメールがあった。
件名:(なし)
本文:ごめんなさい
「これだけ?」
響は笑顔を見せた。「こういうのは、変に装飾するよりも、スパッと伝えたほうがいいんだよ」
「そうかなあ………」
着信音が鳴った。霧崎と響は、メールを確認してみた。
件名:Re.
本文:死ね
「ねえ兄さん、雨宮さんって、頭に『ヤ』のつく自営業の人?」
「………………………………違うよ」霧崎は消え入りそうな声で呟いた。
「………………あねき、なんでそんなの送ったの?」
「………………せっかく、おにいちゃん謝ったのに」
「自分でもびっくりだよ………」雨宮は頭を抱えていた。「メールが来たことにびっくりして、頭が真っ白になっちゃって、つい………」




