シーン28:市の広場
バスは橋の上に止まった。ちょうど川の真ん中の部分に、バス停は配置されている。
降りた目の前を流れが走り、両脇は草が微かに生い茂った道になっている。散歩にはもってこいなのか、犬を連れた散歩者が幾人か見られた。
バスを降りた人間が目にするこの風景が、霧崎は好きだった。それは触れることのできない一枚の絵で、霧崎のいる世界とは別世界であると錯覚させてくれた。
川の流れは緩やかだった。大雨の際には川全体に水がみなぎり、激流となる。
この前の大雨の際にも、激流となったはずだ。激流を通り越して、浸水被害もあったかもしれない。その水は、今はもう引けてしまっているようだった。月日が経つのは早い。
「図書館なんてねーじゃんか」霧崎が見ている川のほうを見ながら、美羽が言った。
「回れ右」
135度くらい回転した先に、木が生い茂っている広場があるらしかった。
あそこだよ、と霧崎は入り口の方を指差した。
「あそこに市の広場があって、その中に図書館があります」
「じゃ、行こうか!」美久が活き活きと歩き始めた。
「――の前に」霧崎は二人を先に行かせておいて、バスの帰りの時刻を見ておいた。遅くなる前には帰らないとな。
二人に追いつくと、二人は広場入り口の施設案内看板を見上げていた。
「けっこう広いところなんだね」美久が驚いていた。
図書館以外にも、体育館、プール、テニスコートなどが入れられており、すべり台やジャングルジムのある、子どもたちが遊ぶための公園もある。外周が木々と花壇に導かれたジョギングコースとなっていた。
霧崎は図書館のある位置を確認して、歩き始めた。
――と思うと、なにかに気づいたように立ち止まった。
じっと先の方を見たまま動かない。
美羽と美久は怪訝に思って霧崎の顔を覗き込んだ。
「どうしたの?」
「いや、なんでもないよ」霧崎はかぶりを振ってまた歩き始めた。
なんだろうと霧崎が見ていたであろう先を確認してみると、そこには二、三人の人間が歩いているだけだった。いずれも年配者で、霧崎の友達とも思えない。
さらに向こうには自転車置き場があり、さらに先にはテニスコートがあった。テニスコートは金網に覆われていて、プレイしている人間の顔まではよくわからない。
「知ってる人でもいたのかな?」
「ハガネの考えることはわかんねーよ」
二人は頭の上に?マークを出現させながら、霧崎のあとを追った。
霧崎は図書館の入り口の前で振り返り、美羽と美久を待っていた。二人は小走りになりながら、霧崎に追いついた。軽く息をつく。大人が歩くのは速い。
「ここが念願の図書館なわけだけど、二人とも、騒いじゃ駄目だよ」
「うん。わかってるよ」美久は笑顔で応じた。
「美久ちゃんはあんまり心配してないけど、元気娘の君、特に頼むよ」霧崎は念を押すように美羽の頭にポンと手を置いた。
「だいじょうぶだいじょうぶ心配すんなって」美羽は豪快に霧崎の腰をバンバンと叩いた。
「………大丈夫かなあ」




