シーン45:リビングが大変なことに
楊 美羽 美久へ
お姉ちゃん、今日はちょっと疲れているので寝ます。
夕ご飯は食卓に並べておいたから。
みんな仲良くしてね。 ――お姉ちゃんより
「………なんだこれ?」夕飯時リビングにやってきた美羽は、食卓の上に置かれていたメモ用紙を手に取った。それは確かに姉の文字らしい。リビングには、姉の姿はなく、美久が心細げに座っていた。「あねき、なんかあったのかな」
美久は首をかしげた。「おねえちゃん病気なのかな。どうしよう」
「そんな泣きそうな顔するなって。………。夕飯は食卓の上にって書いてあるけど……」美羽は食卓に目をやった。
――食卓にはバナナが置かれている。
「………」美羽は目をこすってから、もう一度みた。
――食卓にはバナナが置かれている。
「あねきが大変だああああああ!」
「おねえちゃあああああああん!」
と、リビングのドアが開いて楊が顔を出した。
「どうしたの?二人で大きな声出して」さすがの楊も、妹たちのただならぬ様子に関心を寄せたようだった。
「これ、見て」美久がメモを渡した。
「これ、見ろ」美羽は食卓を示した。
「なるほど、確かにのっぴきならない事態が起こっているようだね」
「どうしよう楊くん。おねえちゃん病気なのかな。大丈夫かな。死んじゃったりしないよね」
「どうするよ楊。あねきが寝込んじまうなんて、こんなこと一度もなかったのに。あ、あ、あたしたち、どうすればいいかな。あねきは、大丈夫だよな?」
美羽も美久も泣き出さんばかりに取り乱し、楊にすがりついた。
楊は完全にテンパっている妹たちを安心させるために抱きしめ――ることもなく、落ち着いた様子で座って、バナナを手にとると皮をむき始め
「やってる場合か!」美羽がかろうじてつっこんだ。が、それが理性を支えていられた最後だったらしく、「あああもう、楊じゃ話になんねーよ。あたしたちどーしていいかわかんねーよーーー」大声で泣き始めてしまった。
「おねえちゃんが死んじゃうぅぅぅぅぅ」美羽に呼応するかのように、美久も泣き始めた。
「うわっ。騒がしいと思って顔を出してみれば、リビングが大変なことに!」リビングに雨宮がやってきた。妹たちに近づき、二人の背中に両腕を伸ばして抱きしめる。
「あねき?」
「おねえちゃん?」雨宮の腕に包まれたのを感じて、美羽と美久は泣き止んだ。
「ごめんね二人とも。おねえちゃんこの通り元気だから」雨宮は妹二人を優しく包み込んだ。
「あねき!」
「おねえちゃん!」今度は振り向いて、姉の胸の中で泣きはじめた。
「ごめんね。怖い思いさせちゃったね」
その頃楊はバナナを一本食べ終え、二本目のバナナの皮むきを始めていた。
ひとしきり泣いたあと、美羽と美久は質問を始めた。
「大丈夫。どこか悪いの?」
「大丈夫だよ?ちょっと寝たかっただけ」
「ちょっと寝たかっただけって、なんかあったのか?」
「ううん。なにも無いよ」
「だって、帰ってすぐに部屋に籠っちゃって………、おねえちゃん、絶対なにか隠してるよ」
「もぉ美久、人のこと疑うなんて、らしくないよ」
「あねきが弱いとこ見せたことなんて無いんだからよ………。絶対、よっぽどのことがあったはずだよ」
「美羽まで。なにも無いんだってば」
「姉貴は僕たちに心配かけまいとするからなあ」
「ここで楊も会話に参加?!」
「大方、霧崎さんと喧嘩して家に帰ってもむかつきが収まらなくて不貞寝してたってとこかな」
「なんで完璧にわかってんだよ!」




