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シーン26:図書館に

 校門を出た女の子が怪訝そうにこちらを窺っている。視線を向けると、目が合った。その瞬間、女の子はビクっと顔をそむけ、駆けていってしまった。

 はぁ、と霧崎はため息をついた。おれは不審者扱いか。

 それも仕方がないだろうと思う。小学生にしてみれば、ぼくは得体の知れないおじさんだ。それが、小学校の校門の前に佇んでいるんだからな。警戒しないほうがおかしい。

 それでも明らかに怖いものを見るような目で見られるのは、ため息をつかざるをえない。

 霧崎は今、美羽と美久の通う小学校の、正門前にいた。美久が隣にいる。時刻は四時十分。太陽はまだ橙に染まっていない。約束の時刻を、もう十分オーバーしている。待ち人はまだ現れない。

 代わりに、霧崎を不審者扱いする視線だけが通り過ぎてゆく。

「………美久ちゃん、美羽ちゃんはほっといて、もう行かない?」霧崎は傍らにいる美久に提案した。

「うーん。確かに美羽ちゃん遅れてるけど、もうちょっと待ってあげようよ」

「だよね………」そういう会話をしている間にも、子どもたちは校門から出てきて、霧崎を怖い人扱いして去っていく。「………はあ」


 霧崎が雨宮家を二度目に訪ねてから、数日が経過していた。昨日の夕食を終えたあと、霧崎は美久と美羽を市立図書館に連れて行く約束をした。

「ねえおにいちゃん」夕食を食べ終え、しばし休憩していた霧崎に、美久が話しかけた。「おにいちゃんって、本が好きなんだよね」

「一応ね。これでも文芸部だからさ」

「ブンゲイブ?なにそれ?」

「いい質問だね。文芸部というのは、入部すると、放課後自由に使える部屋がもらえたり、私物を保管する場所がもらえたり、昼休みにわいわいやってるクラスに居づらくなったときに逃げ込める部屋がもらえたりする部活なんだよ」

「???」

「美久、要するに、霧崎はさびしいやつだってことだよ」雨宮が口を挟んだ。「つまり部員おれ一人だから部室自由に使えるんだぜやっほう、ってことだろ?肝心の活動内容は?」

「知らね」

「お前な」

「………だって、活動内容教えてくれる先輩とか、いなかったし。だから基本的には、本を読む部かな」

「そんな部必要ねぇ!」

「えーと、とにかくおにいちゃんは、本が好きな人なんだよね!」美久が話に復帰した。

「ああ、美久も本好きだったよね」

「うん。だから………、おにいちゃん、市立図書館って、行ったことある?」

「あるよ」霧崎が答えた。

「あたしはないの」

 だから連れて行って、ということかと霧崎は思った。「今度連れて行ってあげようか?」

「明日、連れてって」いつになるのかわからないのが嫌だといわんばかりに美久が答えた。

「いや、明日は」平日だし、と続けようとしたが、美久が懇願の眼差しでこっちを見ていることに気づいた。「………わかったよ。明日連れてくよ」霧崎は断れなかった。

「おにいちゃん、ありがとう!」美久は満面の笑みを見せた。

「なー美久。あたしもそれに付いてっていいか?」いままで興味なさげに話を聞いていた美羽が言った。

「ん?美羽ちゃんも本好きなの?」

「じゃないけどさあ。美久もハガネもいないんじゃ、家にいてもつまんねえし」

「図書館も面白いところではないと思うけどね。ま、一緒に行こうか」


 霧崎はまた時計を見た四時三十分。美羽はもう半時間も遅れていることになる。「はあ…」

「おにいちゃん、ため息ばっかり」

「待つのは別にいいけどね。こうも不審者扱いされちゃ……」今もまた校門から女の子が一人現れ、霧崎のほうをごみを見るような視線で見つめ――

「って美羽ちゃんじゃねえか!」

「ああ、なんか変態みたいなやつがいるなーと思ったら、ハガネかー」

「………遅れた上になんていいざまだ」

「美羽ちゃん、もう!ちゃんと謝らないと」

「じょーだんだよ。遅れてごめんな、美久に、えーと、そこの不審者みたいな奴」

「………本気ですねるぞ、もう」


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