シーン27:成績はどうなの?
霧崎と美羽と美久は市立図書館に向かって歩いていた。バス停まで行って、バスに乗る。全行程三十分足らずだ。
「で、美羽ちゃん。なんで遅れたの?」霧崎が訊ねた。
「えっ………、そんなこと、どうでもいいじゃんか!」美羽は顔をそむけた。
「まあ、ちゃんと謝ったんだから、いいんだけどさ……」言いたくない事情らしいな、と霧崎は思った。言いたくないことくらい、誰にでもある。
「ねえおにいちゃん。図書館って、どういうところ?」
「どういうところって、たいした場所ではないよ。学校にある図書館となにも変わらない」
「えーっ。そんなのつまらないよ。絶対、もっと、すごいところだよ!」
「………すごいところってなんだ?」見ると、美久は陶酔しているように目を空に漂わせていた。いったいこの娘はどんな想像してるんだ?金銀財宝でも埋まった図書館か?
「………、美久ちゃんはなんか目当ての本とかあるの?」
「いや、ないよ。ただ行ってみたかっただけ」
「ふうん。行ったことない場所に行ってみたいという気持ちは、わからないでもないけど…」期待しすぎなのはどうかと思う。
「美羽ちゃんは本読まないの?」霧崎は美羽に水を向けてみた。
「あたしは国語の授業だけで充分だよ」
「その言葉からすると、国語の授業はちゃんと受けてるってことになるけど」霧崎は疑りの眼差しを向けた。「美羽ちゃんて、学校の成績はどうなの?」
「悪くねーよ」
「よくもない、か」
「なんだよ。じゃあハガネはどうなんだよ。」
「国語だけは、得意だよ。クラス順位一ケタ」
「他は?」
「……国語以外に必要な勉強なんてねえよ」
「自分勝手なこと言ってんじゃねー!」
「美久ちゃんは勉強得意そうだねえ」霧崎は美久の方をむいた。
「えっ?得意ってことはないけど」
「美久はすごいよ。このあいだ、全教科90点台だったもんな」
「ちょっと、美羽ちゃん!」美久は赤らんだ。
「ほんとのことだろ。あねきもすごいねって言ってたじゃんか」
なるほど、人は見かけによるもんだ、と霧崎は思った。
「雨宮さんはどうだったっけ、成績」
姉のことを聞かれて、妹たちは顔を見合わせた。「…わからない」
「そっか…………。かわいそうな雨宮さん。家族にも自分のこと興味もたれてないなんて!雨宮さんは家族のこと大好きなのに、家族のほうはそうでもないという悲劇!ああ、世の中はなんて悲しいんだろうね………」
「そうだよね!あたし、なんてひどいことを!」美久は真面目に傷ついた。
「………ていうか、あたしら子どもなんだから、あねきの成績知ってなくても、仕方ないんじゃね?」
「当たり前だよ。妹にわざわざテスト結果教える姉が、どこにいるんだよ……。美久ちゃん、ぼくの冗談に、真面目に反応する必要ないからね」
そんな話をしながら歩いていると、少し前にバス停が見えてきた。道路の方を見ると――この時刻に到着するバスが後方を走ってきていた。
「走らないと遅れそうだな。まったく、誰かさんが遅刻するから…」霧崎は美羽のほうを見た。
「なんだよ、遅れなかったら、逆に時間が空きすぎてたんじゃん!」美羽も霧崎に食ってかかる。
「二人とも、けんかしてる場合じゃないよ。走らないと!」
美久の言葉に、二人は走っているバスに目をやる。バスは今にもバス停に到着しようとしていた。
「だね!」
「だな!」
三人顔を見合わせると、一斉に走り出した。




