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シーン33:昼休みの文芸部部室

 季節が少しだけ進んで、日本中を梅雨前線が覆った。連日雨が降り、厚い黒雲が日本中を陰気にした。

 コンビニで傘が飛ぶように売れ遠足は中止になりサラリーマンは駅で傘をゴルフのように振り洗濯物は乾かず野球部は校舎の階段を往復しバスケ部は体育館の湿気で転んだ。

「文芸部にはなんの影響もない」霧崎は呟いた。

「なに?」雨宮が目を上げた。

「なんでもございません」

「邪魔するなよな霧崎」

 昼休みの文芸部部室には、霧崎と雨宮だけがいる。霧崎は部屋の片隅で文庫本を開き、雨宮はその日だされた宿題をしていた。

「ま、こんなもんかなあ」きりをつけて雨宮は顔を上げた。午前中の授業で出された宿題は少なく、昼休み中に終わってしまった。

「あ、終わった?じゃ、ようやく質問ができるようになったわけだけど、なんで雨宮さんがここにいるの?」

「だって、霧崎だけ一室を占領できるなんて、ずるいじゃん」

「ずるい?」

 霧崎は文芸部部長として、部室の鍵を持っている。極論すればいつでも霧崎はこの部屋を使えるということになる。

「それは、ずるい」と雨宮は言った。「それに、なんで霧崎は昼休みにこんなとこにいるんだよ」

「理由はだいたいわかるでしょ」

「わからないなあ。霧崎の口から聞きたいなあ」

「雨宮さん、それはいじめの一種かなにかですか?」

「えええぇぇ。なんですかそれぇ。なんでそんなこと言うのか、美緒、全然わかんなぁい☆」

「………友達いないから、教室にいたって、浮くだけだからだよ」

「はい、よくできました。だからかわいそうっつーことで、雨宮お姉さんが来てあげてんだよ」

「お姉さんてなんだよ………」

 来て宿題するだけじゃ意味ないだろ、という言葉を霧崎は飲み込んだ。そんなことを言ったら、誰かに構って欲しかったことになってしまう。そんなことは断じてない。ないと思う。

「言っとくけど、誰か呼んだら怒るよ」

「どういうこと?」

「文芸部の部室は、文芸部の部員だけが使うもんだ」

 要するに、ここはおれだけの場所だ、と言っているらしい。排他的なことこの上ない考え方だ、と雨宮は思った。

「そんなんだから友達できないんだよ」

「いいよ別に…。必要ないじゃん、他人なんて」

「卑屈だね」

「悪い?」

「悪かないよ」

 霧崎は本に目を戻した。もう少し読み進めようと思っていると、予鈴がなってしまった。あと5分で掃除が始まる。仕方ないと本を閉じた。

「ねえ霧崎」

「なに?」

「あたしたちは、霧崎にとって、他人?」

 あたしたちとは、雨宮家のことだろうか、と霧崎は思った。

 霧崎にとって、雨宮家の人々も拒絶の対象なのか――。

「……雨だから、掃除も大変そうですなあ」霧崎は窓を見上げた。雨が窓に幾条もの跡を作っていた。

「あたしは屋外掃除だからね。なおさら大変」

「サボれるんじゃない?雨のせいにして」

「そういうわけにはいかないよ」

 真面目だからな、と霧崎は思った。

 さて、そろそろ行きますか、と雨宮が腰を上げた。大きく伸びをして、部室の入り口の方へ向かう。霧崎も立ち上がった。

「ああそうだ」雨宮が振り返った。「たまにここに来てもいい?文芸部じゃないけど」

「だめと言ったら?」

「締める」もちろん霧崎の首を。

「それは怖いな」霧崎は笑いながら雨宮に追いつく。「別にいいんじゃない?雨宮さんは他人じゃないし」

 ほう、と雨宮は歓声を上げた。

「なかなか素直じゃねーか。霧崎のくせに」

「…くせにってなんだよ」


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