表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/100

シーン35:会話がぶつ切り

 靴置き場で確認すると、まだ雨宮は帰っていなかった。リビングに顔をだしてみると、雨宮どころか誰もいない。みんな自分の部屋にいるらしい。

 そんなこともあるのか、と思いながら、台所に行き、スーパーで買ったものを仕分けした。ジュースや肉などは冷蔵庫に、スナック菓子はお菓子置き場に。頼まれていた洗濯用洗剤は、洗濯機の横に置いた。

 それからリビングに戻ってソファに座った。いつもなら美羽か美久のどちらかがいて、霧崎の相手をしてくれるのだが、今は誰もいない。

(もう客って感じでもないか)

 そもそも、誰かいたとしても、もう誰も霧崎のことを特別扱いしない。当然そこにいる空気のようにして扱われる。さびしい気もするが、うれしいことでもあった。

「とはいえ、一人じゃすることもないな」

 なんとはなしに窓を見上げてみた。雨はまだ降り続いている。雨は好きだ。静かに心が洗われるような気がする。陽気なのは、あまり好きじゃない。

 リビングのドアが開いたので、霧崎はそちらに目を向けた。そこから出てきたのは、意外なことに楊だった。

「ああ、霧崎さん。来てたんだ」楊は台所の方に行き、冷蔵庫からジュースを取り出し、机の前に座った。ちょうど、机を挟んで霧崎と正対する場所になる。

「珍しいですね。他に誰もいないなんて」

「ほっとかれてるんだ」

「信頼されてるんですよ、それだけ」楊はジュースを一口すすった。「霧崎さんもなにか飲む?」

「ああ、いや、自分でとってくるよ」霧崎は腰を上げると、冷蔵庫に行き好きなジュースを持ってきた。

「もう完全にうちの人ですね」

「ん。ああ」『お客様』が好き勝手に冷蔵庫をあさることは普通ないだろう。「確かにね」

「昨日来なかったですよね。なんか用事でも?」

「いや、ぼくは別に毎日来てるわけじゃないから」

「来てくれた方が、ありがたいです。美羽も美久も喜ぶし、姉貴も喜ぶから」

「……そうかな」楊の率直な物言いに、霧崎は照れた。誰かに必要とされることなど、今までにあまりないことだった。

 それにしても、楊くんと会話できるようになったな、と霧崎は思った。いつもなら途中で楊の注意がそれて、会話が成立しなくなっているところだ。

「でもそれなりに節度は持ちたいと思ってるからね。毎日来るってわけにはいかないよ」

「………」

 楊はジュースを見つめたまま停止していた。

「ちょっと会話が続いたと思ったら、これかよ……」案の定、今回も会話不成立となってしまった。どんな学校生活送ってるんだろう、この子。

「楊くん、好きな教科は?」

「…」

「もう宿題はやった?」

「…」

「部活入らないの?」

「…」

「趣味は?」

「…」

「小説とか読まない?」

「…」

 霧崎は適当に話しかけてみた。もちろん応答は期待してない。むなしい行為だが、なにか反応があればもうけものだ。どうせ暇な身なのだ。

「好きな娘とかいる?」

「霧崎さんは?」急に返事があって、びっくりした。まったく、楊くんのスイッチ切り替えポイントはわからない。楊のほうを見ると、ジュースに口をつけているところだった。活動再開だ。

「霧崎さん、人で遊ばないでほしいな」

「そもそも、急に会話をぶつ切りにする人が悪いと思うな」

「集中力の切り替えが上手く行かないんですよ」楊は少しだけ、苦いものを噛んだような表情をした。「急にどっかに集中がいっちゃって、他のものに注意がいかなくなる」

「自分でコントロールできないの?」

「残念ながら」

「そっか」それは生活していく上で大変だろう。

「ま、なんとかやってますよ。家族に迷惑かけるのは、申し訳ないと思ってるけど」

「迷惑なんてかけてないと思うけど?」

「会話がぶつ切り」

 ああ、と霧崎は納得した。「確かにそれは少し迷惑だな」

「でしょ?」楊は軽く笑った。

「で、さっきの質問だけど、霧崎さんの好きな人は?」

「質問したのはぼくが先だろ?」

「年功序列で、霧崎さんが先に答えるんですよ」

「なんだそりゃ」

「やっぱ、姉貴ですか?」

「……、答える義務はないと思うな。楊くんの反応があるかなーと思ってした、テキトーな質問なんだから」

 霧崎は楊を見た。楊はジュースを見つめたまま止まっていた。

「また停止かよ!!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ