表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/100

シーン34:赤い傘

 霧崎は雨の道路を歩いていた。水たまりが各所にできているのを、巧みに避けながら歩いた。

 車が背後から走ってきた。脇に避けて通す。そこは小さな道路で、歩道はおろか、白線もない。

 車はすっと霧崎の横を通り過ぎて――水たまりだ――タイヤが水たまりに勢いよく侵入し、小さな水しぶきをあげた。

「あ」その真横にいた霧崎は、ズボンの右半身をびしょ濡れにされてしまった。

 そんなことには気づかないまま、車はどんどん行って見えなくなってしまった。

(……別に文句言う気もないけどね)

 しっとりと湿ったズボンが足に張り付いて、冷たかった。しぼろうかとも思ったが、それほどの水量ではない。しかし、簡単に乾きそうでもない。

 やれやれ。

 また歩き始めようとすると、背後から声がかかった。聞き覚えのある、元気な女の子の声だ。

「ダセえなー、ハガネ」

「美羽ちゃんか」

 霧崎が振り返ると、そこにはランドセルを背負い、赤い傘を差した美羽の姿があった。小学校の帰りらしい。

「まだ帰ってなかったの?」霧崎は放課後になってから、一旦家に帰り荷物を置き、それから雨宮家に赴こうとしているところだった。小学生はとっくに帰宅済みの時間だろう。

「まーな」美羽はやれやれといった表情をする。「うちの先生はきびしくてさ。宿題忘れると、こんな時間まで残されるんだよ」

 自業自得だな、と霧崎は思った。「しょっちゅう宿題忘れてるんだろう」

「なんでそう思うんだよ」

「前にも――図書館行った日か。学校から出てくるの遅かったからさ」

 美久はチッと口を鳴らした。「どうでもいいこと覚えてんな」

「まあね」

「あねきは、一緒じゃねーのか?」美羽は霧崎がスーパーの袋を手に提げているのに気づいた。「それは?」

「雨宮さんは図書館の仕事があってね。だから買い物はぼくが頼まれた」

「なんかいいように使われてんなー」

「まあね」

 車が来たので一旦止まり、端に避ける。水しぶきがかかったのを思い出して、周辺の水たまりを確認する。大丈夫、しぶきが上がりそうな水たまりはないようだ。

 車が無事通り過ぎて、また並んで歩き始めた。霧崎の隣を真っ赤な傘が歩いていく。

「ハガネはさー、高校生だったよな」

「雨宮さんの同級生だから、そうなるな」

「ハガネだって、宿題あんまやってねーんだろ?やっぱ、かなり怒られんのか?」

 霧崎はまあねといって、自分の耳を示した。「耳を引っ張られる」

「ああ、なんか赤くなってんな」

「けど、居残りよりはマシだと思うけど。いっとき痛いだけで済むからなあ」

「あたしもその方がいいな」美羽は柄を握って傘を回した。美羽を中心点とした円を作るように、しぶきが飛んだ。「あたしも早く大人になりてーなー」

「そうかな。いいことあんまないよ、高校なんて」

「ハガネは子どもの辛さしらねーんだよ」

「そんなもんかなあ…」

 美羽は空を仰いだ。顔に雨が落ちてきた。――冷たい。

「……大人になれば、あねきにも楽させれるしなー……」

「ん?なんか言った?」

「なんでもねーよ」傘を戻して、袖で顔をぬぐう。

 前方に雨宮家が見えてきた。美羽が、ふう、と肩で息をついた。「やっと家か……」

「美羽ちゃん、年寄りみたいだな」霧崎が笑った。

「なんだよ。そんな言い方ないだろ」

「あれぇ?早く大人になりたいんじゃなかったっけ?」

「ばーか。それとこれとは別なんだよ」

 言うと美羽はタタっと走っていって、雨宮家のドアを開いた。「ただいまぁ!」という元気な声が、通りの方まで響いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ