表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/100

シーン43:ドアの閉まる音が響いた

 響が霧崎の部屋で泣いた日の、次の日の昼休み。いつものように霧崎は文芸部に避難し、そこで弁当を食べた。食べ終わって五分ほどしてから雨宮がやってきた。

「よっ」と雨宮は右手を上げた。

「ども」霧崎は文庫本から顔だけを上げた。

 霧崎は文庫本に戻り、雨宮は机の上に教材を広げた。


 霧崎が雨宮家に行かなくなってから、雨宮は毎日ここに来ていた。霧崎となにか話すこともあれば、机にノートと教科書を広げて勉強していることもあった。

 なぜ霧崎が雨宮家に行かなくなったのかについては、訊ねない。


「雨宮さん、一つだけ報告があるんだけど」しばらくしてから霧崎が顔を上げて、雨宮を見た。

「妹から相談がありました」

「あ、そう」雨宮は目に火をともして問題を解いている。数学の問題だ。

(……さっきの授業はいまいち理解できなかった。このまま理解できないままにしていてなるものか。そう、頑張れ美緒。ちゃんと授業の予習復習さえしておけば、定期テストなんて怖くない。優等生の仲間入りだって夢じゃないよ。だから頑張れ、頑張るんだ美緒――)

「聞けよ!」霧崎は大声を上げた。「なにトリップしてんだよ!」

「なんだよ霧崎。邪魔すんなよな」雨宮は首をポキポキと鳴らし、指をカクカクと鳴らした。

「真剣と書いてマジ?うぁあ……、ヒョウだ、雨宮さんの背後に獲物を見つけた豹の姿が見える」

「うるさい子にはおしおきが必要かな?」

「うぎゃああああああああああ!」部室内に断末魔の叫びが響き渡った――


「という冗談は置いといて」雨宮は平常に戻った。

「あ、終わり?」霧崎も戻った。

「えと、妹さんの悩み、解決したって?」

「うぅん………、解決ってわけでもないようなそうでもないような……」

「はっきりしろよ!」

「おれが相談されて、響が泣いて、そんだけ」

「泣かせたの?」

「勝手に泣いた」

「ふーん?」

「雨宮さん、おれ、どうしたらいいのかな」

「知るか」

「ちょ、友達なんだからさ、相談くらい乗ってよ」

「だってさ、あたしにはなんの材料もないんだよ」

「そりゃそうだけど」

「霧崎はどうしたいの?」

「おれ?おれは――まだ、響の近くにいたい」

 雨宮はため息をついた。「じゃ、そうしたらいいだろうがよ」

 霧崎は少しむっとした。「そんな風に言わなくても!」

 雨宮も霧崎を睨みつける。「あたしにどうしろってんだよ。これはあんたの問題だろが!ちゃんと、普段使ってない頭フル稼働させて、自分で考えやがれ!」

「ちょっと相談に乗ってくれるくらいいいだろ!」

「うるせえ!あたしはあんたのお守りやってんじゃねえんだ!」

「相談するのがなんでお守りになるんだよ!」

「あんたは頼りねえからだよ!」

「………」

「なんだあっ!」

「雨宮さん」霧崎は冷ややかに言った。「ここ文芸部だから、関係ない人は出てってくれませんか?ここ、ぼくの部室なんで」

 その言葉に、雨宮は完全に頭に血を上らせた。

「てめえ、来てもいいって言ったじゃねえか!」怒りに、身を震わせている。「あたしは、他人じゃないって!」

霧崎は冷たい姿勢を崩さない。「それはぼくの友人だから言ったんであって、相談にも乗ってくれない薄情な人は除外されるんだよ」

瞬間、弾かれたように雨宮が立ち上がった。

雨宮の座っていた椅子が、音を立てながら倒れる。

 霧崎のところまで走りよる。

 霧崎を睨みつける。

 霧崎も雨宮を見据えていた。

 雨宮は手を振り上げた。

 ………

 ――手は振り下ろされなかった。

 雨宮は振り向くと、黙って部室から出て行った。

 ガンッというドアが閉まる音が響いた。



 昼休みが終わる時間が近づいてきた。

 霧崎はずっと文芸部の椅子に座ったままで、他人事のように響き渡るチャイムをただ茫然と聞いていた。

 雨宮は誰もいない校舎の裏影で、ぬぐってもぬぐっても流れてくる涙をひたすらぬぐい続けていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ